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サマーフルーツティー【学】
しおりを挟む「で、ゲーセン?」
「ここならプリクラが撮れるだろう?」
「プリクラって…十三沢が?」
「撮ったことがないから分からないが、男だけでは入れないと聞いた。
ということは、女のお前と同伴なら入れるよな?」
「うん、まあいいけど…」
機械のガイダンスはフレンドリーかつ懇切丁寧で、素直に従えば、結構スムーズに事が運ぶ。
「十三沢、表情カタいよ」
一応経験のある原口は、俺より慣れた様子だった。
「こ、こうか?」
試みに笑ってはみる。別に「男は三年片頬」ってほどストイックな育て方をされた覚えはないし、面白い本やテレビに触れれば笑いもするが、そういう表情を作れと言われるのは得意ではない。
「まあ、十三沢にしては頑張ったかな?」
しかし、仕上がった写真を見て、「何これー。十三沢、すっごい美人!ウケる!」と、涙を流さん勢いで笑われたのには参った。
プリクラ特有の仕様で、俺までがメイクを施したかのような顔になっていた。
原口の明るい笑い声が聞けたのは喜ばしいことだが、さすがにここまでは求めていない。
「ね、半分こしようよ」
「俺はいいよ…」
「こういうのって、撮った直後は恥ずかしくても、後で見返すのは意外と楽しいんだよ」
「不本意に撮れたやつでも、か?」
「そういうのほどお気に入りになったりするかもよ」
「そうか?じゃ、お言葉に甘えて」
***
カフェでは姉オススメの「サマーフルーツティー」というのを注文した。
甘味料も多少は入っているのだろうが、フルーツの甘味を生かした優しい味だと思った。
原口も「これおいしい!ネットで見てちょっと憧れてたんだよね」と喜んでいた。
文字や写真の情報しか知らなかったものが、実際に口に入れるとちゃんとおいしかったというのは、素直にうれしいのだろう。
「色もきれいだな。写真は撮らなくていいのか?」
「そういうのは恥ずかしいからいいよ。SNSもやってないし」
「じゃ、俺は撮ろうかな」
「え、十三沢が?」
「おかしいか?」
「いや、いいけどさ…」
俺も原口との「お出かけ」を、自覚はないが随分楽しんでしまっていたのだろう。
普段はしないことをたくさんしたという意味では、結構無理をしたが、全く興味ないことをしたわけではない。写真もそんなつもりで撮った。
「ね、十三沢」
「何だ?」
「あの、フルーツティーの写真…やっぱりちょうだい」
原口のいつになく甘えた表情と声に、多少うろたえたが、
「ああ、お安い御用だ」
と答えた。
彼女は忘れているかもしれないが、俺たちは連絡先を交換していない。
写真をくれということは、何らかのアクセスが必要になるわけだから、それに応じてくれると期待したい。
***
絵本専門店で原口が興味を示した本は、1冊2,000円もする輸入盤だったため、さすがに気前よく買うことはできなかったが、300円均一の店で、世界を旅する猫がモチーフになった小物入れを買ってプレゼントした。
「猫と犬で迷っていたようだが、猫の方が好きか?」
「犬も好きだけど、メリーちゃんかわいかったし、今日は猫の気分かなって」
「なるほど」
原口とここ数カ月、一緒に昼飯を食べたり、話したりして分かったのだが、こいつは自分の好きなものや興味のあるものについて話すとき、本当にいい顔をする。きっと根が素直なのだろう。
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