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第13話 過去の亡霊【私】
しおりを挟む性的に奔放な人あるある、かも
◇◇◇
自慢ではないが、私は今までいろんな男と寝てきた。
少なくとも、20代前半というこの年齢としては多い方だろう。
いちいちリストや星取表をつくったりするようなお行儀の悪いまねはしないけれど、頭の中のリストはそれなりに整理できているつもりだった。
…だったけれど、「普段会っていない人」というのは、こんなにも唐突に現れるものなんだな、と悟った。
◇◇◇
夫が会社で所属している野球チームの練習試合を見学に行って、それとなくチームのメンバーや、仲のいい社員さんに紹介され、「ああ、うわさの美人妻ね。なるほど」的に冷やかされるなどした。グローブを買いにいった店で会ったメンバー“男性A”さんが、周囲に何となく話していたらしい。
同じ部署の上長に当たる、30歳くらいの男性Bに質問された。
「夫とはどこで知り合ったの?」
「高校時代の同級生だったんです」
「どこの高校?」
「県立R高校です」
「ああ、あそこの制服かわいいよね、なるほどね。奥さん、今着ても似合うんじゃない?」
我が母校の制服は、オーソドックスなセーラーに濃いブルーのスカーフという、ちょっと古風ともいえるものだったけれど、その安心感がうけるのか、意外と制服のファンは多かった。
上長さんは地元出身なのか(どこの高校?と聞いたということは、まあ地元なんだろうけど)、制服マニアなのか分からないけれど、「R高」だけですっとビジュアルイメージを描けたらしい。
男性Bが私から離れた後、夫が近づいてきて、「何の話をしていたの?」と尋ねた。
「出身高校聞かれた」
「へえ。あの人は共学になる前のH高校出身らしいけど、後輩かどうか知りたかったのかな」
「…って、H高の女の子じゃ、共学1期生でもまだ卒業もしてないんじゃないの?」
「それもそうか…まあ自分が卒業した後のことだし、理解がざっくりしてたんだろ?」
私の地元で大学に行く人は、たいていは私の兄も卒た地区トップのK高、H高(少し前に共学になったけれど、私たちが受験の頃はまだ男子校だった)、あるいはR高出身なので、まあそういう探りではあったんだろう。
特にH高はかなり歴史が古くて、OB同士は「僕は何期生です」があいさつ代わりなので、話のとっかかりとしては悪くない。
「R高ですって言ったら、制服のかわいいところだって言われたけど、そういうの詳しいのかな」
「ウチの学校のはかわいいって評判だったじゃん」
「そうだけど、そういうのって男性はあんまり興味ないかと思ってたから」
「興味、ねえ。別な意味ではあるんじゃないの?」
私はそこで、「別な意味?」と突っ込んで聞くようなカマトトでもないし、「制服好きの変態さんとか?」なんて、夫の先輩の悪口を言うようなことをする気もない。
「ま、いろいろあるか」と、意味不明でつまんない返しを一言だけした。
曲がりなりにも成人して結婚までしているオンナに、「高校の制服似合いそう」って、若く見えるという褒め言葉にも聞こえるけれど、侮辱と取る人もいるだろう。
「さっきの方、ご結婚は?」
「あー、どうだろ。してないんじゃないかな。それなりに遊んでそうな話は聞くけど」
「なるほどね」
こんな妄想、とても人様には言えないし、夫にはもっと言えないけれど。
(あの人、妄想の中で私にR高のセーラーを着せて、それをはぎ取って【以下、自主規制】…なんて考えてたりしてね)
実際高校時代、一度だけそういう関係になった年上の男性に、「制服着てるとこ、見たいなあ」と言われたことがあった。
それこそ趣味は「いろいろある」だろうから、そういう背徳感を好む人はきっといるだろう。
◇◇◇
河川敷のグラウンドで、対戦相手は信用金庫のチームだった。
どちらも「親睦」とか「社員の連帯」を重んじていて、別に強くはない。
時々、腕に覚えのある人が、なかなか大きいのをかっ飛ばしたり、肩の強いところを見せたりするくらい。
野球にはそんなに興味はないけれど、野球部のコと寝たことはなくもない。
ソレだけの関係なので、練習見学や試合の応援に行ったこともないけれどね。
いい体していたけれど、気遣いやテクニックはいまいちの子もいれば、びっくりするくらい繊細な愛撫をする子もいた。
という、はしたない『思い出話』はさておいて。
7月、快晴、さわやかな風。そういう場所に身を置いて、「8番、レフト、夫君」に「頑張って!」などと声援を送る美人妻(自分で言うな!)を演じるのは、そう悪い気持ちではない。
◇◇◇
双方のチームのメンバーは、ユニフォームで区別がつくけれど、応援に来た人たちは、当然「どっちがどっち」だか区別がつかない。1塁側とは3塁側とか、きっちり分かれているわけじゃないし、そもそもが老若男女、本当にバラエティーに富んでいるから。
若い女性なら、社員さん以外にも奥さんとかカノジョさんとか、あるいは姉妹かな。
男性の場合、身内もいるだろうけど、野球メンバー以外の社員さんも多いのだろう。
小さな子供同士が、試合に邪魔にならないところで遊んでいるのも見える。
(子供…私もいつかは…)
要らないわけではないが、最初の妊娠がうまくいかなかったので、少し慎重に――というか臆病にはなっている。
それを双方の実家にも理解してもらっているみたいで、今のところせっつかれないのはありがたい。
そして、結婚後の女性が絶対考えてはいけないようなことも、ちらっと考えたりもする。
(妊娠したら――お母さんになったら、もう男性に抱かれることはない?)
夫は出産後も私を抱いてくれるだろうけれど、それは「生活の中のセックス」だ。
さっきまで存在すら知らなかった「出会いがしらのヒト」の前で、服も恥もかなぐり捨てるようなセックスとか、おしゃれをして、お互いの腹の内を探り合った末…みたいな交わりも、もう許されない。
それはそれで、双六の「あがり」っぽくて悪くないかも、と思う程度には、私も落ち着いてきたと思う。
でもそれでいて、まだ何か足りないような歯がゆさもどこかにある。
ピュアでかわいい子供たちたちを見ながら、そんな不純なことを考えていたら、背後から「アヤちゃん!」と声をかけられた。
「え?」
「久しぶりだね。もう10年ぶりぐらい?いや、まだそこまでじゃないか…」
そこに立っていたのは、「丸顔、だんごっ鼻、めがね、天パ気味の頭髪が薄め」という、絵に描いたように冴えない中年男だった。
私の名前は「アヤ」ではない。しかし、そう名乗ったことは確かにある。
その記憶の糸をたどり、その男が何者なのかも瞬時に思い出した。
高校2年のとき図書館でナンパされ、一度だけ関係を持った男だ。私は名前も覚えていない。
これは――結構ヤバい状況かも。
「S産業なのかな?それともM信金?勤めてるの?家族の応援とか?」
私にこういう聞き方をするということは、一体どっちの関係者だろう。
「僕は弟がM信金で。野球は全然興味ないけど、母に頼まれて応援に来てて…」
ということは、幸い夫とは何の縁もなさそうだ。
「…あの、さっきから何のお話ですか?」
「え、アヤちゃんでしょ?僕のこと覚えていない?」
「私、その“アヤ”って人じゃありません。人違いでは?」
あのときは本名を名乗る気になれなかっただけだけど、偽名も使っておくものだわね。
とぼけているわけではなく、私は本当に「アヤ」じゃないもの。
「え?違うの?うそでしょ?アヤって名前じゃなかったっけ?」
男が馴れ馴れしく私の二の腕に触れながらそう言ったところで、夫が駆け付けた。
「あの、うちの妻に何か?」
「妻?うそぉ」
「何がうそなんです?正真正銘、俺たちは夫婦ですが」
さすがに一回寝たくらいでは、男の口癖までは知らなかったが、この人は「うそ」という言葉を軽く使いがちな人らしい。そういうのはあんまり感じよくないなあ(セックスする分には問題なかったけれど)。
しかし、ここは便乗しどころだろう。
「あなた…」
などと言いつつ夫の後ろに身を潜め、私は知らない中年男に絡まれた、ビビリのウサギちゃんのような若妻を演じた。
「あ、なんかごめんなさい…」
男は捨て台詞というには弱弱しいものを残して立ち去った。
◇◇◇
「君が知らない男に話しかけられてるのが見えたから…」
夫は“出番”も終わったので、「トイレに行く」と言い残して、私のところに駆けつけたらしい。
(そういえば彼は視力2.0だったっけ…地味にすごいな…)
「突然、“アヤちゃん”とか言われて絡まれて…怖かった…」
「普通っぽく見えたけど、ちょっとヤバいやつなのかもね。無事でよかったよ」
もうあの男に関わるのはまっぴらだけど、言質を取るために話を聞いても、『アヤちゃんかと思ったら人違いだと言われて混乱して…』などと証言するだろうから、むしろ夫が私を疑う可能性は低くなる。
自分から誘惑しておいてひどい話だと(少し)思うけれど、そもそも「図書館以外のところで話しかけたら無視する」という、あのときの私の言葉を忘れていたあの人の悪い。
「ねえ」
「なに?」
「キス、しよ」
「え…」
「ほっとしたら、欲しくなっちゃった。
◇◇◇
私と夫は、「キスするために」人目に付かない場所を探したけれど、当然キスだけでは済まない。
公衆トイレでするのは、誰が相手でも初めての行為だった。
「あ、あん…もっ…と」
「(声…抑えて)」
「う、ぐ…」
夫はグローブのにおいが残る指で、私の唇に軽く触れた。
夫はユニのズボンと下着だけ下ろし、私はスカートをまくりあげ、下着を下ろしという中途半端なスタイルで、後ろから挿入するだけの情緒のない交わりをした。
でも、それはそれで興奮するものだ。
夫の手が私のブラの中に入り込み、乳首を刺激する。
胸は執拗に刺激してほしいときと、煩わしいときがある。
正直「もっと…吸って…噛んで」という心情だったけれど、この状況では多くは望めない。
そして、そのもどかしさに逆に興奮する。
焼肉のタレのCMじゃないけど、「足りないぐらいがおいしい」ってやつかな。
バックはあまり好きではないのだけれど、「おとなしそうに見えて、ベッドの中ではそれなり」な夫のそそり立ちを味わうには、割と向く体位かもしれない。たまには意識的にこういうセックスをするのもよさそうだ。
夫は「まだまだ、まだまだ君の中にいたいよお~」と駄々っ子のように言いながら、射精後にやたら悔しがることもあるが、さすがに今回は「迅速」が求められる。
達しそうになる少し前に、カラカラとペーパーホルダーの金具を鳴らしながら、トイレットペーパーを勢いよく手に巻き取って、「びゅっ」の瞬間にペニスを抜き取り、その場で発射を止めた。
「あわただしくて…ごめんね…」
そう言って、仕上げのキス。この辺の気遣いは、我が夫ながらあっぱれである。
「ううん、私が…欲しいって言ったんだもん…」
まあ、もろもろ「お楽しみ」は夜にとっておこう。
◇◇◇
とってつけたようだけれど、試合は5対2で夫たちのS産業が勝った。
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