7 / 25
ランチ友達【友香視点】
しおりを挟むノートをなくしてしまったけれど、多分学校のどこかにあるだろう。
下手したら、私のモノだって発覚してて、うわさになってるかも――って、自意識過剰かな。
本当は学校に行きたくなかったけど、家にいるのも嫌だったのでとりあえず行った。
しんどくなったら保健室で寝ててもいいか。
教室に着くと、私の姿を認めながら挨拶もしない(私もしないけど)女子たち、というのも含め、全くいつもどおりだった。
好きじゃない科目の授業で身が入らないのもおんなじ。
でも、今更外部受験するのもしんどいので、ちゃんと高等部に上がれるように、成績はキープしている、つもり。
朱夏だって十分、優秀ですねって言われる学校なのに、ママは理想が高いから、外部受験となったら、私立にしろ公立にしろ、もっとずっと高いレベルのところを望むだろう。
お金なくて借金返せなくなってる人に「お前は信用できないから、今すぐ全額耳そろえて返せ」って言う人みたい。
少し長い業間休みのとき、岡田が「原口さん、来客だよ」って声をかけてきた。
「来…客?」
もちろん意味は分かるけど、学校でそうそう聞く単語じゃない。
「F組の十三沢。知ってる?」
「ああ…」
役立たずの神様(笑)じゃん。私と百瀬が部室で何してるのか知っててとぼけてたやつ。でも、あいつが私を知っていたのは意外だった。
廊下に出ていくと、十三沢が「ここではちょっと人目があるから…こっちに来てくれないか?」と、教室から少し離れた場所まで誘導した。そして、
「これ――図書室の松喜さんに頼まれて、君に渡してくれと言われた」
十三沢が持っていたのは、あのノートだった。
「閲覧机のところに忘れていっただろう?」
そうか。あのときは十三沢と目が合ってあわてて出たから、何も書かなかったけど、机の上には出していたっけ。
十三沢、中見たのかな?
「あ、ども。じゃ…」
中見た?って聞きたかったけど、反応が怖くて聞けない。そのまま立ち去ろうとしたら、「あ、原口」と呼び止められた。
「何?」
「あのさ、俺と友達になってくれないか?」
「はあっ?」
◇◇◇
「十三沢、ひょっとして…この中身読んだ?」
「できれば読んでない、って前提で考えてほしい」
は?何言ってんのこいつ。
「何かわかんないけどお断り。面倒くさい」
「断ると、もっと面倒くさいことになるかもよ?」
「え?」
「俺が君のノート読んでないって信じられるなら断りなよ。でも少しでも疑念があるなら、言うこと聞いておいた方がいいよ」
「…脅す気?」
「それは君次第だね」
十三沢はものすごく清々しくニコニコ笑っているけれど、話してる内容が黒い。
男ってこんなのばっかり!なんて、利いたふうなことを言う気はないけど、あの「いとこのお兄さん」だって、最初は優しかったっけ。
「分かったよ。で、具体的にどうすればいい?」
「そうねえ…じゃ、まず昼飯を一緒に食おうよ。昼休み迎えにくるね。じゃっ」
「ちょっ…」
十三沢は手を振って言ってしまった。
人目につかないところで話していたとはいえ、私が呼び出された現場を見ていた人もいるし、十三沢は結構人気のある男子だ。
私は好みじゃなかったからノーマークだったけど、育ちのよさそうな顔してて、成績もいいし、この間まではバド部で頑張ってた上、ケガがもとでやめちゃった後は「カワイソー」って同情票も集まってる。
教室に戻ると、「原口さん、十三沢君と付き合ってるの?」
って、割と本気の形相で迫ってくる子もいた。面倒くせっ。
「違うよ。図書室の松喜さんから言伝があったって。私も十三沢も常連だから」
とっさにしては、いいうそ(ってわけでもないけど)が出てきた。
十三沢には興味あっても、図書室には興味のない子だったみたいで、「そっ」で済んで助かった。
◇◇◇
で、2時間後には、すっかり忘れてたんだけど、十三沢が弁当を持って教室に来た。
「原口、弁当は?」
「購買でおにぎり買ってくる」
「そうか。じゃ、一緒に行くか」
好きなタラコは売り切れだったので、シャケを1個だけ買った。
ここのおにぎり、具はめっちゃしょぼいんだけど、コンビニより安くて1個90円で買えるのがうれしい。
私はいつもお昼を、屋上に出る階段の踊り場のところで食べる。
ちなみにママからはいつも300円くらい持たされるけど、食べない日も多いから、地味にお金がたまりつつある。
屋上の出入り口はいつも施錠されてるから、誰も用事がないので、ここまで来る人って意外といないんだ。教室からも割と近いし。
「こんなところで食うのか?」
「嫌なら教室戻りなよ」
「まあ…いいが」
私は体育座りで、十三沢は座禅みたいにあぐらをかいて、ウェットティッシュで手を拭いた後、「いただきます」って手を合わせた。
私はおにぎり1個とお茶だけだから、あっという間に食べちゃった。
そうしたら十三沢が、「これ、食べてみろ」と、卵焼きを勧めてきた。
「え…」
私が戸惑っていたので、十三沢はあさっての方向の心配を口にした。
「卵、食えないか?アレルギーとか…」
「そういうのは多分ない」
私が戸惑ったのは、十三沢のしぐさの方にだった。「これ、食べてみろ」って、お弁当箱の中を指したんじゃなく、箸でつかんで私の方にぐっと突き出してきたんだ。
何これ、「あーん」しろってこと?
「あの――ここにちょうだい」
私は左手を差し出して、卵焼きを受け取った。
何これ。めっちゃおいしい。
おばあちゃんの甘い卵焼きと違って、かなり薄い塩味なんだけど、何でこんなにおいしいの?
「すご…味薄いのに…何で?」
「だし巻きだ。だしの味が濃いんだよ」
「へえ…お母さんが作ったの?」
「弁当は母か祖母が作ってくれている。今日は祖母だったみたいだ」
「おばあちゃん…十三沢、おばあちゃんのこと好き?」
「そうだな。ちょっと厳しい人だが、尊敬しているよ」
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる