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ひよこのおかあさん
元気を出して
しおりを挟む私は結構根気よく頑張った――と思う。
学校に行っている間は祖父に様子を見てもらったが、家に帰ってくると、まずは在宅の家族(祖父母と仏壇の曽祖父母)とピイスケに挨拶をして、餌箱や水を確認する。
土のついたものを家の台所で洗うのは、主に料理を担当している祖母が嫌がるので、外の水道で洗って水を切ったものを、祖父の部屋のサッシ戸を開けて直接持ち込んだ。祖父はその部屋にありとあらゆるものを置いていて、そこで木工仕事をしているか、部屋の前にある庭で植物の世話をしているかだった。
「あずさ、ごくろうさん」
「おじいちゃんもね」
「包丁使うの、うまくなったなあ」
「へっへー」
最初は後ろから、多分おっかなびっくり見ていたであろう祖父も、だんだん私の自由にやらせてくれるようになっていった。
祖母も、祖父から私のお世話ぶりを聞いているようで、「頑張ってるから」と、大好きなみたらし団子をおやつにこしらえてくれたりした。
◇◇◇
父と母も、何だかんだと「動物の飼育で情操教育」的なところに落としどころを見つけたようで、あの日のキツい𠮟責がうそのように理解を示し始めていた。
「だけど――そのうち大きくなって、うるさく鳴くようになるぞ?」
「そうなの?」
「お父さんの田舎で、鶏を飼っている家は多かったからね。朝早く「コケコッコー」って鳴く声が、びっくりするくらい大きくて…」
「朝ならいいじゃん。目覚ましになるよ」
「朝ならいいんだけど、たまに夜中に鳴くやつもいてね…」
「えー…」
といっても、そうなるには半年くらいかかるって言っていた。
子供の私にとっては、永遠に来ない日くらい先のことに思えていたので、あまり深刻には捉えていなかった。
◇◇◇
いつものように家に帰り、挨拶のルーティンを済ませると、祖父がちょっと深刻そうな顔で言った。
「あずさ――ピイスケな、ちょっと元気がないんだよ」
「え…?」
「えさは食べるが、何ていうか、ぐったりしているんだな。ひょっとしたら…」
私は祖父が何を言おうとしているかを本能的に察知し、「いや!」とほぼ脊髄反射のように言っていた。
「あずさ?」
「ぜったい私がよくしたげる。今日だけはピイスケのお医者さんになる!」
「あずさ…」
◇◇◇
手探りという言葉も使えないほどの、いわば闇雲といった方がいい状態だったと思う。
「光を当てる」「えさを食べる様子を見る」
この二つを私がずっとし続けていれば、ピイスケは絶対によくなるとなぜか信じ、私はご飯以外の時間はずっと祖父の作業部屋にいた。宿題も、小さなテーブルを貸してもらってそこでしたほどだ。
「無理はするなよ」
「大丈夫だよ」
祖父の作業部屋には、ラジオはあったがテレビはなかった。
しかしテレビのある部屋にピイスケを運ぶの難しい。
見たい番組があったことも忘れ、私はずっとピイスケを看続けていた。
しかし途中で寝てしまったのか、気づいたらパジャマに着替えた状態で自分の部屋の布団の中で朝を迎えていた。
あわてて祖父の作業部屋に行くと、「あずさ、よく頑張ったな。ほら、ピイスケはもうしゃんと立っているよ」と、優しく笑って見せてくれた。
「よかった…安心して学校行ける」
「あずさはすっかり、ピイスケのお母さんみたいだな」
「そうだよ!」
と元気に胸を張って答えたけれど、実は私は心の片隅で、少しだけ違うことを考えていた。
(ピイスケ…なんかうちに来たばかりのときよりかわいくない…)
体が大きくなり、羽の色も何だか白っぽくなって、何よりふわふわしていない。ただ、鳴き声はまだピイピイ言っている。
(でも、お母さんが自分の子供をかわいくないなんて思うわけないって、この間ママが読んでくれた本に書いてあった。だからピイスケはかわいい!)
小学校低学年女子の思い込みというのは、ぐったりしていた成長途中のひよこに気を使わせるらしい。
いささか非科学的だが、ピイスケは私の視線のプレッシャーに負けて、しゃんと立ったのではないか?という結論を、後々出すに至った。
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