小手先の作業

あおみなみ

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【再掲載】1993年、「ダンベル体操」ブームのころ

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 もう30年前のことなので、私はまだ20代だった。
 てことは、去年他界した母が、今の私より少し年下くらいの年齢だったはずだ。

 ある日実家から「今度家に来たら、譲りたいものがある。少し重いが持って帰ってくれるか?」と電話があった。
 ならばと旦那に車を出してもらって一家で赴くと、一応歓迎はしてくれたものの、「旦那ちゃんがいるところでは渡しにくい」と、なぜか恥ずかしそうだった。
 まあ結局は渡してくれたのだが、それは本と、2キロ×2個の鉄あれい(※)だった。

※「鉄亜鈴」という字を当てることが多いようですが、dumbbell鳴らない鐘の原義を考えると、鉄鈴の方が意味としては合っているようです。で、何か面倒になって平仮名表記にしました。違和感を覚える方もおいででしょうが、サーセンです。

◇◇◇

 詳しく聞いてみると。
 太り気味で腰痛がひどくなってきたので、少し体重を落とさんと、流行りのダンベル体操の本を買ったらしい。
 形から入りがちな母は、本をよくよく読む前に、ホームセンターだかスポーツ用品店だかで鉄あれいも買った。それは昔ながら?の、塗装がはげたり錆びたりしそうな鉄の固まりである。
 店にあるもののうち、片手でぐっと持ち上げられるマックスのもの、くらいの感覚で、適当に買ったらしい。

 しかし本をきちんと読んでみたら、「腰の悪い方は避けてください」と序盤で書いてあった――ということで、ダンベル体操をダンネンしたという、圧倒的マンガチック展開だったらしい。
 それ以前に、初心者がいきなり片手2キロって重すぎないかなというのも気になった。

 開き直った母は、「恥ずかしい」と言いつつ私たちに全部ぶっちゃけた。
 旦那はその場では愛想笑いをし、帰りの車中で「君のお母さんは若いよね」と言った。私は母のミーハーな部分を嫌いではなかったので、「ねー」とだけ答えた。
(ちなみに「ダイエットの歴史」的な記事の中で、90年代のダンベルブームは中高年が中心だったと書いてあった)

 私は1キロのものを買い直し、何日かは続けたが、ある日「まあ、いっか」と急激に冷め、ダンベルは重石おもし的に使い、本は適当な読み物として眺めるようになった。
 よく考えたら、自分も母ほどではないにせよ、腰痛を起こしやすい方なのだった。
 腰痛防止のために筋肉をつけて…という発想もあったろうが、いろいろと考えることが多過ぎて面倒くさくなった。

 私は飽きやすいというよりも、「いろいろ考えるのが面倒になって」習慣化しようとしたことを断念することが圧倒的に多い。
 具体的にフローを説明すると…

何かを始めようとする。【ふりだし】
   ↓
「しかし、形から入るのは何か嫌」と思う
   ↓
「いやいや、形から入ろうが何となく始めようが、続けばいいんだよ」と柔軟にとする
   ↓
「でも、本当に続くものは、自然に始めて自然に続くはずだ」と、結局自分が一番「形から入るのは嫌」という型にはまっていたのだと、軽い自己嫌悪に陥る
   ↓
ええい、面倒だ。やーめた【あがり】

いつもこれである。

◇◇◇

 筋肉は体中にあり、つながっている。
 つまり「ここだけ」鍛えればいいというものではない。
 不定期で「ちょっと体重しぼった方がいいな」と思ったら、いつだったかジムのインストラクター的な人がテレビで言っていた「一番大きな部分の筋肉を使うのが効果的」というのを愚直に守り、ゆるスクワットや大股歩きをする程度だ。

 年齢が上がればある程度は仕方ないにせよ、母の介添えをしていた頃、筋肉の存在感皆無の細い手足にショックを受けたことがあった。
 やっぱり先々の介護予防のために、自分なりに筋トレをすべきなんだろうなと思った。

 といっても、ダンベルに再チャレンジはなさそうだし、ジム通いはもっとなさそうだけれど。

【了】
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