34 / 231
第10章 もし、本当に千弦さんに会えたら【千弦と聡二】
「いえ、飲んだらなくなってしまうので…」【聡二】
しおりを挟む
「今日は電車はどうなっているの?」
「終夜運行で、2、30分に1本は来ます」
「そう。じゃ、もう少し遅くなっても大丈夫かしら?」
「え?ええ、まあ…」
「せっかくなので、温かい飲み物でもいかが?」
千弦さんは「closed」の看板を下げたまま、店に電気を入れた。
そして俺と芽久美に「適当に座っていて」と言うと、慣れた手つきで作業を始めた。
「あ…この香りはほうじ茶ラテだね!」
芽久美がうれしそうに言い当てた。
「ご名答。聡二君は飲んだことある?」
「いえ――最近コンビニなどでもよく見かけますが、飲むのは初めてです」
「じゃ、新年早々のハツタイケンね。刺激はちょっと弱めだけど」
俺をからかう調子で千弦さんが言った。
この人はやっぱり(俺と違って)大人なんだなと、思わざるを得ない。
「寒いから、少し甘味を強くしたわ。お口に合うといいんだけど」
「いただきます」
なるほど、甘味はかなり強いのだが、悪くない。ほっとする味だ。
千弦さんも赤いマグを自分の口元に持っていき、静かにすすっている。
(案の定だ。やはり口元を見てしまう)
うっすら瞼を閉じ、香味を味わっている表情もすてきだが、すぐにぱちっと目を見開いて言った。
「あ、これショウガを入れてもおいしいのよね。体を温めるといえば、ショウガもよかったかも」
「これ、お店のメニューにもありますか?」
「ええ、一応」
「じゃ、今度はこれを注文します。ショウガ入りでください」
「りょーかい。予約受け付けました」
◇◇◇
飲み終わったら帰らなければならないと思うと、どうしても飲むペースが遅くなる。
千弦さんに、「お口に合わなかった?」と心配されたので、「いえ、飲んだらなくなってしまうので…」という、きわめて頭の悪そうな返し方をしてしまった。
「ごちそうさまでした。本当にうまかったです。今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ。まさか会えるなんて思わなかったわ」
「え?」
「あ――気を付けてね」
「はい」
駅で電車を待ちながら、スマホのチャットアプリを立ち上げた。
テニス部グループチャットに新年の挨拶メッセージが輻輳していた。
俺は少し出遅れてしまったようだ。
「おめでとう」との一言とともに、「ほうじ茶ラテはなかなかイケるな」などと放り込んでみようか。
俺らしくもないと、ちょっと物議を醸すかもしれない(自意識過剰か?)
「会えるなんて思っていなかった、か…」
俺は少しは期待していいんだよな?
むなしい結果になることを想像しつつも実行した静かな夜襲。
やってみるものだな。
「終夜運行で、2、30分に1本は来ます」
「そう。じゃ、もう少し遅くなっても大丈夫かしら?」
「え?ええ、まあ…」
「せっかくなので、温かい飲み物でもいかが?」
千弦さんは「closed」の看板を下げたまま、店に電気を入れた。
そして俺と芽久美に「適当に座っていて」と言うと、慣れた手つきで作業を始めた。
「あ…この香りはほうじ茶ラテだね!」
芽久美がうれしそうに言い当てた。
「ご名答。聡二君は飲んだことある?」
「いえ――最近コンビニなどでもよく見かけますが、飲むのは初めてです」
「じゃ、新年早々のハツタイケンね。刺激はちょっと弱めだけど」
俺をからかう調子で千弦さんが言った。
この人はやっぱり(俺と違って)大人なんだなと、思わざるを得ない。
「寒いから、少し甘味を強くしたわ。お口に合うといいんだけど」
「いただきます」
なるほど、甘味はかなり強いのだが、悪くない。ほっとする味だ。
千弦さんも赤いマグを自分の口元に持っていき、静かにすすっている。
(案の定だ。やはり口元を見てしまう)
うっすら瞼を閉じ、香味を味わっている表情もすてきだが、すぐにぱちっと目を見開いて言った。
「あ、これショウガを入れてもおいしいのよね。体を温めるといえば、ショウガもよかったかも」
「これ、お店のメニューにもありますか?」
「ええ、一応」
「じゃ、今度はこれを注文します。ショウガ入りでください」
「りょーかい。予約受け付けました」
◇◇◇
飲み終わったら帰らなければならないと思うと、どうしても飲むペースが遅くなる。
千弦さんに、「お口に合わなかった?」と心配されたので、「いえ、飲んだらなくなってしまうので…」という、きわめて頭の悪そうな返し方をしてしまった。
「ごちそうさまでした。本当にうまかったです。今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ。まさか会えるなんて思わなかったわ」
「え?」
「あ――気を付けてね」
「はい」
駅で電車を待ちながら、スマホのチャットアプリを立ち上げた。
テニス部グループチャットに新年の挨拶メッセージが輻輳していた。
俺は少し出遅れてしまったようだ。
「おめでとう」との一言とともに、「ほうじ茶ラテはなかなかイケるな」などと放り込んでみようか。
俺らしくもないと、ちょっと物議を醸すかもしれない(自意識過剰か?)
「会えるなんて思っていなかった、か…」
俺は少しは期待していいんだよな?
むなしい結果になることを想像しつつも実行した静かな夜襲。
やってみるものだな。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる