短編集「つばなれまえ」

あおみなみ

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ひよこのおかあさん

ひよこのごはん

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 祖父以外の大人たちの予想に反し、ひよこは翌日もぴいぴい元気にさえずっていた。
 私は「ピイスケ」という安直な名前をつけ、祖父にいろいろと教えを乞うた。
 祖父は鉄道会社を退職し、いわゆる悠々自適の生活をしていたが、とにかく多趣味な人だったから、本当にいろいろなものを持っていた。

 ひよこは古い水槽におがくずを敷き詰めた中にふんわりと入れられ、その上からはだか電球が、ひよこやおがくずと接触しないように調節して置かれていた。

「どうして電球なの?」
「寒いと死んじゃうからね。電球は電気が入ると熱くなるんだ」
「なるほど~」
 正直、あのやり方が正しかったのか、今となっては分からない。
 ただ、火事などになるのを防ぐため、直接当たらないような工夫だけはしていたようだ。

 ピイスケは、何か緑と白が混ざったものを一生懸命ついばんでいたが、それは家の裏で摘んだハコベという植物だと教えてくれた。
「昨日はじいちゃんがやったけど、これからはあずさがやるんだよ。
 あと水の交換だな。できるか?」
「もちろん!」
「いい返事だ。ハコベはよく洗って水を切って、これで刻むといい」

 そう言って祖父が出してきたのは、古いザルと木のまな板、そしてやはり使い古しの幅の広い包丁だった。

「これは菜切り包丁というんだよ。台所の使うとおばあちゃんが嫌な顔をするから、ここでじいちゃんがそばにいるときだけ使うこと」
「どうして?」
「子供に刃物を持たせるのは、嫌がる大人が多いんだ。でも、ちゃんと教える人がいれば大丈夫だとオレは思うんだがなあ…」
「私もじいちゃんにさんせーい!」

 ままごとセットのプラスチックでできた包丁とはわけが違う。本物の刃物だ。私はテンションが大分上がっていたと思う。

◇◇◇

「ハコベって白い花でかわいいね。
 ひよこがかわいいから、食べるご飯もかわいいんだね」
「そうだなあ。別名「ひよこ草」とも呼ばれているよ」
「あ、そっちの方がかわいい!そっちでいう!」
「お前の好きに呼ぶといいよ」
 祖父は優しくて物知りで、しかも子供を尊重してくれる人だった。

 でも、「私のためを思って」なんだろうけど、
「だけど人間はいろいろなものを食べた方が美人で賢くなるぞ。
 ピーマンも人参も豆腐も肉も…」
「わかってるよー」
 こんなふうに、ちょっと嫌なことを言うこともあった。
 単純な上に子供だった私は、かわいいものだけ食べてかわいくいられるピイスケのことを、ちょっとうらやましいと思った。
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