Lavender うっかり手に取ったノート

あおみなみ

文字の大きさ
14 / 25

お宅訪問【友香視点】

しおりを挟む

 女の子の友達(もうほぼいないけど)との約束だったら何も考えずにお気に入りの私服を着ていけたけど、十三沢との約束に一体何を着ていったらいいか分からない。
 男子相手だからというより、十三沢相手だからかな。

◇◇◇

 無難に制服かなあ。私服ダサいとか思われたら嫌だしなあ。
 十三沢の家の沿線ってほとんど行ったことないけど、オシャレそうなイメージだ。
 ダサいと思っても口に出す人ではないと思うけど、一緒に歩いて恥をかかせるのも不本意だし。
 あれこれ悩んで、制服の夏用のスカートと私服の半袖パーカーを組み合わせて、パーカーと同じ色のソックスを履いた。色も工夫したし、多分そんなにおかしくない――と思う。私服というより、制服の着崩し。靴は真っ白いスニーカー。

 ママには「そろそろ荷物まとめなさい」って言われたけど、「8月になってからやるから」って言ったら、あとは何も言わない。
 というよりも、あの“話し合い”以来、私に何か命令したり注意したりするときの声の調子がとっても弱目だから助かる。
 以前は「無関心だけどとりあえず」っぽさがにじんだ言い方だったけど、今は何となくおっかなびっくりなんだと思う。
 大体、私は自分のものをまとめればいいだけだし、家具も最低限でいいとおばあちゃんに言われている。

 とりあえず、十三沢が誘ってくれたのが7月中で助かった。
 8月になったら、きっといろいろ忙しいと思う。

◇◇◇

 十三沢は約束の場所に、紺色のポロシャツとチノパンという格好で待っていた。
 確かにジーンズのイメージはなかったけど、そう来たか。
 いつもより少し大人っぽく見える。何だか大学生みたい。

「来たな」
「うん、待たせてごめん」
「そんなことはない。まだ10時55分だよ」
「…」

 急に恥ずかしくなって、何を言ったらいいか分からなくなった。
 デートなんてしたことないけど、待ち合わせってこんな感じ?

「じゃ、行こうか?」
「どこに?」
「まずは俺の家で準備だ」
「え、どういうこと?」
「行けば分かる」

◇◇◇

 十三沢はおじいさんやおばあさんとも一緒に暮らしていると言っていたけれど、なるほど大きな家だ。

 それも昔から住んでいるんだろうなあという、ちょっと古そうだけど、立派な日本家屋。この住所あたりでこんな家に住めるなんて、ひょっとして超お金持ちだったりして。
 これ…制服をちゃんと着ていた方がまだよかったかも。

 お邪魔すると、上品で背の高い70代?くらいの女性が出迎えてくれた。おばあさんかな。

「いらっしゃいませ」
「…初めまして、原口です」

 私、声ちっちゃ!

「あらあら、随分おとなしいお嬢さんみたいだけど、挨拶は相手に聞こえるように言わないと意味がありませんよ。
 はい、やり直し」

 こんな注意されたの初めてだけど、嫌な気持ちではなかった。
 別に嫌みったらしくないし、しゃんと背筋の伸びたかっこいいおばあさんにぴったりの口調。

「初めまして、原口友香です。よろしくお願いします」
 私は全てに「!」が付きそうな勢いで声を張った。
 恐る恐る顔を見ると、にっこり笑って「素直でいいお嬢さんね」と、私の頭をなでた。

 私のおばあちゃんも、昔はよくこんなふうにしてくれたけど、今は私より10センチも小さいので、頭をなでるまではしない。
 照れくさいけど少し懐かしいような、うれしい気持ちになった。

◇◇◇

 十三沢の部屋は8畳の和室で、イメージどおりすごくきちっと整理されている。
 机、ベッド、クローゼット以外、目立つものはあまりないので、「見せない収納」派なんだろう。ぬいぐるみとかフィギュアとかもないし、ポスターすら貼っていない。
 オーディオっぽいものはないけど、音楽はPCで聴くのかなって思ったら、そもそもあんまり音楽というものを聴かないらしい。

 部屋の真ん中に、折り畳み式のテーブルがちょこっと置いてあったけど、明るい色でちょっと安っぽくて、部屋に全然合っていない気がした。
 十三沢が運んできた麦茶をその上に置いて飲んでいると、外から「ガク、手が塞がってるから開けて」と、女の人の声がした。
 ガク?ああ、「学」だからか。
「ちょっと待ってて」

 ドアを開けると、どこか十三沢に似た雰囲気の、これまた背の高い女の人がいた。
 多分20歳くらい?顔立ちは若いけど、雰囲気が大人っぽい。
 高校生とかではなさそう。お姉さんかな。
 肩から大きな袋をかけて、両手にバニティーケースと鏡を持っていた。

「初めまして、友香ちゃん。私、ガクの姉で十三沢まいといいます」
「は…じめまして、原口友香です」

 舞さんは私の顔をじっと見ると、「ガクの表現が意外と的確で助かったわ。友香ちゃんなら似合いそう」と満足そうに言い、「じゃ、何かあったら声かけてね」と言いつつ出ていった。
 似合いそう?何が?というか十三沢の表現って?

 十三沢はお姉さんの持ってきた鏡をテーブルの上に置き、私にその前に座るように言った。
 しかしその後、「あ、違うな。まずはこっちか…俺は廊下に出ているから、この服に着替えて、終わってから声をかけてくれ」と訂正した。

「着替える?」
「顔を作ってから着替えると服を汚すから、服が先だって姉貴が言っていた。俺もよく分からないが、言うとおりにしてくれ」
「あの…着替えるとか顔を作るとか、さっきから何言っているの?」
「今日はメイクして、おしゃれな服を着て、俺と手をつないで歩いてほしい」
「はあっ?」
「要するにデートだ」

 十三沢、暑さで頭がイカレちゃったの?

「どうしてそんなこと…」
「まあ、かっこいいカレシまでは調達できなかったので、俺が代役ということで」
「カレシって…あ…」

 そういえば、例のごみ箱ノートにそんなことを書いた覚えがある。
 目のコンプレックスのこと、デートの憧れのシチュエーション、ぼんやりした理想のカレシ…。

 この人は、情緒不安定な女子中学生の言うことを真に受けて、こんな場をセッティングしてくれたのだろう。
 そのお節介さが何だかちょっとおかしくなって、素直に言うことを聞こうと思った。
 もう十三沢には会えないかもしれないし、一つくらいこんな思い出があってもいいかもしれない。

「分かった。ちょっと待っててね」

◇◇◇

 十三沢のお姉さんが準備してくれた服は、薄紫のワンピースだった。
 白い小花を散らしたみたいなプリントで、生地が柔らかい。
 下品な派手さじゃなくて上品で華やかな感じで、きっと雑誌やカタログで見たら、ステキだなあ、着てみたいって思ったと思う。
 その現物が手元にあって、しかも私に着ていい――というか、「着ろ」と言われている。
 こんなの着こなせる自信、全然ないんだけど…。
 同じ袋にケープも入っていたから、これを付けてお化粧するのかな。

◇◇◇

「…着たよ」
 廊下の十三沢に声をかけたら、一瞬驚いたような顔をした後、「サイズもぴったりでよかった。似合っている」と言った。

「化粧品は姉のだが、ブラシとか肌に触れるものは新調したらしい。肌質も伝えたら、姉が『自分と似ていそうだから、そのまま使える』と言っていた」

 そして、「これを参考にするといい」と言って、1冊の本を渡してきた。

『ティーン はじめてのメイク モテカワ編』と表紙に書かれている。

 書店の袋から出したので、これは十三沢が買ったのかな?(どの面下げて!)

 この家に着いたときから驚かされ通しなので、今さら何を言われても驚かない、くらいのところで私のココロは落ち着いていた。

「姉の部屋ならドレッサー台があるから、いすに座ってできたな。部屋ごと借りた方がよかったかもしれないな…」
「そこまで面倒かけられないよ!」
「いや、計画を話したときからノリノリだったから、意外と貸してくれたかもしれない」
「…ここでいいよ」

「では始めるか。“原口友香美少女化プロジェクト”だ」

 十三沢が、何かとてつもなく恥ずかしい作戦名を真顔で言った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...