初恋ガチ勢

あおみなみ

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第10章 もし、本当に千弦さんに会えたら【千弦と聡二】

「いえ、飲んだらなくなってしまうので…」【聡二】

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「今日は電車はどうなっているの?」
「終夜運行で、2、30分に1本は来ます」
「そう。じゃ、もう少し遅くなっても大丈夫かしら?」
「え?ええ、まあ…」
「せっかくなので、温かい飲み物でもいかが?」

 千弦さんは「closed」の看板を下げたまま、店に電気を入れた。
 そして俺と芽久美に「適当に座っていて」と言うと、慣れた手つきで作業を始めた。
「あ…この香りはほうじ茶ラテだね!」
 芽久美がうれしそうに言い当てた。
「ご名答。聡二君は飲んだことある?」
「いえ――最近コンビニなどでもよく見かけますが、飲むのは初めてです」
「じゃ、新年早々のハツタイケンね。刺激はちょっと弱めだけど」

 俺をからかう調子で千弦さんが言った。
 この人はやっぱり(俺と違って)大人なんだなと、思わざるを得ない。

「寒いから、少し甘味を強くしたわ。お口に合うといいんだけど」
「いただきます」
 なるほど、甘味はかなり強いのだが、悪くない。ほっとする味だ。
 千弦さんも赤いマグを自分の口元に持っていき、静かにすすっている。
(案の定だ。やはり口元を見てしまう)

 うっすら瞼を閉じ、香味を味わっている表情もすてきだが、すぐにぱちっと目を見開いて言った。

「あ、これショウガを入れてもおいしいのよね。体を温めるといえば、ショウガもよかったかも」
「これ、お店のメニューにもありますか?」
「ええ、一応」
「じゃ、今度はこれを注文します。ショウガ入りでください」
「りょーかい。予約受け付けました」

◇◇◇

 飲み終わったら帰らなければならないと思うと、どうしても飲むペースが遅くなる。
 千弦さんに、「お口に合わなかった?」と心配されたので、「いえ、飲んだらなくなってしまうので…」という、きわめて頭の悪そうな返し方をしてしまった。

「ごちそうさまでした。本当にうまかったです。今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ。まさか会えるなんて思わなかったわ」
「え?」
「あ――気を付けてね」
「はい」

 駅で電車を待ちながら、スマホのチャットアプリを立ち上げた。
 テニス部グループチャットに新年の挨拶メッセージが輻輳していた。
 俺は少し出遅れてしまったようだ。

「おめでとう」との一言とともに、「ほうじ茶ラテはなかなかイケるな」などと放り込んでみようか。
 俺らしくもないと、ちょっと物議を醸すかもしれない(自意識過剰か?)

「会えるなんて思っていなかった、か…」
 俺は少しは期待していいんだよな?

 むなしい結果になることを想像しつつも実行した静かな夜襲。
 やってみるものだな。
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