短編集「なくしもの」

あおみなみ

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根古柳四丁目2番15号

エピローグ

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 『ゆっくりでいいぞ』の言葉どおり、お祖母ちゃんがお祖父ちゃんのもとに旅立ったのは、それから10年経ってからのことだった。

 私はよその土地の大学を卒業し、そこで職を得て働き始めていたけれど、何とか大急ぎで帰省し、お祖母ちゃんとちゃんと「お別れ」ができた。

 私の花嫁姿とかひ孫とか、ちょっと楽しみにしていたようなので、それをかなえられなかったのは残念だけど、「アヤちゃん、美人になったねえ」って、はかない呼吸の中から絞り出すように、笑顔で言ってくれた。

(そんなことを言ってくれるのは、お祖母ちゃんだけだよ)

▽▽

 忌引休暇を終えて帰る前に、我が母校・屋布高校と、そこから歩いて何分もかからない「根古柳四丁目2番15号」のあの場所に行ってみた。

 あの複雑に増築した感じの平屋も、キョウチクトウの木も、もちろん看板もなくなり、更地になっていた。
 建物が建っていた場所が更地になったのを見ると、いつも「ここってこんなに狭かったっけ?」と思うものだけど、今回も例外ではなかった。

 あの拝み屋さんは、今もどこか別のところで元気に数珠を鳴らしているのだろうか。

 しゃれにならない霊感商法は勘弁してほしいけれど、お祖母ちゃんに「土用の土いじり」の注意喚起をしてくれてありがとう。
 私は草抜きをして、何と5,000円ももらっちゃったので、3,000円で欲しかったTシャツを買って、2,000円は貯金箱に入れたっけ。

「まあ、何というか、いろいろ感謝します」

 そんな気持ちを込めて、更地に向かってぺこっと一礼してみた。

[了]
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