小手先の作業 再び

あおみなみ

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思い出すと割とゾッとする話

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 それは何年前のことか忘れましたが、レジ袋有料化になる前だったことはたしかです。
 私は昔から袋物が大好きで、ちょっと気に入ったトートをちょこちょこ買ってしまうので、使わないのはもったいないなと思い、ここ30年以上、スーパーでの買い物は、ずっとマイバッグ持参でした。

 一応、大きいものでも折り畳み、ほかの私物と一緒にポケットやハンドバッグ、ミニトートなどに入れて持ち歩いているのですが、時には大き目のトートに財布、スマホ、鍵を泳がせるように無造作に入れていくこともあります。

 「その日」もそんな感じで、自宅から歩いて8分ほどの食品スーパーに来ていました。
 ここは昔から卵が安く、その日も10個1パックで100円+消費税だったはず。
 だから、ほかに買うものがなくても、まずは卵という感じでした。

 その日私は、結構立て込んでいた仕事を何とか終わらせ、夕方6時くらいに買い物に来ていたのですが、どうやら自分では気づいていなかったものの、心身ともにかなり疲れていたようです。
 その証拠に、一時的にびっくりするほど判断力が落ちていました。

 店に入るとレジかごも持たず、まっすぐ卵の棚まで行き――肩にかけていたトートバッグに1パック、何も考えずに入れてしまったのです。
 そうした直後、自分で自分の行動にすさまじい違和感を覚えたのが不幸中の幸いでした。
 
 (ちょっ、かご、かご!)

 私は慌ててすぐ近くにあった買い物かごをひっつかみ、トートにいれてしまった卵のパックを取り出して、買い物の続きをしました。
 多分、私の行動の一部始終を見ていた人がいたのなら、「あの人ったら、何事もなかったかのようにしれっと…」と呆れられていたことでしょう。「焦りが顔に出ないタイプ」だと昔から割と言われる方ですが、心中穏やかならざるものがありました。

 誰も見ていなかったようで、お客さんにもお店のスタッフにも特に何か言われることはありませんでした。

 防犯カメラには映っていたかもれませんが、私が卵を自分のバッグに入れていたのはほんの数秒。そしてその後の行動しぐさからも、「コイツに万引きの意思なし」ということはお分かりいただけたのでは――と勝手に想像しています。

 万引きは、自分がした経験も、している現場も見たことがないので、創作物などに出てきたときの描写を思い出してみると、出口のところで「お会計をお忘れでは?」などと止められたりするのかしら。
 少なくとも、入れた瞬間に声をかけてくるとしたら、その辺のお客さんでしょうね。

 万引きの意思はないので、もしもぼーっとしたままだとしても、私はトートバッグをレジのところで置いて(あるいは中から卵だけ出して)会計してもらったと思いますが、この時点でさすがにお店の方には不審に思われたでしょう。
 具体的にいろいろ尋ねられても、「違うんです、間違って入れてしまっただけで。ほら、お金はちゃんと払いますから」と弁明するしかありません。
 しかしこれ、まるっきり「実はクロだけど、何とかその場をごまかそうとしている人」の言い分ではありませんか。

 こう言ったら語弊があるかもしれませんが、私は不正よりも不貞行為よりも物価高よりも、「面倒くさいこと」が何よりも嫌いな人間です。
 「疲れてぼーっとしていて、ついついやっちゃったこと」だと説明しても、ただの万引き未遂として扱われていたら…。
 ある意味、本当にときよりも面倒くさいことになっていたかもしれません。

 帰り道、私の脳内では、ミドリカワ書房さんの名曲『OH!Gメン』が再生されていました。

***

 レジ袋有料化の後、お店によっては「お買い物袋は、会計の際に用意してください」というアナウンスが流れていることがあります。
 これは、どうってことない普通の注意アテンションではありますが、私は聞くたびに(いや、ほんとそれ!)とうなずきたくなります。
 
 あまり想像したくありませんが、実際、レジ袋有料化以後、「マイバッグ」の大義名分で持ち込んだ、ことさらに大きめの買い物袋を使って万引き、みたいなのが増えているのかもしれませんね。

 で、捕まったら捕まったで、弁明の言葉「ごめんなさい」「魔が差した」「お金なら払いますから見逃して」にまじり、「疲れてぼーっとしていたんです。わざとじゃないんです」も含まれているかもしれません。
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