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英明編【メグと大輔】
俺の中の桜井 桜井の中の俺
しおりを挟む練習に入ると、案の定、片桐が食いついてきた。
「なんだ、めっちゃカワイイじゃん。カノジョか?」
「いや、図書委員の子だ。報道と合同企画やることになって」
「ああ、そういや副部長がお前はそれで遅れるって言ってたっけ」
「当然だ。お前みたいに居残り勉で遅くなったりはしない」
「ひっで。今言わなくたっていいじゃん」
そんな無駄話をしていると、いつものように高田部長の怒号が飛ぶ。
片桐はいつものように大げさに反応した。
俺は「は?センパイ、誰に言ってるんですか?」という態度を崩さない。
何しろ桜井が見ているのだ。格好悪い姿は見せたくないのだが、
「片桐はともかく大倉、お前まで何だ!たるんどる!」
と、名指しで怒鳴ってくれたので、努力が水の泡だ。
少し離れたところで桜井が口元に軽くこぶしをあて、クスクス笑っていた。
ちょっと憎たらしいが、ああいう表情やしぐさも悪くないな。
◇◇◇
部活上がりに檜先輩に桜井の書いたまとめ案を見せた。
「よく調べてあるし、分かりやすくまとまっているな」
「あの1年生、かなり優秀ですね。よかったです」
「お前には、それだけじゃなさそうだな。練習を見に来いと誘ったのか?」
檜先輩にしては緩い顔で俺をからかうように言われた。
「あ――その」
「いい子そうだな。頑張っていい特集にしてくれ」
「はい!」
◇◇◇
桜井は5時には姿が見えなくなっていた。
どこに住んでいるのか分からないが、下校時間の関係もあるし、仕方がない。
桜井のことを考えるともなしに考えながら駅方向に向かい、電車に乗る前に駅前のコンビニに水を買いに寄った。
「あれ、大倉先輩…?」
ドリンクコーナーで背後から女子に声をかけられた。
「桜井…か。お前、制服どうした?」
とんちんかんな質問ではあるが、彼女を見て真っ先に浮かんだ感想がこれだった。
水色チェックのシャツに、胸当てのついた白い長いスカートを履いていたからだ。
「家に帰って着替えたんですが…?」
「お前んちはこの近くなのか?」
「はあ、まあ…電車通学の必要がない程度には近いというか…」
「だったら…」
もっと長く練習見ていけよ、と言うのは、さすがにわがままか。
「いや、何でもない」
桜井はケチャップが入ったかごを持っていた。
「お前はお使いか?」
「え?はい」
俺は女の服のことは全く分からないが、「その服、似合っているな」と言いたい。
だが、よくある普段着を褒められてもうれしくないかもしれない。
やはりおしゃれしているときに褒めるべきだろうか。
「そういえば、悪かったな」
「え、何がですか?」
「お前の企画。檜先輩も褒めていたし、
俺もいいと思ったのに、「ありきたり」なんて言っちまって」
「…言いましたっけ?そんなこと」
「覚えてない、か…?」
「言ったとしても、別に気にしていませんから」
にっこり笑われたら、もうそれ以上何も言えない。
気にしてないというか、「覚えていない」って、俺の言うことにはインパクトがないということか?
それとももっと素直に、彼女を傷つけなかったらそれでいいと考えるべきか?
それならそれでしゃくだし、よかったし、悔しいし、安心した。
もっとこの子といろいろ話したい。
彼女の中に、俺についてのあれこれをいろいろ残したい。
ミーティング以外で話す方法はないだろうか。
教室に押しかけていくのも変だし――と考えをめぐらせていたら、知らずにため息が出た。
「先輩、お疲れみたいですね。気を付けて帰ってください」
桜井がレジに向かった。会計をして帰るらしい。
「おい、桜井」
「え?」
「その、またいつでも練習見にこいよ。
いつも部長に怒鳴られているわけじゃないから…な」
「分かってますよ。先輩はすごく練習熱心だと思います」
そう言って笑った顔をよく見ると、左ほほにだけえくぼが出ているのを発見した。
【『英明編』了】
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