フライドポテト セーシュンの塩味

あおみなみ

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第2話 理解が追いつかない出来事

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 食器を洗って、ちょっとお茶飲んで、2時少し前に家を出た。
 お墓に着いたのは2時30分くらい。割とスムーズに着いた。

 そのお墓には水道とかないから、ペットボトルにいっぱい水をくんで持っていって、それで花を生けたり、お墓の掃除をしたりする。
 ちゃっちゃと掃除して、線香に火をつけてお墓に置いて、ゆっくり手を合わせた。
 こういうとき、いつも何を考えたらいいかわかんないんだけど、「いつも見守っててください」って、小さい頃にあった記憶があるおじいちゃんと、一度も会ったことのないひいおばあちゃんにお願いする。

「じゃ、おばあちゃんところに行こうか」
 って母が声をかけ、私は目を開けて、お墓にお辞儀をした。
 そのとき、母の携帯からすごく耳障りな音が鳴った。
「緊急地震速報?こんなの初めて見る…」
 と母が言いかけたら、地鳴りみたいなゴーっという音を体全体で感じて、地面がゆらゆら揺れ始めた。

 お彼岸前の平日なので、墓地には私たちしかいなかった。
「ちょっと――これ、すごく大きくない?」
「やだ…何?」
 墓石がずれて倒れてきたりしたら危ないと、駐車スペースまで逃げ、様子を見た。
 揺れがだんだん強くなって怖かったけど、「大丈夫だから」って母が私を落ち着かせるように抱きしめた。
 少し離れたところの竹藪が、音を立てて横揺れしているのが分かる。
「まだ車を走らせるのは怖いけど――とにかく中に入ろう」
 そしてエンジンをかけて、カーラジオだけつけた。

 地元の放送局の番組で、アナウンサーの男の人が、すごく落ち着いた声で避難を呼びかけていた。
 スタジオにあるものとか、ガンガン落ちてくる音が聞こえてきたけど、本当にあわててなくてすごい。

『落下物に注意して、身の安全を確保してください』
『海岸沿いにお住いの方は…』

 揺れは強くなったり弱くなったりしながら、10分くらい続いたと思う。
「このアナウンサーさん、すごいね。プロだね」
 母が神妙な顔で言った。

 墓地からおばあちゃんの家までは5分くらいだったけど、その日は家に帰ることにした。
 おばあちゃんは伯母さん(母の姉)夫婦と一緒に暮らしているので、「お姉ちゃんに任せる。悪いけど自分のウチも心配だから」って。

 ずっとラジオをつけて、全然おしゃべりしないで帰った。
「マグニチュード7.9と推定されます」って女性アナウンサーが言ったときだけ、母が「ひっ」って言った。
「そんな数字、関東大震災か阪神大震災でしか聞いたことないよ」って。
 ラジオでは、この辺は「震度6弱」って言っていたけど、古そうな建物が崩れたみたいになっているところも幾つかあって、新しくて頑丈そうな家は大丈夫っぽかったけど、瓦屋根が落ちたりしていた。
 うちがつぶれていたらどうしよう…。

+++

 家の中は意外と被害が少なかった。
 棚の上に置いてあった箱が少し落ちてきて、下駄箱が倒れていたくらいで、壊れたものはお皿が1枚だけ。
 電気もガスも大丈夫で、電話は当日、水が翌日に止まった。
 マグニチュードも訂正されて、実は9.0を超えていたみたい。

 お墓で使わなかった分の水が、2リットルのペット2本分と、買ったばかりの水が6本。
 お風呂に残っていた水は、トイレを流すのに使わなきゃいけない。
 洗濯は小さいものだけ手洗いして、シャツやズボンや上着はスプレーをかけてつるしておいたりした。

 地震が起きて大きな津波が来たせいで、少し離れた町にある原子力発電所で事故が起きたらしい。
 近くにサッカーリーグの施設があって、サッカー好きの父に連れていってもらったことがある。中の売店で好きなアニメ映画のグッズ(**下記)を売っていたので、買ってもらったりした。
 あのとき、「ほら、あそこに見える煙突が発電所だよ」って教えられたっけ。

 よくわからないけど、「良くないことが起きた」ことだけは分かった。


**
2009~10年頃ですが、J-VILLAGEの土産物店で、我がリアル次女が、『天空の城ラピュタ』の飛行石をモチーフにしたチャームと、『となりのトトロ』のグッズを買ってもらった実話をもとにしました。
ちなみに、時期から考えて偶然とは思いますが、ジブリ関連グッズは原発事故前に、そのショップから引き揚げられたようです。
もちろん偶然と思いたい(執拗)のですが、事故後、スタジオジブリ社屋に掲げられた横断幕「で映画を作りたい(筆者傍点)」からすると、原発関連施設にグッズを置くのは信条に反するということだろうという解釈もできますので、『…トトロ』の中の名シーンにー準《なぞら》えていうのなら、「偶然だけど、偶然じゃなかった!」ってところでしょうか。
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