13 / 26
40年間、心の中で飼い慣らしていた恨みのお話
300円で40年恨んでます
しおりを挟む
私が中学生のとき、授業中にシャープペンを使うことを禁じていた教師が2人いた。
1人は1年生に美術、2年生に英語を教えていた女性教師だったが、禁止していたのは美術の授業だけだったと思われる。
シャープペン自体を否定していたわけではなく、水彩画の下絵やデッサンには鉛筆の方がいいという考えから禁止していたので、これは理にかなっていたし、生徒たちも納得して従っていた。
私はたまたま消しゴムを忘れ、シャープペンの消しゴムを使おうとして「シャープは駄目ですよ」と頭ごなしに言われたことがあったけれど、まあ消しゴムを忘れた自分が悪いので、当時一瞬だけ「むすっ」とした程度で、今はさすがに何とも思っていない。
そして2人目は、3年時の数学の男性教師だった。
片仮名書きだと外国人名と間違ってしまうような、少し変わった姓の持ち主だった。
「苗字由来net」で調べてみたら、人数は400人以下、順位は15,000位見当だから、かなり希少のようだ。東京・福島・新潟に多いらしい。以下「Y」と呼ぶ。
Yは単に典型的な昭和脳――というか、そもそも時代は昭和50年代なので、当然といえば当然か。年齢を考えると、私の父と同じ昭和ヒトケタというやつだろう。
実のところ平成、令和になってもわずかに残ってはいそうだが、いわゆる鉛筆信仰に基づいてシャープペンを禁止していたタイプだ。
しかし、学校全体の規則として禁止するほどの権力はなかったので、自分が担当する授業でだけ使用を禁止していた。
Yの困ったところは、前者の女性教師が口頭注意だけだったのに対し、使っている生徒から、がっつり没収までしていたところである。
私は基本的に真面目だったので、持ち物の没収自体経験がなかったが、何にせよ、学期末や卒業直前に返すことが前提の没収だと思っていた――実際に身をもって経験するまでは。
◇◇◇
お気に入りのシャープペンは、「ジンジャータウン」というキャラクターもので、ボディーカラーはくすんだブルーだった。
サンリオキャラクターにはあまりいないタイプの落ち着いた絵柄と色調で、犬、ウサギ、キツネなどが、お揃いのスモックを着て学校に通ったり、オーバーオール姿で作業をしたりというのがユーモラスでかわいい。思い切りシブめのシルバニアファミリーといった風情もあった。
「あまりほかの人が使っていないものが欲しい」と考える時期は、誰にでもあると思う。周囲の子が「かわいいね」と言いつつ使おうとしなかったのは、私には好都合だった。自分だけのお気に入りだと思い、お小遣いで少しずつ買い、大切に使った。
300円のシャープペンなど、今の感覚なら毎日でも買えないことはないけれど(かといって、買わないけれど)、当時は1カ月のお小遣いから300円を捻出するのは勇気の要ることだった。
そんなお気に入りをうっかり使ってしまい、授業開幕2分程度で取り上げられて落ち込んでいると、学校の文化祭の季節になった。
大した展示物もなく、訪れるのは近所の人たちくらいだったものの、体育館を丸々一つ使ったバザーは生徒にも近隣住民にも大好評だった。
私がクラスの当番で教室にいるとき、他のクラスの友人が慌ててやってきた。
「バザーであれ見つけたよ、あれ」
「あれ?」
「Yから取り上げられたっていってたシャープ!みなみちゃん、そう言って落ち込んでたよね」
「え?どういうこと?」
「文房具のコーナーで売ってたの」
「はいぃ?」
その友人は、そのシャープが一目見て私のものだと分かったという。
いや、正確には私のものという確証はなかったのだが、少なくとも全く同じ商品だとすぐ分かったらしい。
100円均一の文房具売り場と聞き、休憩時間に飛んでいったが、いくら探してもそこにはなかった。多分、売れてしまった後なのだろう。
「見つけた」と知らせてくれた友達は、「私があのとき買っておかなかったばっかりに…ごめん!」とわびてくれたが、もちろん彼女のせいではないし、彼女を恨んではいない。
第一、本当に私からの没収品だったのかも確証がない。
ほかにも被害報告があれば分かりやすかったが、そういう声は聞かなかった。少なくとも私の耳には入らなかった。
ただ、一つだけ言えることは、Yは私に2学期末になっても卒業シーズンになっても、それを返してくれなかったことだ。
◇◇◇
今回これを書くにあたり、そういえば「没収」って言葉って結構カジュアルに使っちゃうけど、実際のところどうなのよ――という疑問が湧いて調べた。
没収とはすなわち、こういうことらしい。
ぼっしゅう…ボッシウ【没収】
〘名〙
(1) 財産や権利などを取り上げること。収没。もっしゅ。もっしゅう。〔新令字解(1868)〕
(2)刑罰の一つ。犯罪行為に使用したり、犯罪行為によって得たりなどした物の所有権を犯人から強制的に奪って国家の所有に移すこと。刑法上の付加刑で、懲役や禁固などの刑を科する場合に限り、これと合わせて科することができる。〔刑法(明治四〇年)(1907)〕
(3) =ぼっしゅ(没取)②〔未成年者飲酒禁止法(1922)〕
出典:精選版 日本国語大辞典
***
何だか物騒な言葉が多数出てきて、はっきり言ってビビッてしまった。決して「返すこと」が前提のときに使う言葉ではないようだ。
ということは、Yが取り上げたものを返さないのは百歩譲って間違っていなかったとして、果たして私が数学の授業でシャープペンをうっかり使ったものをペナルティーとして取り上げ、売却(あるいは紛失)してしまったことは、正しかったのだろうか――断じて否!である。
ウサちゃんやワンちゃんの絵がついたシャープで、一体いかなる犯罪行為が可能だというのだ?
この、一応優等生で通っていた私が、300円のシャープペン欲しさにチロンヌップ(当時郡山市にあった、女子小学生~高校生に人気ファンシーショップ)で万引き行為でも働いたというのか?
ざけんじゃねえぞ、Y(勢いで実名を挙げてしまうのを、何とか思いとどまった)。
くたばれ!と言いたいところだが、多分もう既に鬼籍に入っていることだろう。
◇◇◇
メルカリで調べてみたら、ジンジャータウングッズ自体は割と出品されているが、どれも今や市場に出回っていないため、どうしても高額である。
ついでにいえば、私があのとき取り上げられ、売り飛ばされたと仮定されるシャープペンは出ていなかった。
あゝ、悔しい。40年経っても悔しいものは悔しい。
【ブログ転載のため、少し違う話題の「おまけ」も引き続きどうぞ →】
1人は1年生に美術、2年生に英語を教えていた女性教師だったが、禁止していたのは美術の授業だけだったと思われる。
シャープペン自体を否定していたわけではなく、水彩画の下絵やデッサンには鉛筆の方がいいという考えから禁止していたので、これは理にかなっていたし、生徒たちも納得して従っていた。
私はたまたま消しゴムを忘れ、シャープペンの消しゴムを使おうとして「シャープは駄目ですよ」と頭ごなしに言われたことがあったけれど、まあ消しゴムを忘れた自分が悪いので、当時一瞬だけ「むすっ」とした程度で、今はさすがに何とも思っていない。
そして2人目は、3年時の数学の男性教師だった。
片仮名書きだと外国人名と間違ってしまうような、少し変わった姓の持ち主だった。
「苗字由来net」で調べてみたら、人数は400人以下、順位は15,000位見当だから、かなり希少のようだ。東京・福島・新潟に多いらしい。以下「Y」と呼ぶ。
Yは単に典型的な昭和脳――というか、そもそも時代は昭和50年代なので、当然といえば当然か。年齢を考えると、私の父と同じ昭和ヒトケタというやつだろう。
実のところ平成、令和になってもわずかに残ってはいそうだが、いわゆる鉛筆信仰に基づいてシャープペンを禁止していたタイプだ。
しかし、学校全体の規則として禁止するほどの権力はなかったので、自分が担当する授業でだけ使用を禁止していた。
Yの困ったところは、前者の女性教師が口頭注意だけだったのに対し、使っている生徒から、がっつり没収までしていたところである。
私は基本的に真面目だったので、持ち物の没収自体経験がなかったが、何にせよ、学期末や卒業直前に返すことが前提の没収だと思っていた――実際に身をもって経験するまでは。
◇◇◇
お気に入りのシャープペンは、「ジンジャータウン」というキャラクターもので、ボディーカラーはくすんだブルーだった。
サンリオキャラクターにはあまりいないタイプの落ち着いた絵柄と色調で、犬、ウサギ、キツネなどが、お揃いのスモックを着て学校に通ったり、オーバーオール姿で作業をしたりというのがユーモラスでかわいい。思い切りシブめのシルバニアファミリーといった風情もあった。
「あまりほかの人が使っていないものが欲しい」と考える時期は、誰にでもあると思う。周囲の子が「かわいいね」と言いつつ使おうとしなかったのは、私には好都合だった。自分だけのお気に入りだと思い、お小遣いで少しずつ買い、大切に使った。
300円のシャープペンなど、今の感覚なら毎日でも買えないことはないけれど(かといって、買わないけれど)、当時は1カ月のお小遣いから300円を捻出するのは勇気の要ることだった。
そんなお気に入りをうっかり使ってしまい、授業開幕2分程度で取り上げられて落ち込んでいると、学校の文化祭の季節になった。
大した展示物もなく、訪れるのは近所の人たちくらいだったものの、体育館を丸々一つ使ったバザーは生徒にも近隣住民にも大好評だった。
私がクラスの当番で教室にいるとき、他のクラスの友人が慌ててやってきた。
「バザーであれ見つけたよ、あれ」
「あれ?」
「Yから取り上げられたっていってたシャープ!みなみちゃん、そう言って落ち込んでたよね」
「え?どういうこと?」
「文房具のコーナーで売ってたの」
「はいぃ?」
その友人は、そのシャープが一目見て私のものだと分かったという。
いや、正確には私のものという確証はなかったのだが、少なくとも全く同じ商品だとすぐ分かったらしい。
100円均一の文房具売り場と聞き、休憩時間に飛んでいったが、いくら探してもそこにはなかった。多分、売れてしまった後なのだろう。
「見つけた」と知らせてくれた友達は、「私があのとき買っておかなかったばっかりに…ごめん!」とわびてくれたが、もちろん彼女のせいではないし、彼女を恨んではいない。
第一、本当に私からの没収品だったのかも確証がない。
ほかにも被害報告があれば分かりやすかったが、そういう声は聞かなかった。少なくとも私の耳には入らなかった。
ただ、一つだけ言えることは、Yは私に2学期末になっても卒業シーズンになっても、それを返してくれなかったことだ。
◇◇◇
今回これを書くにあたり、そういえば「没収」って言葉って結構カジュアルに使っちゃうけど、実際のところどうなのよ――という疑問が湧いて調べた。
没収とはすなわち、こういうことらしい。
ぼっしゅう…ボッシウ【没収】
〘名〙
(1) 財産や権利などを取り上げること。収没。もっしゅ。もっしゅう。〔新令字解(1868)〕
(2)刑罰の一つ。犯罪行為に使用したり、犯罪行為によって得たりなどした物の所有権を犯人から強制的に奪って国家の所有に移すこと。刑法上の付加刑で、懲役や禁固などの刑を科する場合に限り、これと合わせて科することができる。〔刑法(明治四〇年)(1907)〕
(3) =ぼっしゅ(没取)②〔未成年者飲酒禁止法(1922)〕
出典:精選版 日本国語大辞典
***
何だか物騒な言葉が多数出てきて、はっきり言ってビビッてしまった。決して「返すこと」が前提のときに使う言葉ではないようだ。
ということは、Yが取り上げたものを返さないのは百歩譲って間違っていなかったとして、果たして私が数学の授業でシャープペンをうっかり使ったものをペナルティーとして取り上げ、売却(あるいは紛失)してしまったことは、正しかったのだろうか――断じて否!である。
ウサちゃんやワンちゃんの絵がついたシャープで、一体いかなる犯罪行為が可能だというのだ?
この、一応優等生で通っていた私が、300円のシャープペン欲しさにチロンヌップ(当時郡山市にあった、女子小学生~高校生に人気ファンシーショップ)で万引き行為でも働いたというのか?
ざけんじゃねえぞ、Y(勢いで実名を挙げてしまうのを、何とか思いとどまった)。
くたばれ!と言いたいところだが、多分もう既に鬼籍に入っていることだろう。
◇◇◇
メルカリで調べてみたら、ジンジャータウングッズ自体は割と出品されているが、どれも今や市場に出回っていないため、どうしても高額である。
ついでにいえば、私があのとき取り上げられ、売り飛ばされたと仮定されるシャープペンは出ていなかった。
あゝ、悔しい。40年経っても悔しいものは悔しい。
【ブログ転載のため、少し違う話題の「おまけ」も引き続きどうぞ →】
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる