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第8話 一軒家の住人【私】
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何もかもが ミステリアス
◇◇◇
私は昔から特定の女の子に嫌われやすい。
中学時代から、「自分が好きな男子が自分に見向きもしない。私さんのことが好きらしい」みたいな理不尽な理由で、ぶりっこだの男構いだの、さんざん言われた。
まあ中には本当に寝た人もいるけれど、そもそもその人の交友関係とかは考えたこともない。
告白してきたやつは、私が好きだから告白してきたんだろうし、カノジョいないって前提で考えるよ、普通。
もしその男子と付き合っていたなら、「それはそれは、その節はすんませんでした」と謝る余地もあるけれど、片思いのくせに「あの女が取った」みたいに言う人は、一度自分の厚かましさを反省すべきだと思う。
それに、男子中学生でそんなにセックスうまいヤツもいないから、私が夢中になることもなかったって事実をラッキーだと思ってほしい。
◇◇
入学した大学は、真面目な子が多い――気がする。
周囲がこの学校に抱くイメージもそうだろうけど、実際、県外から来てひとり暮らししているような子でも、しっかり自炊して、家計簿つけているような子も珍しくない。
カレシは「いない」か「高校時代からのカレシと遠距離恋愛」かが多い。
少なくとも、カレシがいるくせに、すきあらばほかの男と寝ていたような中高生時代を過ごしたような女は、多分私くらいだろう。
おしゃれでかわいいねとか、スタイルがよくてうらやましいと褒めてくれる、気のいい友達が何人かできた。
そういう子たちと、はやりのボブ・グリーンのコラムとか、最近ハマってるアメリカの短編小説家とか、そんな話をするのは結構楽しい。
そういえば、大学に入ってから、男漁りやオナニーの頻度、落ちてきたなあ(前よりは、だけど)。
もうその気になればカレシとは普通にお泊り旅行できる。両親にも紹介してあるので、いろいろとプレッシャーをかけつつも、理解は示してくれている。あの兄の学生結婚を許したくらいだしね。
面倒くさいので、合コンのお誘いは「カレシに悪いから」と断ることが多い。
カレシはだんだんエッチの腕を上げてきている――気がする。
うまく言えないけど、自分の欲求を満たすためというよりも、慈しむような、私を尊重するみたいな、そんな愛撫をするようになってきた。
私は私で、行為そのものより、その後のピロートークをしながら寝落ち、みたいな流れを好んでいる。
まさかと思うけれど、私、この若さでもう枯れちゃった?
それはそれでちょっと寂しい。
そんなことを考え始めていたとき、「あの人」と出会った。
「君、男と寝てるかい?」
第一声がこれだった。初対面なのに。
私は家の近くのコンビニでお菓子を選んでいるときから、その視線を感じていた。
店を出たところでぐっと手首をつかまれたから、万引きでも疑われたのかと思ってぎょっとしたけれど、私の耳元でそんな言葉をささやいたんだ。
「何ですか?急に」
「俺は君と寝たい」
「はあ?」
「君が乱れるところを見てみたい。これからどうだ?」
背が高くて、声が低くて、兄貴みたいな美形でも、カレシみたいなかわいい系でもなくて、「いい男」という顔をした人。
40歳で、家で仕事をしているとだけ言った。
彼が目を付けたのが私でなかったら、通報されても仕方のないようなアプローチだったろうけど、彼には女を見る目と、そしてものすごい自信があったようだ。
私はもちろん、のこのこついていった。
コンビニからは3分、多分ウチからは5分くらい。
そう大きくはないが、ひとり暮らしにはゆったりした一軒家。
うちの割と近くには、もともとあった小さな川の周りを整備した探勝路がある。
住宅街の中にありながら、ちょっとした渓谷みたいになっていて、リラックスしたいときのお散歩にぴったりだ。
川の上にお飾りみたいな(一応渡れる)吊り橋があって、その吊り橋がつなぐ2地点のうちの一つ――のすぐそばに、その家はあった。
別に不便な場所ではないけれど、わざわざそこに行く人は付近の住民くらい。「通りすがり」というのが発生しにくい。
そんな、どこか隠れ家めいた感じがエロいと思うんだけど、実際に見てもらわないと、そのニュアンスは伝わらないかも。
家に招き入れられ、玄関で靴を脱ぐ前に抱き締められ、唇を深く熱く吸われた。無遠慮に入ってくる舌もするっと受け入れてしまう。
やだっ、キスだけでどうにかなりそう。
とても背が高いので、顔を下げ、私を少し抱き上げるみたいな格好になってキスをしている間、彼の「股間」が既にスタンバっているのを、お腹の微妙な位置で感じた。
彼の大きな手は私のスカートの中に入り、ももを撫でた後、局部に伸びてきた。
自分でもじゅわと濡れているのが分かるから、ちょっと恥ずかしかったけれど、その恥ずかしさがまた心地よい。
「敏感だな。思ったとおりだ」
「や…ん…」
そのままバスルームに連れ込まれた。
気温のそこそこ高い季節なので、裸にされても寒くはなかった。
湯舟にお湯をためながら、「まずはシャワーだ」と言った。
ラフで不格好な海綿に、花のようなフルーツのような、ものすごく高級感のある香りのするボディーソープを含ませ、私の体を隅々まで洗い上げた。
胸とか首筋とか、性感を覚えやすいところは念入りに洗っているのがよく分かる。
「小指がきれいだな。両親にきちんと育てられた人間の足だ…」
たぶん、成長に合わせた靴を履かされてきた、程度の意味だろう。
浴室用の低いいすに私を座らせ、「きちんとした足」を取ると、指に軽くキスをしてきた。
「あ…」
「こういうのは初めて?」
「はい…」
「愛らしいと思ったら、キスしたくなるものだよ」
泡を洗い流すためにシャワーを当てるとき、さっと流すところと、集中的に流すところがあった。
乳首周辺に丹念にお湯を当てられ、いたたまれない気持ちになる。
早く吸ってほしい。指でつまみ上げ、刺激してほしい。おねだりしたら駄目かな?
彼は私のそんな顔を読むように、『シャワーの刺激も悪くないだろう?』と言うだけ。そんなふうに焦らされると、また感じてしまう。
「お風呂、入ろうか」
「はい」
家のお風呂と違う、浅めだけど大柄な男性でも脚を伸ばして入れる、ホテルのバスタブみたいなやつだ。
そこで後ろから抱きかかえられ、胸を両手でゆっくりと揉まれた。
「あ…あ…」
「そんなに遠慮しないで。わざとらしいほど声を出してくれ」
「え…」
「せっかくのバスルームだ。思いきり反響させればいい」
そう言いながら、手を全く休めない。
掌で乳首をつぶすように押したり、指で軽くつまんだり、つついたり…控え目に言って「たまらない」。
「あ、ん…あぁ…」
「かわいい声だね…もっと聞かせて」
耳元でそうささやくついでみたいに、私の耳たぶをあまがみして、耳の後ろをぺろっとなめた。
「んんっ…おっぱいも…なめて…」
「仕方ないな…もう少し触感を楽しみたかったが…」
彼は私の体をくるっと回すようにして抱き直し、手指と唇、そして舌を使って、ねっとりと刺激した。
私の体は快感にのけぞるが、彼の太くて長い腕がしっかりホールドしてくれるので、安心してゆだねられた。
「あ、いいっん…すごく…はぁん…」
「本当に正直でかわいい体だ…いいね…」
「もっと…」
「もっと…どうしてほしい?」
「あい…して…」
うまく言えないが、これ以上の言葉が浮かばなかった。
お風呂場での插入というのも興味あったんだけど、彼は私をタオルでくるんで抱き上げ、寝室に運んだ。
ベッドにふわっと寝かされると、また改めて手と口をフルに使った「攻撃」があって、それだけでイキそうになったものの、私の切ない声音を聞き逃さなかったらしく、「じゃ、そろそろお邪魔するよ」と言って、手際よくゴムをつけた。
「思ったとおりだ…いいよ…すごくいい…ああっ…」
彼は入ってきた途端、何となく平凡な中年のスケベオヤジ感を出してきたのだが、それがまた興奮の種になる。
さっきまでは余裕たっぷりで私を愛撫していたくせに、あまり技巧を凝らさず、ただ本能のままに腰を振っているのが分かる。
渋目の顔立ちが快感にゆがんでくるのが分かった。
何だろう。不思議な話だけど、とってもかわいい。
ただただ私に溺れてほしい、と思った。
「君と――ずっとこうしたかったんだ…」
「ずっ、と?」
「君が小さい頃から、俺はずっと君を見て…きた…」
「えっ?」
◇◇◇
1度目のセックスの後、種明かしをしてくれた。
彼は30歳のときこの家を借り、そこで執筆活動を始めた小説家だった。
もともとはもっと都会に住んでいたのだが、ちょっとした縁あって私たちの街に来た。
移住というより、こっちに拠点を置いたダブル生活だったのかな。
そして、たまたま見かけたまだ小学生だった私に「一目ぼれ」したのだという。
「本当はもっと早く声をかけたかった」
「そんなことをしたら、本当に警察沙汰になっていましたよ」
「そうだな…でも、君が本当に大人になってしまう前に、何とか抱きたかったんだ」
「あなた、ロリコンなの?」
「そうかもしれないが、興味があったのは君だけだ」
あんなに巧みに愛してくれる人が、全く女性と接触がないとは思えない。
きっと多くの女性と寝てきたのだろう。
「君の性体験をいくつか聞かせてくれ。秘密は守るから」
処女ではないというのはすぐ分かったろうけど、かなり経験があると見たらしく、そんな聞き方をした。
「本当に?」
「ああ、約束する」
「小説のネタですか?」
「さすがに駄目かな?」
「絶対バレないように、いっぱいフェイク入れてくれるなら」
「随分理解があるな」
「だって…それを誰かが読んで興奮するんだって想像したら…」
その先は言わなかったが、察してくれたみたいだ。
「君は最高だな」
彼はお年の割に体がお若いようで、私にキスをして、その唇をボディーに滑らせているうちに「回復」したようだ。
こりゃ、私の自慢?の体験談は、一戦交えた後に改めて、かな。
◇◇◇
私は彼に合鍵を渡された。
『俺がいないときでも、好きに使ってくれていい。何ならカレシとのホテル代わりにしてもいいよ』とまで言ったけれど、のぞき見してネタにでもするつもりだったのかな?
もちろん私は、その家では彼にしか抱かれないけど。
彼が不在のときは、仕事部屋の資料や本を物色したり、彼を思いながら、所構わずオナニーしたりした。
一度だけ、「最中」に彼が帰宅し、「いたずらな子猫ちゃんは、お仕置きが必要だね」って、その場で抱かれたこともあった。
家の北と南に大きな窓があって、両方開けると、夏場でも結構いい風が通るらしい。
北側にある部屋を、彼は寝室として使っている。そこは探勝路のある何とか渓谷に面しているので、窓から初夏の青葉も秋の紅葉も楽しめるんだって。
『こういうのを借景というんだ。写真の撮り方次第では、まるでこの部屋自体が木々に包まれているみたいに見える』と言っていた。
「だからこの部屋で俺に抱かれる君は、森の中でオオカミに犯される赤ずきんちゃんってところだね」
そんなことを言いながら、私の裸の胸のいただきに唇を落とした。
『極上の野イチゴ、見っけ』なんて台詞を、ちょっとおどけた表情で言うのも本当にサマになっている。
彼は体つきもテクニックも最高だけれど、そんなふうに「言葉に抱かれている」感じをよく味わった。
◇◇◇
誰にも話せない兄との関係も、彼に初めて話した。
「俺も君と同居の関係だったら、理性を保てたか分からないな」
「でも、結局私を棄てて結婚しちゃったけれど」
「強制的に自分の思いを断ち切ったのかもしれないよ」
「私もそう思うようにしています。じゃないと悔しいもの」
「まったく、君って子は…」
彼には本当の意味での本音が話せたし、偽名も使わなかった。
セックスの最中は本当の名前を呼んでもらった。
私はカレシとの行為の間に間違って呼んじゃったらまずいので、名前は意識的に口にせず、「おじさん」と呼んだ。
◇◇◇
特に意味もなく『おじさん』の家から足が遠のいて、3カ月目ぐらいだろうか。気付けばおじさんの家は「入居者募集中」になっていた。
その濃厚な愛撫を思い出すと、時々体が切なさを覚えるが、もう「いつかはお別れ」と考えなくていいのは気が楽だと考え直した。
◇◇◇
しばらくして、よく知らない出版社の名前の入った封筒で本が届いた。
『私の女神』というタイトルの、純文学の皮を被った官能小説。
タイトルはベッタベタだし、文章も好みではない。
ただ性描写の箇所は、「おじさん」の愛撫そのものだった。ねちっこくて、くどくて、しかし癖になる。
主人公は、妻を亡くした孤独な42歳の男・高藤。
そんな高藤が入れ上げるのは、15歳の美少女・ありさ。
ありさは母親と2人暮らしで、高藤はありさ母娘が暮らす家の家主である。
仕事が忙しく、しかも発展家の母親にないがしろにされ、寂しい目をしたありさは、高藤にどこか父性のようなものを求めて懐くが、高藤はありさを初めて見たときから、「この子を抱きたい」と求めていた。
ありさが無邪気に高藤の胸に飛び込んだとき、高藤のたがが外れた。
最初は抵抗していたありさもすぐに堕ちてしまう。
2人はお互いをむさぼり合った。
ありさは既に処女ではなかった。
『あいつ――ママの恋人が、ママの留守をねらって訪ねてきて、私をレイプしたのよ』と、衝撃の告白をする一方で、
「でも、実は私もすっごく気持ちよかったし、妊娠もしなかったから、どうでもいいんだ」
「せめて2回目は好きな人に抱かれたいって思ってた」
「おじさん、抱いて。私、おじさんが好きなの」
ありさは母親の恋人と高藤に『開発』され、性愛を求めて奔放に行動するが、それが彼女の怪しい美しさを磨いていくのだった――。
しかし二人の関係は、ありさの母親と、その(ありさの父親ヅラをしたウザい)恋人の知るところとなり…
結局は悲劇的な幕切れだった。
◇◇◇
母子家庭への偏見を感じないでもないお話だけど、そんなことを言っていたら、あらゆる「表現」ってものが成り立たないのだろう。そこは気にせず、エロい部分だけを楽しむことにした。
カレシとセックスできようができまいが、何となくムラムラすることがある。
というか、一度『その味』を知ったら、みんなそうなんじゃない?
そして自分を慰めるわけだけど、そんなとき、おじさんの小説は最高のオカズになった。辛子明太子や高菜漬けみたいにご飯が進む(個人の好みです)。
おじさんの家の高級そうなボディーソープの香り、海綿の感触、お風呂上がりに飲んだアイスジャスミンティー、どこか人の顔を思わせる寝室の天井のシミ…劣情に頭を支配され、必死で手を動かしているつもりなのに、あらゆることが思い出され、時々涙ぐんでしまう。
私はあのときだけは、おじさんのことを「愛していた」のかもしれない。
恐らく爆発的に話題になるような小説ではないが、ともあれ私という存在が、おじさんにこれを書かせた。
タイトルどおり、おじさんの女神になれたのかな。
◇◇◇
私は昔から特定の女の子に嫌われやすい。
中学時代から、「自分が好きな男子が自分に見向きもしない。私さんのことが好きらしい」みたいな理不尽な理由で、ぶりっこだの男構いだの、さんざん言われた。
まあ中には本当に寝た人もいるけれど、そもそもその人の交友関係とかは考えたこともない。
告白してきたやつは、私が好きだから告白してきたんだろうし、カノジョいないって前提で考えるよ、普通。
もしその男子と付き合っていたなら、「それはそれは、その節はすんませんでした」と謝る余地もあるけれど、片思いのくせに「あの女が取った」みたいに言う人は、一度自分の厚かましさを反省すべきだと思う。
それに、男子中学生でそんなにセックスうまいヤツもいないから、私が夢中になることもなかったって事実をラッキーだと思ってほしい。
◇◇
入学した大学は、真面目な子が多い――気がする。
周囲がこの学校に抱くイメージもそうだろうけど、実際、県外から来てひとり暮らししているような子でも、しっかり自炊して、家計簿つけているような子も珍しくない。
カレシは「いない」か「高校時代からのカレシと遠距離恋愛」かが多い。
少なくとも、カレシがいるくせに、すきあらばほかの男と寝ていたような中高生時代を過ごしたような女は、多分私くらいだろう。
おしゃれでかわいいねとか、スタイルがよくてうらやましいと褒めてくれる、気のいい友達が何人かできた。
そういう子たちと、はやりのボブ・グリーンのコラムとか、最近ハマってるアメリカの短編小説家とか、そんな話をするのは結構楽しい。
そういえば、大学に入ってから、男漁りやオナニーの頻度、落ちてきたなあ(前よりは、だけど)。
もうその気になればカレシとは普通にお泊り旅行できる。両親にも紹介してあるので、いろいろとプレッシャーをかけつつも、理解は示してくれている。あの兄の学生結婚を許したくらいだしね。
面倒くさいので、合コンのお誘いは「カレシに悪いから」と断ることが多い。
カレシはだんだんエッチの腕を上げてきている――気がする。
うまく言えないけど、自分の欲求を満たすためというよりも、慈しむような、私を尊重するみたいな、そんな愛撫をするようになってきた。
私は私で、行為そのものより、その後のピロートークをしながら寝落ち、みたいな流れを好んでいる。
まさかと思うけれど、私、この若さでもう枯れちゃった?
それはそれでちょっと寂しい。
そんなことを考え始めていたとき、「あの人」と出会った。
「君、男と寝てるかい?」
第一声がこれだった。初対面なのに。
私は家の近くのコンビニでお菓子を選んでいるときから、その視線を感じていた。
店を出たところでぐっと手首をつかまれたから、万引きでも疑われたのかと思ってぎょっとしたけれど、私の耳元でそんな言葉をささやいたんだ。
「何ですか?急に」
「俺は君と寝たい」
「はあ?」
「君が乱れるところを見てみたい。これからどうだ?」
背が高くて、声が低くて、兄貴みたいな美形でも、カレシみたいなかわいい系でもなくて、「いい男」という顔をした人。
40歳で、家で仕事をしているとだけ言った。
彼が目を付けたのが私でなかったら、通報されても仕方のないようなアプローチだったろうけど、彼には女を見る目と、そしてものすごい自信があったようだ。
私はもちろん、のこのこついていった。
コンビニからは3分、多分ウチからは5分くらい。
そう大きくはないが、ひとり暮らしにはゆったりした一軒家。
うちの割と近くには、もともとあった小さな川の周りを整備した探勝路がある。
住宅街の中にありながら、ちょっとした渓谷みたいになっていて、リラックスしたいときのお散歩にぴったりだ。
川の上にお飾りみたいな(一応渡れる)吊り橋があって、その吊り橋がつなぐ2地点のうちの一つ――のすぐそばに、その家はあった。
別に不便な場所ではないけれど、わざわざそこに行く人は付近の住民くらい。「通りすがり」というのが発生しにくい。
そんな、どこか隠れ家めいた感じがエロいと思うんだけど、実際に見てもらわないと、そのニュアンスは伝わらないかも。
家に招き入れられ、玄関で靴を脱ぐ前に抱き締められ、唇を深く熱く吸われた。無遠慮に入ってくる舌もするっと受け入れてしまう。
やだっ、キスだけでどうにかなりそう。
とても背が高いので、顔を下げ、私を少し抱き上げるみたいな格好になってキスをしている間、彼の「股間」が既にスタンバっているのを、お腹の微妙な位置で感じた。
彼の大きな手は私のスカートの中に入り、ももを撫でた後、局部に伸びてきた。
自分でもじゅわと濡れているのが分かるから、ちょっと恥ずかしかったけれど、その恥ずかしさがまた心地よい。
「敏感だな。思ったとおりだ」
「や…ん…」
そのままバスルームに連れ込まれた。
気温のそこそこ高い季節なので、裸にされても寒くはなかった。
湯舟にお湯をためながら、「まずはシャワーだ」と言った。
ラフで不格好な海綿に、花のようなフルーツのような、ものすごく高級感のある香りのするボディーソープを含ませ、私の体を隅々まで洗い上げた。
胸とか首筋とか、性感を覚えやすいところは念入りに洗っているのがよく分かる。
「小指がきれいだな。両親にきちんと育てられた人間の足だ…」
たぶん、成長に合わせた靴を履かされてきた、程度の意味だろう。
浴室用の低いいすに私を座らせ、「きちんとした足」を取ると、指に軽くキスをしてきた。
「あ…」
「こういうのは初めて?」
「はい…」
「愛らしいと思ったら、キスしたくなるものだよ」
泡を洗い流すためにシャワーを当てるとき、さっと流すところと、集中的に流すところがあった。
乳首周辺に丹念にお湯を当てられ、いたたまれない気持ちになる。
早く吸ってほしい。指でつまみ上げ、刺激してほしい。おねだりしたら駄目かな?
彼は私のそんな顔を読むように、『シャワーの刺激も悪くないだろう?』と言うだけ。そんなふうに焦らされると、また感じてしまう。
「お風呂、入ろうか」
「はい」
家のお風呂と違う、浅めだけど大柄な男性でも脚を伸ばして入れる、ホテルのバスタブみたいなやつだ。
そこで後ろから抱きかかえられ、胸を両手でゆっくりと揉まれた。
「あ…あ…」
「そんなに遠慮しないで。わざとらしいほど声を出してくれ」
「え…」
「せっかくのバスルームだ。思いきり反響させればいい」
そう言いながら、手を全く休めない。
掌で乳首をつぶすように押したり、指で軽くつまんだり、つついたり…控え目に言って「たまらない」。
「あ、ん…あぁ…」
「かわいい声だね…もっと聞かせて」
耳元でそうささやくついでみたいに、私の耳たぶをあまがみして、耳の後ろをぺろっとなめた。
「んんっ…おっぱいも…なめて…」
「仕方ないな…もう少し触感を楽しみたかったが…」
彼は私の体をくるっと回すようにして抱き直し、手指と唇、そして舌を使って、ねっとりと刺激した。
私の体は快感にのけぞるが、彼の太くて長い腕がしっかりホールドしてくれるので、安心してゆだねられた。
「あ、いいっん…すごく…はぁん…」
「本当に正直でかわいい体だ…いいね…」
「もっと…」
「もっと…どうしてほしい?」
「あい…して…」
うまく言えないが、これ以上の言葉が浮かばなかった。
お風呂場での插入というのも興味あったんだけど、彼は私をタオルでくるんで抱き上げ、寝室に運んだ。
ベッドにふわっと寝かされると、また改めて手と口をフルに使った「攻撃」があって、それだけでイキそうになったものの、私の切ない声音を聞き逃さなかったらしく、「じゃ、そろそろお邪魔するよ」と言って、手際よくゴムをつけた。
「思ったとおりだ…いいよ…すごくいい…ああっ…」
彼は入ってきた途端、何となく平凡な中年のスケベオヤジ感を出してきたのだが、それがまた興奮の種になる。
さっきまでは余裕たっぷりで私を愛撫していたくせに、あまり技巧を凝らさず、ただ本能のままに腰を振っているのが分かる。
渋目の顔立ちが快感にゆがんでくるのが分かった。
何だろう。不思議な話だけど、とってもかわいい。
ただただ私に溺れてほしい、と思った。
「君と――ずっとこうしたかったんだ…」
「ずっ、と?」
「君が小さい頃から、俺はずっと君を見て…きた…」
「えっ?」
◇◇◇
1度目のセックスの後、種明かしをしてくれた。
彼は30歳のときこの家を借り、そこで執筆活動を始めた小説家だった。
もともとはもっと都会に住んでいたのだが、ちょっとした縁あって私たちの街に来た。
移住というより、こっちに拠点を置いたダブル生活だったのかな。
そして、たまたま見かけたまだ小学生だった私に「一目ぼれ」したのだという。
「本当はもっと早く声をかけたかった」
「そんなことをしたら、本当に警察沙汰になっていましたよ」
「そうだな…でも、君が本当に大人になってしまう前に、何とか抱きたかったんだ」
「あなた、ロリコンなの?」
「そうかもしれないが、興味があったのは君だけだ」
あんなに巧みに愛してくれる人が、全く女性と接触がないとは思えない。
きっと多くの女性と寝てきたのだろう。
「君の性体験をいくつか聞かせてくれ。秘密は守るから」
処女ではないというのはすぐ分かったろうけど、かなり経験があると見たらしく、そんな聞き方をした。
「本当に?」
「ああ、約束する」
「小説のネタですか?」
「さすがに駄目かな?」
「絶対バレないように、いっぱいフェイク入れてくれるなら」
「随分理解があるな」
「だって…それを誰かが読んで興奮するんだって想像したら…」
その先は言わなかったが、察してくれたみたいだ。
「君は最高だな」
彼はお年の割に体がお若いようで、私にキスをして、その唇をボディーに滑らせているうちに「回復」したようだ。
こりゃ、私の自慢?の体験談は、一戦交えた後に改めて、かな。
◇◇◇
私は彼に合鍵を渡された。
『俺がいないときでも、好きに使ってくれていい。何ならカレシとのホテル代わりにしてもいいよ』とまで言ったけれど、のぞき見してネタにでもするつもりだったのかな?
もちろん私は、その家では彼にしか抱かれないけど。
彼が不在のときは、仕事部屋の資料や本を物色したり、彼を思いながら、所構わずオナニーしたりした。
一度だけ、「最中」に彼が帰宅し、「いたずらな子猫ちゃんは、お仕置きが必要だね」って、その場で抱かれたこともあった。
家の北と南に大きな窓があって、両方開けると、夏場でも結構いい風が通るらしい。
北側にある部屋を、彼は寝室として使っている。そこは探勝路のある何とか渓谷に面しているので、窓から初夏の青葉も秋の紅葉も楽しめるんだって。
『こういうのを借景というんだ。写真の撮り方次第では、まるでこの部屋自体が木々に包まれているみたいに見える』と言っていた。
「だからこの部屋で俺に抱かれる君は、森の中でオオカミに犯される赤ずきんちゃんってところだね」
そんなことを言いながら、私の裸の胸のいただきに唇を落とした。
『極上の野イチゴ、見っけ』なんて台詞を、ちょっとおどけた表情で言うのも本当にサマになっている。
彼は体つきもテクニックも最高だけれど、そんなふうに「言葉に抱かれている」感じをよく味わった。
◇◇◇
誰にも話せない兄との関係も、彼に初めて話した。
「俺も君と同居の関係だったら、理性を保てたか分からないな」
「でも、結局私を棄てて結婚しちゃったけれど」
「強制的に自分の思いを断ち切ったのかもしれないよ」
「私もそう思うようにしています。じゃないと悔しいもの」
「まったく、君って子は…」
彼には本当の意味での本音が話せたし、偽名も使わなかった。
セックスの最中は本当の名前を呼んでもらった。
私はカレシとの行為の間に間違って呼んじゃったらまずいので、名前は意識的に口にせず、「おじさん」と呼んだ。
◇◇◇
特に意味もなく『おじさん』の家から足が遠のいて、3カ月目ぐらいだろうか。気付けばおじさんの家は「入居者募集中」になっていた。
その濃厚な愛撫を思い出すと、時々体が切なさを覚えるが、もう「いつかはお別れ」と考えなくていいのは気が楽だと考え直した。
◇◇◇
しばらくして、よく知らない出版社の名前の入った封筒で本が届いた。
『私の女神』というタイトルの、純文学の皮を被った官能小説。
タイトルはベッタベタだし、文章も好みではない。
ただ性描写の箇所は、「おじさん」の愛撫そのものだった。ねちっこくて、くどくて、しかし癖になる。
主人公は、妻を亡くした孤独な42歳の男・高藤。
そんな高藤が入れ上げるのは、15歳の美少女・ありさ。
ありさは母親と2人暮らしで、高藤はありさ母娘が暮らす家の家主である。
仕事が忙しく、しかも発展家の母親にないがしろにされ、寂しい目をしたありさは、高藤にどこか父性のようなものを求めて懐くが、高藤はありさを初めて見たときから、「この子を抱きたい」と求めていた。
ありさが無邪気に高藤の胸に飛び込んだとき、高藤のたがが外れた。
最初は抵抗していたありさもすぐに堕ちてしまう。
2人はお互いをむさぼり合った。
ありさは既に処女ではなかった。
『あいつ――ママの恋人が、ママの留守をねらって訪ねてきて、私をレイプしたのよ』と、衝撃の告白をする一方で、
「でも、実は私もすっごく気持ちよかったし、妊娠もしなかったから、どうでもいいんだ」
「せめて2回目は好きな人に抱かれたいって思ってた」
「おじさん、抱いて。私、おじさんが好きなの」
ありさは母親の恋人と高藤に『開発』され、性愛を求めて奔放に行動するが、それが彼女の怪しい美しさを磨いていくのだった――。
しかし二人の関係は、ありさの母親と、その(ありさの父親ヅラをしたウザい)恋人の知るところとなり…
結局は悲劇的な幕切れだった。
◇◇◇
母子家庭への偏見を感じないでもないお話だけど、そんなことを言っていたら、あらゆる「表現」ってものが成り立たないのだろう。そこは気にせず、エロい部分だけを楽しむことにした。
カレシとセックスできようができまいが、何となくムラムラすることがある。
というか、一度『その味』を知ったら、みんなそうなんじゃない?
そして自分を慰めるわけだけど、そんなとき、おじさんの小説は最高のオカズになった。辛子明太子や高菜漬けみたいにご飯が進む(個人の好みです)。
おじさんの家の高級そうなボディーソープの香り、海綿の感触、お風呂上がりに飲んだアイスジャスミンティー、どこか人の顔を思わせる寝室の天井のシミ…劣情に頭を支配され、必死で手を動かしているつもりなのに、あらゆることが思い出され、時々涙ぐんでしまう。
私はあのときだけは、おじさんのことを「愛していた」のかもしれない。
恐らく爆発的に話題になるような小説ではないが、ともあれ私という存在が、おじさんにこれを書かせた。
タイトルどおり、おじさんの女神になれたのかな。
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保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
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