小手先の作業

あおみなみ

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ケーキ・ア・ラ・モード

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 小学校4年生のとき、生まれて初めてアイススケートというものをしました。

 郡山市の駅前繁華街のビル内の、中央スケートリンクという名前でした。
 今思い出すと、飲食店やオフィスが混在する細長いビルの中に無理やりつくられた感のある、非常に小さいリンクでしたが、交通の便がいい場所にあり、手軽に滑れるのがよかったのでしょう。テレビでも(動かない絵の)CMを放送していたので、「♪ちゅーおー、すけーと りーんく」というCMソングが、頭の片隅に残っています。

 余談ですが、何度も繰り返し見聞きし、まさに頭に叩き込まれる情報というのは、海馬が「これは生きるために必要な情報」だと勘違いするから忘れないのだ――という趣旨のネット記事を読みました。
 40年以上経っているのに忘れないというのは、このCMソングは私が生きるために必要な情報ということにされているということ?大した容量ではないけれど、ほかのもっと有益な情報のために場所スペース譲ってくれないかなあ。

 ◇◇◇

 私が当時通っていた小学校は、3年生からいわゆる「スポーツ少年団」への加入ができたのですが、私は最初のスケート体験を「面白い」と感じられたようで、自ら「スポ少に入ってスケートしたい!」と親に頼みました。

 ただ、もともとスポ少にスケートという競技があったのか、新しくつくられたので「入りたい」と志願したのか、よく覚えていないのです。

 というのも、昭和54(1979)年には(下記注※※)、郊外に「郡山スケートセンター」というかなり規模の大きいリンクが新装オープンし、それがたまたま我々の学区内だったので、格好の練習場所となったのですが、それができる前は、駅前の中央スケートリンクで練習していた記憶があるからです。

**
自分が小学校5年生になったのが79年だったので、この年ではという計算上の数字です。
当該施設は現在ないため、調べても正確な情報が得られませんでした。
**

 そういえば、学校単位のスポーツ少年団というのも、少子化の影響で最近はあまりないのでしょうか。
 あったとしても、近い地域にある複数の学校で1チームという編成だったり?近所のコンビニやスーパーで、「メンバー募集」というポスターを時々見かけます。

 それでも平成ヒトケタ生まれの私の長女の頃は、まだ1校で1チームが成立していたのですが、競技の数自体も減っていた記憶があります(次女はスポーツが嫌いで、そもそも入ろうという選択肢がなかったため、どうだったか覚えていません)。

 それはともかくとして。
 郡山スケートセンターに練習場所が移動になった後は、新しくきれいで充実した施設で、新品の貸し靴で靴擦れをつくりながらも、一生懸命練習した記憶があるのですが、中央スケートリンク時代は、練習よりもそれを終えた後の記憶が「ぼんやりくっきり」あります。

「ぼんやり」というのは、そもそも駅前まで何で行っていたのか?そして何で帰ってきたのか?
 自分の親やチームメイトの親御さんに車で送ってもらっていた可能性も高いのですが、当時我が家には車がありませんでした。父が社用車を半ば私用に(一応許可は取っていたでしょうが)使ってはいたものの、乗せていってもらった記憶がありません。

 とはいえ、バスで行っていたとか、友達の家の車に乗ったという明確な記憶もないのです。

 徒歩で?行けないことはないけれど、30分はかかるしなあ…。
 ひとりで?どちらかというと、「練習場所で会えば話す」程度の友達しかいなかったからなあ…。
 学校から集団で行っていた?これもピンと来ません。学校のバスがあったわけでもないし。

 仮に「ひとりで駅前まで歩いていった」ということにしましょう。
 朝早く出て、通常の営業時間前の2時間ほど場所を借りて練習して、終わったら現地解散でした。

 家族ぐるみのお付き合いがあるような人たちは、親御さんが子供たちを迎えに来て、そのまま繁華街でお昼ということもあったかもしれませんが、私は大体、その後は単独行動でした。

 小学校の野暮ったい色のジャージを来て、冬はせいぜいその上から薄手のウインドブレーカーという格好なので、幾ら小学生といえど、その格好での街歩きは恥ずかしい――はず。
 にもかかわらず、私はその格好のまま、デパートや商店街に行ったりしていた記憶が妙にはっきりとあるのです。

 テレビでCMをやっていたおもちゃを見たり、本を立ち読みしたり、「何かおいしいもの」が食べられるかもしれないと期待してのものでした。

 子供なので、500円札があれば「懐が温かい♪」とはずんだ気持ちになれていた頃です。
 今とは物価も違うとはいえ、500円では豪遊もできなかったはずだし、実際せいぜいちょっとしたお菓子くらいしか買っていなかったはず。
 それでいて、「何かおいしいもの」のイメージは、いつも頭の中で全く同じでした。

「楕円形で脚のついたガラスの食器に、フルーツとチョコケーキとアイスと生クリームとプリンが載ってるヤツ」

 それは「ケーキアラモード」という名前で、地元製菓会社の喫茶部で出していたメニューです。
 チョコケーキはオペラでした。というか、このメニューで初めてオペラというケーキを知ったのです。

 母に連れられて行ったお店がどこだったか、覚えていなかったわけではないのです。
 何度も繰り返し、その店舗の前まで行きました。
 ガラス越しに見える、おしゃれな雰囲気の店内に、前髪ぱっつん、ほっぺの赤い芋ジャー娘が独りで入ることは、ついぞできませんでした。

 「何度も繰り返し」というのは、記憶が改ざんされているというより「盛られて」いるだけだと思います(ケーキアラモードだけに)。
 多分、新しい練習場に移るまで1年もなかったと思います。というか、数カ月のことでしょう。
 そしてその間、せいぜい2、3回あっただけのことを鮮明に覚えているだけだと思います。

 食べておいしかったものの、目に美しかったものの記憶が残るのは当然ですが、「食べたくても食べられなかったもの」もまた、嫌になるほど目に、脳に、舌に焼き付きます。多分母が食べさせてくれたのは、これまたせいぜい2、3度だったでしょう。

 ◇◇◇

 ちなみに、新しくて広いリンクに移った後、練習後の楽しみは、自動販売機で売っていた缶入りのホットレモンティーでした。
 冬はかじかんだ手を温めるため、途中で買って、飲みながらリンクまで行ったこともあります。

 スポーツ全般苦手だったくせに、スケートとは相性がよかったようで、コーチから「あなたは素質がある。でも、フィギュアをこれから本格的にやるのは年齢的にアレだから、スピードを始めないか?」というお誘いを受けたこともありました。

 根性なしの私がその気になったところで、鳴かず飛ばずで終わっていたことでしょうが、一流アスリートが意外と「ひょんなことから」その競技を始めることは間々あります。
 ひょっとしたらひょっとして…ないな、うん、ない(断言)。
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