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2人の来訪者
しおりを挟む私と「彼」は、ケンカらしいケンカもせず4年間、生活をともにして、そして別れた。
私は「彼」が大好きだったけど、「彼」のほうはどうだったか分からない。
だって、別れ話の場に、「彼」はいなかったから。
***
ある日、私の部屋に男女1名ずつのお客様がいらした。
上等そうな淡い色のシャネルスーツを着た50歳くらいの女性と、ぱりっとしているけどこなれた背広姿の男性がうちに来て、私の前にお金の入った封筒を置いて、「これで息子と別れてほしい」と女性に言われた。
スーツ男のほうは、女性よりは若そう。名刺もらったけど、よくよく見ていない。
何かどっかの社長さんの秘書?みたいな人らしい。
「彼」は20歳のとき大学を辞めて、それからはバイト生活だった。
私は「彼」より2歳下で、専門学校に通っていて、「彼」の最初のバイト先で知り合って、恋人になった。
私の就職後に、タイミングよく?家賃の滞納でアパートを追い出された「彼」に、「うち来る?」とか声かけて、そこから同棲生活が始まった。
「彼」は自分のことをあまり話してはくれなかったけれど、バイト代からちゃんと生活費を出してくれていたので、私はいろいろ深く追及もしなかった。
「大分お世話になったと思いますし、これくらいは、ねえ……」という金額らしい。
よく分かんないけど、こういうのって贈与税とか申告しなくちゃいけないんだっけ?あ、金額的にセーフ……とか?
(後で調べよう)なんて考えていた。
そんなふうに、まるで他人事として考えないと、何だかおかしくなりそうだった。
ちょっと冷静になっても、「こんなのいただけません」と返すのがやっとだったけれど、「お金は邪魔にはならないから、受け取ったほうがいいですよ」と男性に言われた。
ざっと言うと、「彼」はある企業の社長の息子で、子供の頃から結婚の約束をした女性がいたらしい。
その人と結婚してお父さんの後継者になる前に、「気が済むまで自由にやらせてほしい」と言って学校を辞め、一人暮らしを始めた。
「彼」と、彼のご両親の思惑にずれがあったのかどうか、「自由に」の中に、恋愛も含まれていたのかどうかは分からない。
両親は「彼」の「いずれはきちんとけじめをつけるから」という言葉を信じて、私たちの仲をいちおう静観したけれど、「さすがにそろそろ……」と、「彼」が留守のところをねらって、私に直談判に来たのだろう。
そうか、「彼」ってもう26歳になっていたんだ。
「あなたは息子よりお若いのよね?おいくつ?」
「あ、はい、24歳です」
「そう。まだまだ十分やり直せるわ。何事も経験だったと思って、ね」
上品で優しそうな話し方で、手前勝手な都合を押し付けるだけのこの人に、私はもっと腹を立てるべきなんだと思う。
でもね、怒りって結構エネルギーを使うものなのよね。
腹の底に力が入っていない状態では湧いてもこないというか、ふわふわと、「何言ってんの?」といぶかしがったり、「それはもっともだなあ」と説き伏せられたりがやっと。
「あの、あの人はこのことを……」
「え?ああ……実は息子から頼まれたのよ。あなたを傷つけたくないから、顔を合わせるのが辛いって」
「……そうですか」
花をろくに見ずに「綺麗だね」と言い、カレーうどんを上品にすする横顔を思い出した。
これが、そんな「彼」の思いやりで、誠実さなのだろう。
「うそです!「彼」ならはっきり目を見て話してくれるわ!」なんて言葉は、全く頭に浮かばなかった。
私の「彼」への思いも、その程度だったということかもしれない。
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