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じまんのボロネーズソース
「スパゲティ食べたい」
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時々、語学の授業で顔を合わせるヒロト君に、とつぜん声をかけられた。
「あっ、あのっ、さ…この間、図書館で泉鏡花の本、立ち読みしてなかった…?」
って調子だった。
ちょっと驚いたけど、「うん。そういえば読んだことなかったなって思って、手に取ってみたんだけど…」と答えたら、「そうなんだ?いつもはどんなのを読むの?」と聞かれて、それから割と会話するようになった。
泉鏡花はその名前の優美さもあって、アニメやゲームのコンテンツでは、女性設定になっていたり、美少年化されていたりすることが多い。
あとは酉年生まれなので、「向かい干支」にあたる卯、つまりウサギの小物をコレクションしていたという逸話があったりで、何となく興味を持っていたのに、肝心の作品を読んだことがなかったのだ。
閑話休題。
ヒロト君とはそれまで、ほとんど口を利いたことがなかった。
あまり人と話すのは得意ではないらしく、いつも何となくおどおどしているけれど、人の話をじっと聞いて、言葉を選びながら丁寧に答えてくれる様子が何となく「いいな」と思った。
私なんかよりずっと本格的な読書家で、だからってマウント取ったり自慢したりすることもない。
いや、そんなことしないのが「普通」だと思うんだけどね。
彼といると、自分の顔に自然に笑顔が浮かぶのが分かった。
(私はセイヤ君といるとき、結構無理していたな)と今なら分かる。
◇◇◇
お互いの部屋に行き来することが多くなって、何となく「そういう」仲になって、「たまにはご飯つくろうか?」と私から提案するようになった。
「ミートソースのスパゲティが好き」と言われて、ちょっと苦い思い出のあるボロネーズソースをつくったら、「やっぱ手づくりは肉の食感が全然違うなあ。うまい!」って、ほっぺたを押さえながらうれしそうに言った。
後々、「あのときは照れくさくて言えなかったけど、野菜刻んだり、トマト崩したり、一生懸命てきぱき手を動かしてる姿がすごくかわいかった。今度動画撮っていい?」とメッセージが来た。
彼は口頭より、文章の方がおしゃべりさんだ。
「またつくってね」という締めの言葉にも、すなおに「やったるぜ」という気持ちになれる。
褒められたら、素直にうれしい。
私自身もヒロト君のいいところを見つけたら、素直に褒めたくなる。
ああ、そうか。
きっとこれが「ありのままを好きになってほしい」って気持ちなんだな。
めちゃくちゃ間抜けなタイミングではあるけれど、うれしい発見だ。
【了】
「あっ、あのっ、さ…この間、図書館で泉鏡花の本、立ち読みしてなかった…?」
って調子だった。
ちょっと驚いたけど、「うん。そういえば読んだことなかったなって思って、手に取ってみたんだけど…」と答えたら、「そうなんだ?いつもはどんなのを読むの?」と聞かれて、それから割と会話するようになった。
泉鏡花はその名前の優美さもあって、アニメやゲームのコンテンツでは、女性設定になっていたり、美少年化されていたりすることが多い。
あとは酉年生まれなので、「向かい干支」にあたる卯、つまりウサギの小物をコレクションしていたという逸話があったりで、何となく興味を持っていたのに、肝心の作品を読んだことがなかったのだ。
閑話休題。
ヒロト君とはそれまで、ほとんど口を利いたことがなかった。
あまり人と話すのは得意ではないらしく、いつも何となくおどおどしているけれど、人の話をじっと聞いて、言葉を選びながら丁寧に答えてくれる様子が何となく「いいな」と思った。
私なんかよりずっと本格的な読書家で、だからってマウント取ったり自慢したりすることもない。
いや、そんなことしないのが「普通」だと思うんだけどね。
彼といると、自分の顔に自然に笑顔が浮かぶのが分かった。
(私はセイヤ君といるとき、結構無理していたな)と今なら分かる。
◇◇◇
お互いの部屋に行き来することが多くなって、何となく「そういう」仲になって、「たまにはご飯つくろうか?」と私から提案するようになった。
「ミートソースのスパゲティが好き」と言われて、ちょっと苦い思い出のあるボロネーズソースをつくったら、「やっぱ手づくりは肉の食感が全然違うなあ。うまい!」って、ほっぺたを押さえながらうれしそうに言った。
後々、「あのときは照れくさくて言えなかったけど、野菜刻んだり、トマト崩したり、一生懸命てきぱき手を動かしてる姿がすごくかわいかった。今度動画撮っていい?」とメッセージが来た。
彼は口頭より、文章の方がおしゃべりさんだ。
「またつくってね」という締めの言葉にも、すなおに「やったるぜ」という気持ちになれる。
褒められたら、素直にうれしい。
私自身もヒロト君のいいところを見つけたら、素直に褒めたくなる。
ああ、そうか。
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