短編集『朝のお茶会』

あおみなみ

文字の大きさ
17 / 33
第5話 怖いものは怖い その2

2

しおりを挟む
 当然のように甘党ばかりのお茶会ではあるが、中でも相楽さがら理恵りえ(40歳)は、気合の入ったスイーツハンターだった。他県にも足を延ばし、積極的においしい甘味を食べては、写真や感想をブログに上げていた。

 その理恵が、小さなイチゴショートケーキを物惜しみするようにちびちびと食べている。
「こんな大きさ、一口で食べそうなリエちゃんがどうしちゃったの?」
 理恵とはもともと友人関係のほしかおるいぶかしんで聞いた。
「だって、久しぶりなんだもん。今お菓子控えててさ…」
「えーっ、リエちゃん。それで食べるものあるの?」
「失礼ね。私、食べ物の好き嫌いはないわよ。スイーツが好きなだけで」

 理恵の話によると、
「実は職場で健診があったんだけど、糖尿のおそれがあるって注意されちゃって…」
 とのことだった。
「まだちゃんと検査したわけではないんだけどね」
「でもさ、糖って結構簡単に下りるよね?」
「そうそう!妊娠中の検診のとき、尿検査で2回引っかかったし…」

 2人の気のいい甘党女性の話は大層盛り上がったが、周囲が少し眉をひそめていることに気付いていなかった。
 中高齢の人間にとっては、そろそろ健康問題は身につまされる話題だし、「尿」という言葉が食の席で出されるのは、年齢を問わず好ましくない。

 白熱した2人は、さらにこんな話を始めた。
「そういえば、最近F県って肥満児が増えてるんでしょ?
 糖尿病の子供もいるとかって。
 放射能の影響らしいけど」
「じゃ、リエちゃんの糖尿のひょっとして…」
「そうだよ、きっと。食べたら運動しろとか言われても、
 ジムは高いし、ジョギングとかの外運動は放射能怖いし…」
「私たちはまだいいけど、子供が本当かわいそうだよね。
 鼻血出す子も多いっていうじゃん?」
「うちの子の学校でもさあ…」

 いつの間にか糖尿の話はどこかに行っていたが、話題としてはあまり愉快でないことに変わりはない。
 誰が参加しようが、どんな話題を出そうが、それはその人の自由だ。
 年齢的にも彼女たちより少し上で、威厳のある雰囲気の塚本という男が、「もう少し声を控え目にした方がいいのでは?」と注意する程度のことしかできない。

 肥満が増えていることはニュースにもなっていたが、屋外活動が制限されるなどして運動量が減ったり、ストレスがかかったりしたことが原因だと説明されていた。だから「放射能の影響」という言い方は、いささか雑である。
 また、被曝影響で鼻血が出るというのは、もう死んでいておかしくない放射線量だということだ。鼻血だけなら、ちょっとした傷や体調不良でも普通に出るし、そこを因果関係で結ぶのは、さすがにお粗末ではないか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...