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ネト友・リア友
しおりを挟む震災の後、近くでいつも顔を合わせて話せるような、「リア友」と感じられる人が減ったのが寂しい。
最初は「放射能怖いよね」って言って、ウォーターサーバーとか家に置くようになったり、遠くから食材を取り寄せたりしている人も結構いたんだけど、「何か、もういいかなって思って」とか言い出す人が増えたからだ。
お金が続かないとか、きりがないとか、「飽きた」なんて人までいる。食の安全を何だと思っているんだろう。
でも実はもっと許せないのは、「もう大丈夫だって思えるようになったから」なんてキッパリ言う人だ。
あんまり強い言葉を使うのはためらっちゃうけど、はっきりいって裏切者だと思っている。
「検査を通ったものが市場に出ているんだから安全」って、国のこと信用しすぎじゃないの?
自分の頭で考えることをやめたら駄目だよ。
――でもそういうふうに言ったら、「私がバカだと言いたいの?」「あなたこそ、何が根拠で信用できないの?」と言い返された。
だって、それまでの頑張りは?自分が信じてきたものを180度変えるの、怖くないの?
私には分からない。
チェルノブイリを扱った本とかで、怖い事例がいっぱい書かれているらしいし、そういう映画もある。
映画といえば、『みえない雲』の主演の女の子、パウラ・カレンベルクという女優さん。ドイツで生まれたんだけど、チェルノブイリの事故の頃にお母さんのお腹にいて、11月に生まれて、肺が一つしかなくて、心臓に穴が開いているんだって。これ絶対、事故の影響だよね。ヨーロッパ全体が汚染されたって話も聞いたことあるもの。
+++
突然だけど、7月にはパパのいとこが赤ちゃんを産んだ。
私は何だか会いにいくのが怖くて、仮病を使ってパパとハルくんにお祝いを持っていってもらった。
もし奇形の子とかだったら、かわいそう過ぎて直視できない。震災の後の出産で、奇形とかダウン症とかの障害が出ているって聞いたことがあるから。
パパが撮って見せた写真は、普通のかわいい赤ちゃんだったけど、パウラみたいに、健康できれいな女の子に見えたって、内側で欠け落ちている子だっているんだもん。
もし万万が一、全然問題なく生まれてきたとしても、それは「運がよかっただけ」なんだって、私がいつも参考にしているブログを書いている「カサンドラさん」という人が言っていた。
「▼震災後に五体満足の赤ちゃんが産めた人は危険です▼自分が大丈夫だったから大丈夫だと短絡的に考え、放射能と健康被害は関係ないと言うようになります▼しかし、自分の例でそう言っているだけですから、全く信用できません▼そういう方は、本当に被害があったときの補償などをおろそかにする原因になります▼私は、これから生まれてくる全ての赤ちゃんは、事故前とかどこか違う、何かしらの奇形や障害が出ると思いますし、極端な話、そうあるべきだと思っています。でなければ、傲慢な人間は何度も同じ過ちを繰り返すでしょう▼原発の再稼働に絶対反対しているのは、こういう理由です」
これを読んで心配したり怖くなったりしない人がいるなんて、私には信じられない。
ハル君の担任の先生に、「これを学級通信に載せてください。書いた人の転載許可は取っています」って提案したんだけど、「こういった極端で偏った意見は、いたずらに不安をあおり、復興の妨げになるため、載せることはできません」って連絡帳に書かれておしまいだった。
あーあ、震災の前までは熱心でいい先生だと思っていたのに、本当にがっかり!
+++
でも、心配してくれるのは分かるけど、時々感じの悪い人も残念ながらいる。
例えば…。
『はるmamaさんってF県住みなんですよね、怖くないですか?』
ツイッターのDMにこんなのが届いた。一応相互FFだけどあんまり絡んだことのない人。
「怖いですけど、主人に反対されるし、どうにもならないんです」
『パートナーが無理解だと辛いですね。いっそ離婚なさったら?』
え? 何言ってんのこの人…。
「そんなことは考えてないです」
『お子さんとパートナー、どっちが大事ですか?お子さんは血のつながった自分の分身ですけど、パートナーは所詮他人なんです』
『大体、愛する女性と無力な子供を守れないなんて、先々ろくなことないですよ』
『もう日本は二度ともとに戻らないんです。せめて少しでも汚れていない土地で暮らしたくないですか?』
「なんであなたにそんなこと言われなきゃならないんですか。ふゆかいです」
パパは確かに放射能のことになるとノンキ過ぎて、ちょっとイラッとするけど、優しくていい人だよ。
この街だって――なんだかんだ言って嫌いになったわけじゃない。むしろ好きだから住み続けていて、汚染されているのが歯がゆいっていうか、せめてもう少し周りの人にも分かってほしいなあって思っているだけなんだけど、汚染の実態とか。
給食の材料を全部F県産以外にするとか、せめて牛乳は飲まなくていいようにするとか、内部被ばくしないように考えてもらえたらな。
+++
そういえば、「ストップ!内部被爆」って書いて冷蔵庫に貼ったら、パパに「字が違うぞ」って言われた。
「でもヒロシマとかナガサキとかのは…」
「あれは本当に爆弾が爆発した被害だから、それでいいんだ。原発事故は違うだろう?」
「原発だって爆発したじゃん!」
「それは――まあいい。とにかくその字じゃないんだ。新聞やネット記事だと、「ばく」って平仮名になってることもあるな」
本当は「曝」の字を使うんだって、調べたら分かった。訓読みだと「さらす」と読むらしい。
でも、放射能汚染とかの情報交換している人の中には、ブログとかつぶやきとかで、わざわざ「爆」って字を使う人も多い。
「その字でいいんですか?うちの主人が…」って聞いたら、「ご主人の言っていることは正しいけれど、私はあえて「爆」という字を使っています」って言われた。
何でかというと、「爆」という字の方がインパクトがあって、被害の重大さが伝わりやすいからだって。そのためなら、多少間違っていても問題ないでしょうって言われて、なるほどと思った。
…という話をパパにしたら、「呆れたな。その人は要するにデマを言いふらしているようなもんじゃないか」って言われた。
「デマじゃないじゃん。重大さを伝えたいって気持ちだよ」
「事実を捻じ曲げているんだからデマだよ。その人は何がしたいんだ?」
「…何かパパ、私の言うこと否定ばかりするんだね? バカにしたみたいな言い方も多いし」
「いや、そんなつもりは…」
「私は一生懸命頑張ってるのに!勉強苦手だったけど、難しい記事とかも読んでるよ!論文書いてる学者さんの話だって読んでる!」
「だから、それが間違っていたら…」
「専門家でもないパパに何が分かるのよ!もういい!」
「いい人」って思ったの、撤回!
本当に私、離婚した方がいいのかなあ。
いろいろ面倒見てくれる人がいたら、ハル君が嫌がっても連れていっちゃいそう。
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