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第3話 奇妙な日常
しおりを挟む2011年は外での体育の授業もろくにできなかったし、プール開きもなかった。
原発事故の影響で、空間放射線量というやつが高くなっているからだ。
「モニタリングポスト」という、『ムーミン』のニョロニョロが直立したみたいなヤツとソーラーパネルを組み合わせたみたいな形のが公園や学校などに置かれ、常に線量が表示されている。
いつも5月に開かれる運動会は10月になって、あまり外にいなくて済むように、競技をやっていない学年は教室や体育館で待っているように言われて、お昼ご飯も教室で食べた。デザートにって持ってきてもらった梨がおいしかった。
「ここの食べ物は世界一安全なんだよ」って父や母がよく言っていてる。
放射性物質についてしっかり検査されて、少しでも「基準」を超えたものは出荷されないからだという。
それでも他県には、忌み嫌う人も大勢いる。
理屈で安全だからって言われても、感情で納得できないのは仕方ないと思うけど、デマを飛ばしてまでこの土地をsageようとするお行儀の悪い大人たちには本当に腹が立つ。
お行儀の悪い大人がウソをついて大騒ぎしたら、お行儀の悪い子供たちがそれを見習って大騒ぎするから、この土地はいつまで経ってもイメージだけで危険、汚いと言われ続ける。本当に勘弁してほしい。
+++
学校で、ガラスバッジをつけなさいって配られた。
一人一人の被曝量を測るための道具だけど、ストラップがついていて、上着の内側につけるように指導されたのに、むき出しのまま鍵っ子の鍵みたいに下げて、歩いたり走ったりするたびにピョンピョン跳ねさせている子もいた。
そういうの見ると、悪いけど「バカみたい。あれじゃスッポンポンで生活してますって言ってるようなもんじゃん」って思ってた。
休みの日も、市や県を出るときも、必ず身につけるように言われていた。
その上行動の記録を細かく書かなきゃいけなかったし(母が書いてたんだけど)、休みの日にあんなものをつけるのは邪魔くさくて嫌だった。せっかくピンクのかわいい服を着ても、首元から青いものがいつものぞいているのも嫌だったし。
だからお休みのときは、こっそりランドセルに入れっぱなしにしていたんだけど、母に見つかった。
バッジの交換のときに「うちの子には無意味みたいですので」って返したっきりにして、その後は一度もつけていない。
いつも口うるさい担任(西勝先生は震災の後すぐ異動しちゃった。大好きだったのに)にも、そのときは幸い何も言われなかった。
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