2 / 6
第2話 理解が追いつかない出来事
しおりを挟む食器を洗って、ちょっとお茶飲んで、2時少し前に家を出た。
お墓に着いたのは2時30分くらい。割とスムーズに着いた。
そのお墓には水道とかないから、ペットボトルにいっぱい水をくんで持っていって、それで花を生けたり、お墓の掃除をしたりする。
ちゃっちゃと掃除して、線香に火をつけてお墓に置いて、ゆっくり手を合わせた。
こういうとき、いつも何を考えたらいいかわかんないんだけど、「いつも見守っててください」って、小さい頃にあった記憶があるおじいちゃんと、一度も会ったことのないひいおばあちゃんにお願いする。
「じゃ、おばあちゃんところに行こうか」
って母が声をかけ、私は目を開けて、お墓にお辞儀をした。
そのとき、母の携帯からすごく耳障りな音が鳴った。
「緊急地震速報?こんなの初めて見る…」
と母が言いかけたら、地鳴りみたいなゴーっという音を体全体で感じて、地面がゆらゆら揺れ始めた。
お彼岸前の平日なので、墓地には私たちしかいなかった。
「ちょっと――これ、すごく大きくない?」
「やだ…何?」
墓石がずれて倒れてきたりしたら危ないと、駐車スペースまで逃げ、様子を見た。
揺れがだんだん強くなって怖かったけど、「大丈夫だから」って母が私を落ち着かせるように抱きしめた。
少し離れたところの竹藪が、音を立てて横揺れしているのが分かる。
「まだ車を走らせるのは怖いけど――とにかく中に入ろう」
そしてエンジンをかけて、カーラジオだけつけた。
地元の放送局の番組で、アナウンサーの男の人が、すごく落ち着いた声で避難を呼びかけていた。
スタジオにあるものとか、ガンガン落ちてくる音が聞こえてきたけど、本当にあわててなくてすごい。
『落下物に注意して、身の安全を確保してください』
『海岸沿いにお住いの方は…』
揺れは強くなったり弱くなったりしながら、10分くらい続いたと思う。
「このアナウンサーさん、すごいね。プロだね」
母が神妙な顔で言った。
墓地からおばあちゃんの家までは5分くらいだったけど、その日は家に帰ることにした。
おばあちゃんは伯母さん(母の姉)夫婦と一緒に暮らしているので、「お姉ちゃんに任せる。悪いけど自分のウチも心配だから」って。
ずっとラジオをつけて、全然おしゃべりしないで帰った。
「マグニチュード7.9と推定されます」って女性アナウンサーが言ったときだけ、母が「ひっ」って言った。
「そんな数字、関東大震災か阪神大震災でしか聞いたことないよ」って。
ラジオでは、この辺は「震度6弱」って言っていたけど、古そうな建物が崩れたみたいになっているところも幾つかあって、新しくて頑丈そうな家は大丈夫っぽかったけど、瓦屋根が落ちたりしていた。
うちがつぶれていたらどうしよう…。
+++
家の中は意外と被害が少なかった。
棚の上に置いてあった箱が少し落ちてきて、下駄箱が倒れていたくらいで、壊れたものはお皿が1枚だけ。
電気もガスも大丈夫で、電話は当日、水が翌日に止まった。
マグニチュードも訂正されて、実は9.0を超えていたみたい。
お墓で使わなかった分の水が、2リットルのペット2本分と、買ったばかりの水が6本。
お風呂に残っていた水は、トイレを流すのに使わなきゃいけない。
洗濯は小さいものだけ手洗いして、シャツやズボンや上着はスプレーをかけてつるしておいたりした。
地震が起きて大きな津波が来たせいで、少し離れた町にある原子力発電所で事故が起きたらしい。
近くにサッカーリーグの施設があって、サッカー好きの父に連れていってもらったことがある。中の売店で好きなアニメ映画のグッズ(**下記)を売っていたので、買ってもらったりした。
あのとき、「ほら、あそこに見える煙突が発電所だよ」って教えられたっけ。
よくわからないけど、「良くないことが起きた」ことだけは分かった。
**
2009~10年頃ですが、J-VILLAGEの土産物店で、我がリアル次女が、『天空の城ラピュタ』の飛行石をモチーフにしたチャームと、『となりのトトロ』のグッズを買ってもらった実話をもとにしました。
ちなみに、時期から考えて偶然とは思いますが、ジブリ関連グッズは原発事故前に、そのショップから引き揚げられたようです。
もちろん偶然と思いたい(執拗)のですが、事故後、スタジオジブリ社屋に掲げられた横断幕「原発抜きの電気で映画を作りたい(筆者傍点)」からすると、原発関連施設にグッズを置くのは信条に反するということだろうという解釈もできますので、『…トトロ』の中の名シーンにー準《なぞら》えていうのなら、「偶然だけど、偶然じゃなかった!」ってところでしょうか。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる