1 / 4
キャンディボール
しおりを挟む
(父の話を真に受けると)母は昔、とてもはつらつとしていてキレイだった――らしい。
いやいや今だって、年の割にはっちゃけているというか、無駄に元気なんだけど、体重はいちばん細かったときから20キロ増えたという。今40代だから、1年で1キロっていうか、10年で10キロ増えた計算になるのかな。
父と20代半ばで結婚したとき、お式に備えてエステに通って磨き上げたとは言っていたけど、確かに写真を見る限り、とってもきれいだった。
顔は面影があるから、別人とまでは思わないけれど、だからこそ物悲しいものがある。
何というか…まだまだ自分はイケてると思っているオーラがあるというか。
明るくて優しくて料理上手な「いいお母さん」なんだけど、そういうところには違和感を覚えるというか、はっきり言って好きじゃない。
キツいことを言えば、「自重しろオバハン」なのだ。
***
突然話題は変わるが。
私の中学校の事務室には、窓の外にカウンターが張り出していて、その上にピンク色の公衆電話が置いてある。
学校への携帯・スマホの持ち込みは禁止されているから、忘れ物をしたとかで自宅に連絡しなければならないときは、そこから10円玉を使って電話するのだ(お財布を忘れたときは、事務室でコインか固定電話を貸してくれる)。
「その日」忘れ物をしてしまった私は、家に電話をした。
クラスメートで親友のマナが面白半分に一緒に来て、後ろで待っていた。
彼女は今まで公衆電話を使ったことがないという。
しかし、なぜかいるはずの母が出ない。
留守電に切り替わってしまったので、「え?なんでなんでなんで?」と慌てているところに、なぜかやたら張りのある大声で名前を呼ばれた。
「あんたの忘れ物、谷先生に預けたわよ~!」
そう言いながら小走りで、うれしそうに近づいてきたのは母だった。
公衆電話で話していた私の姿は、事務室や職員室がある棟の入口からくっきり見える。
私の忘れ物に気づいてすぐに家を出た母は、私が電話してくるのを予想して、まずは公衆電話の方を見にいこうとしたのだが、たまたま私たちの担任である谷先生に声をかけられたので、挨拶がてら事情を話したら、預ってくれたそうだ。
「そうなんだ~。何か悪かったね!」
少し離れた場所からなので、私の声も少し大きくなっているのが自分でも分かった。
(文字に書き起こしたら、怒っているみたいな見えるかもな…)
「じゃ、そゆことで~!」
母は軽く頭を縦に傾けて、手を振って去っていった。
多分マナへの挨拶だったのだろう。
娘の携行品をしっかり把握していて、恩着せがましくなく、あくまでさりげなーく持ってきて、明るく挨拶をして帰っていく。
彼女のどこにも落ち度はない。
落ち度どころか、「いいお母さんだね」とうらやましがられてもおかしくないほどの対応だと思う。
マナは去っていく母の姿を見て、多分悪気なくこう言った。
「あんたのママさんって、なんかキャンディボールみたいだね」
「キャンディボール?」
「元気にぴょんぴょん弾んで、明るい色の服着てて」
100均にも売っている、小さい子が遊ぶあのカラフルなボールのことらしい。
マナの口調はバカにしたものではなかったし、悪口でないことは分かるのだが、母の元気な様子をまん丸いものに例えられたのが気になった。
「そうだね、うちのお母さん太ってるからね」
「あ、そういう意味じゃないよ?太ってるっていうか――ちょっとふくよかだけど」
「いいいい、分かってるから」
マナはその後、「不自然なほどに自然に」話題を変えた。
「ねえ、それより英語の宿題やった?」だってさ。
始業10分前に何言ってんのよって話。
私はマナのお母さんを知っている。
身長が170センチ近くあって、すらっとしている。「メイク落とすと顔がなくなる」と言われるほどのあっさり顔も、実は私の好みだ。
マナは体型も顔もお母さん似だから、きっとあんな大人になるのだろう。
そんなマナの口から出てきた「キャンディボール」という言葉は、そこそこ破壊力があった。
いやいや今だって、年の割にはっちゃけているというか、無駄に元気なんだけど、体重はいちばん細かったときから20キロ増えたという。今40代だから、1年で1キロっていうか、10年で10キロ増えた計算になるのかな。
父と20代半ばで結婚したとき、お式に備えてエステに通って磨き上げたとは言っていたけど、確かに写真を見る限り、とってもきれいだった。
顔は面影があるから、別人とまでは思わないけれど、だからこそ物悲しいものがある。
何というか…まだまだ自分はイケてると思っているオーラがあるというか。
明るくて優しくて料理上手な「いいお母さん」なんだけど、そういうところには違和感を覚えるというか、はっきり言って好きじゃない。
キツいことを言えば、「自重しろオバハン」なのだ。
***
突然話題は変わるが。
私の中学校の事務室には、窓の外にカウンターが張り出していて、その上にピンク色の公衆電話が置いてある。
学校への携帯・スマホの持ち込みは禁止されているから、忘れ物をしたとかで自宅に連絡しなければならないときは、そこから10円玉を使って電話するのだ(お財布を忘れたときは、事務室でコインか固定電話を貸してくれる)。
「その日」忘れ物をしてしまった私は、家に電話をした。
クラスメートで親友のマナが面白半分に一緒に来て、後ろで待っていた。
彼女は今まで公衆電話を使ったことがないという。
しかし、なぜかいるはずの母が出ない。
留守電に切り替わってしまったので、「え?なんでなんでなんで?」と慌てているところに、なぜかやたら張りのある大声で名前を呼ばれた。
「あんたの忘れ物、谷先生に預けたわよ~!」
そう言いながら小走りで、うれしそうに近づいてきたのは母だった。
公衆電話で話していた私の姿は、事務室や職員室がある棟の入口からくっきり見える。
私の忘れ物に気づいてすぐに家を出た母は、私が電話してくるのを予想して、まずは公衆電話の方を見にいこうとしたのだが、たまたま私たちの担任である谷先生に声をかけられたので、挨拶がてら事情を話したら、預ってくれたそうだ。
「そうなんだ~。何か悪かったね!」
少し離れた場所からなので、私の声も少し大きくなっているのが自分でも分かった。
(文字に書き起こしたら、怒っているみたいな見えるかもな…)
「じゃ、そゆことで~!」
母は軽く頭を縦に傾けて、手を振って去っていった。
多分マナへの挨拶だったのだろう。
娘の携行品をしっかり把握していて、恩着せがましくなく、あくまでさりげなーく持ってきて、明るく挨拶をして帰っていく。
彼女のどこにも落ち度はない。
落ち度どころか、「いいお母さんだね」とうらやましがられてもおかしくないほどの対応だと思う。
マナは去っていく母の姿を見て、多分悪気なくこう言った。
「あんたのママさんって、なんかキャンディボールみたいだね」
「キャンディボール?」
「元気にぴょんぴょん弾んで、明るい色の服着てて」
100均にも売っている、小さい子が遊ぶあのカラフルなボールのことらしい。
マナの口調はバカにしたものではなかったし、悪口でないことは分かるのだが、母の元気な様子をまん丸いものに例えられたのが気になった。
「そうだね、うちのお母さん太ってるからね」
「あ、そういう意味じゃないよ?太ってるっていうか――ちょっとふくよかだけど」
「いいいい、分かってるから」
マナはその後、「不自然なほどに自然に」話題を変えた。
「ねえ、それより英語の宿題やった?」だってさ。
始業10分前に何言ってんのよって話。
私はマナのお母さんを知っている。
身長が170センチ近くあって、すらっとしている。「メイク落とすと顔がなくなる」と言われるほどのあっさり顔も、実は私の好みだ。
マナは体型も顔もお母さん似だから、きっとあんな大人になるのだろう。
そんなマナの口から出てきた「キャンディボール」という言葉は、そこそこ破壊力があった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる