めざめ はなしをきいて

あおみなみ

文字の大きさ
9 / 9

あとがき

しおりを挟む

『めざめ』へのアクセス、まことにありがとうございます。

 震災後、私はしばしば、放射能が怖い奥様方のやりとりを2ちゃんねる(当時)でROMっておりました。

 何というか、これがすさまじくて…。

 作中でも「水害のおかげでF県で米がつくれなくなる!」というのを歓迎していた方について触れましたが、これを実際に見たのはツイッターではなく2ちゃんでした。
 丹念に探せば、ツイッターでもそれと同等か、下手をするともっとひどいのが見つかるでしょう。
 というよりも、発信の日付を二度見するレベルの発言いいぶりは、実際いまだに健在なのです。

 野菜を西日本から取り寄せて「今日はごちそうつくるぞ!」「いいなあ」という微笑ましいやりとりすら、「F県なんて、農業できないように封鎖したらいいのに」という発言をしている人たちの“お仲間”がしているのだと思うと、苦々しい思いで見ておりました。

 また、「ごみ焼却炉が一般家庭からなくなったのは原発事故のせい」というひどいデマ(実際にはダイオキシン発生の懸念から、2011年以前から取られていた対策でした)を持ち出す人に反論したところ、なぜかボコボコに批判されたこともあります。何が何でも放射能のせいにしたい人たちは、ここまで頑迷なものかと、私はさすがに悲しくなりました。

 「今まで信じていた人が意見を変えたので、もうあの人の言うことは信じない」というのもなかなか強烈でした。
 ころころ意見が変わるから――ならまだ分かりますが、で、主客転倒も甚だしいのです。
 その“人”を信じていたから、その言葉を信じていたのではないの?
 知見が集まった結果、考え方を修正したのだろうに、それを「間違っている」と、いったい何の根拠があって言うのか…。

 曰く、「平成22(2010)年産のの米も、何だか怖くて棄てた」
 曰く、「リカちゃん人形はフクシマ(福島県小野町「リカちゃんキャッスル」)で作っているからヤバイ」
 曰く、「フクシマって結構いろんな工場があるから、そういうところでつくったものをうっかり買わないようにしないと」

 さらにさらに、「関東産のじゃがいももヤバいかも?」と言えば「じゃがいもは北海道でしょ?」と返したり、「お米の味ってよくわかんないから、なところなら何でもいい」と言ったり、「震災前に買った海苔を食べたいけど、湿気てたから捨てる!」「火であぶればいいのでは?」「あぶる?って何ですか?」というやりとりがあったり。

 …何だろ。この人たちって放射能以前にいろいろヤバくね? と、私はかなり傲慢に見下すようになっていました。

 ちなみにじゃがいもはもともと放射性カリウムを含む植物ですが、そもそも今まで何で食べられていたのか疑問。バナナなんかも同様です。

+++

 作中に登場する「ハル君のママ」は、意識的にかなりバカっぽく(しかし悪意がにじみ出ないように…)表現しました。優しくて子供思いで、それゆえ恐怖に取りつかれてしまった人。残念ながら、冷静に何かを考えて、分析するイメージは湧きません。

 たまたまこの話では「ママがそういう人」だっただけで、もちろん男女逆の事例もあるでしょう。意見が合わずに仲が冷え切ってしまったり、離婚に至ったりという例もあったようですし、私の知人の男性でも、妻子のみ西日本に避難してもう8年目という方がいますが、実際「仕事がなければ俺も…」というスタンスで、しぶしぶこの土地にいるようです(と聞いたとき、逆に何で最初の3年は避難を考えなかったのかなと思ったのですが、まあ黙っておきました)。

 タイトルの「めざめ」というのは、「ほかの人は知らない真実を知っている私は『めざめ』ている」という陰謀論めいたものと、その思い込みから「めざめ」るという二段階の意味でつけました。

 私は、自分が信じているものが本当に100%正しいかと問われれば自信はありませんが、さまざな情報を得た上で、納得ずくで信じ、また大切にしてきました。
 そして「3年後に…」「5年後に」「10年後には…」と、そのうち死に絶えてしまうように言われた福島県民の1人ですが、今でも立派な2本足で立ち歩き、日々の生活を楽しんでいる、それが全てだと思っています。

 2022.2.4

【20240605追記】

作中でも登場した坂本龍一さんは、2023年3月28日、71年の生涯を閉じました。
私は1983年12月のYMO散開ツアー郡山公演を見にいっているので、坂本氏は「生で見たことのある数少ない芸能人」のお一人ですが、高橋幸宏さん(2023年1月死去)のファンだったので、実は坂本さんのご様子をあまり覚えていません。同行した友人は大の教授サカモトファンだったので、感激のあまり、涙を流さんばかりの様子で声援を送っていました。

両氏のご冥福を、改めてお祈り申し上げます。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...