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第12章 特別な1通をしたためるのは、きっとまだ先の話だ。【千弦と聡二】
海はいいな。
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駅から英明までの通学路は、ずっと海を眺めながら歩ける大通りだ。
千弦さんの住居兼店舗は、そこから少し脇道に入ったところにあるが、それでも海までは5分程度で行ける。
海岸という場所は、話をするのに意外と向いている。
何しろ(それなりに)広い。
三々五々という言葉があるが、親子連れが遊んでいたり、恋人同士がデートをしたり、運動部のトレーニングで使ったり、小集団が思い思いをことをしているが、それぞれに人の話に聞き耳を立てることはないからだ。
内緒にするほどの話ではないが、千弦さんに聞かれるのは嫌だったので、俺はハルを海岸まで引っ張ってきた。
逃げる様子もないし、無抵抗なので、引っ張るというほど力ずくでもなかったが、千弦さんにはそう見えたろう。
◇◇◇
「あのボールペン、千弦さんからもらったものだったんだな…」
「いや…俺もあのとき、お前が見せてくれた切り抜きの女性と似ているなと気づいたのは…その…大分後で…」
歯切れは悪いが、多分うそはついていない。
「ボールペンは、芽久美ちゃんも持っている」
「芽久美?」
「千弦さんの娘だ。千弦さんはたくさんもらったから、友達にも持っていけといったようだ」
「そうか…」
「芽久美ちゃんは(千弦さんに似て)かわいくて性格がいいから、男女の隔てなく好かれている」
「何が言いたい?」
「男子でもらった生徒もいたかもしれないな、と思ったんだ」
「それがどうした?」
「……俺は、もらっていない」
俺はハルに顔を向けず、ずっと穏やかな春の波を見ていた。
海はいいな。
こんなみっともない、せせこましい言葉でも、嗤わず聞いてくれる。
というより、浜風と波の音で、いい感じに持ち去ってくれる。
「俺も欲しい、と言ってみてはどうだろう?」
ハルは訳の分からないことで連れ出され、大分困惑している(顔には出ていないが)かもしれないが、とりあえずそんな提案をしてきた。
トンチンカンだが、やはりいいやつだ。
「何カ月前の話だと思っているんだ?第一もうないかもしれない」
「まあ、そうだな…」
「それに、そういうことではないんだ」
「わかって、いる。多分」
俺が持っていないものを、ハルが持っている。
たまたまの行きがかり上なのに、どう表現していいか分からない気持ちになった。
分かりやすく言うと嫉妬だが、何だっけな、ボールペンだけの話ではないはずだが…。
◇◇◇
俺たちのすぐそばを、若いカップルが通り過ぎた。
女性は長いが薄手のスカートを履いていたので、強い風で裾が捲れ上がり、一瞬、肉付きのいいふくらはぎがのぞいた。
「そうだ。お前、千弦さんの脚を見たんだよな?」
パンプスからスニーカーに履き替えて、アニメ映画のうさぎみたいにステップを踏んでいたと言っていた。
言われてみれば、千弦さんに置き換えれば、何となく想像のつく動作だ。
しかしいつも裾の長い服を好んで着ているので、その美しい(に決まっている)脚を見たことはないし、そもそもすねの出る服を着ていたら、なおさらそこを凝視することはできない。それではまるで、脚フェチのスケベおやじみたいだからだ。
「え…あ…その…細いが筋肉がしっかりしているなと…部活のときの癖だ」
ハルも所属しているテニス部で俺同様、選手のデータを取ったり、練習メニューを組んだりしていた。体つきやフォームを凝視する癖があっても不思議はないが…。
「千弦さんを運動部の男子中学生と一緒にするな!」
「すまない。しかし、まさかあの女性が千弦さんとは知らなかったし…」
「そもそも知らない女性をジロジロ見るなよ!」
「そうだな、悪かった」
ほら、こんな会話、千弦さんには絶対に聞かせられない。
千弦さんの住居兼店舗は、そこから少し脇道に入ったところにあるが、それでも海までは5分程度で行ける。
海岸という場所は、話をするのに意外と向いている。
何しろ(それなりに)広い。
三々五々という言葉があるが、親子連れが遊んでいたり、恋人同士がデートをしたり、運動部のトレーニングで使ったり、小集団が思い思いをことをしているが、それぞれに人の話に聞き耳を立てることはないからだ。
内緒にするほどの話ではないが、千弦さんに聞かれるのは嫌だったので、俺はハルを海岸まで引っ張ってきた。
逃げる様子もないし、無抵抗なので、引っ張るというほど力ずくでもなかったが、千弦さんにはそう見えたろう。
◇◇◇
「あのボールペン、千弦さんからもらったものだったんだな…」
「いや…俺もあのとき、お前が見せてくれた切り抜きの女性と似ているなと気づいたのは…その…大分後で…」
歯切れは悪いが、多分うそはついていない。
「ボールペンは、芽久美ちゃんも持っている」
「芽久美?」
「千弦さんの娘だ。千弦さんはたくさんもらったから、友達にも持っていけといったようだ」
「そうか…」
「芽久美ちゃんは(千弦さんに似て)かわいくて性格がいいから、男女の隔てなく好かれている」
「何が言いたい?」
「男子でもらった生徒もいたかもしれないな、と思ったんだ」
「それがどうした?」
「……俺は、もらっていない」
俺はハルに顔を向けず、ずっと穏やかな春の波を見ていた。
海はいいな。
こんなみっともない、せせこましい言葉でも、嗤わず聞いてくれる。
というより、浜風と波の音で、いい感じに持ち去ってくれる。
「俺も欲しい、と言ってみてはどうだろう?」
ハルは訳の分からないことで連れ出され、大分困惑している(顔には出ていないが)かもしれないが、とりあえずそんな提案をしてきた。
トンチンカンだが、やはりいいやつだ。
「何カ月前の話だと思っているんだ?第一もうないかもしれない」
「まあ、そうだな…」
「それに、そういうことではないんだ」
「わかって、いる。多分」
俺が持っていないものを、ハルが持っている。
たまたまの行きがかり上なのに、どう表現していいか分からない気持ちになった。
分かりやすく言うと嫉妬だが、何だっけな、ボールペンだけの話ではないはずだが…。
◇◇◇
俺たちのすぐそばを、若いカップルが通り過ぎた。
女性は長いが薄手のスカートを履いていたので、強い風で裾が捲れ上がり、一瞬、肉付きのいいふくらはぎがのぞいた。
「そうだ。お前、千弦さんの脚を見たんだよな?」
パンプスからスニーカーに履き替えて、アニメ映画のうさぎみたいにステップを踏んでいたと言っていた。
言われてみれば、千弦さんに置き換えれば、何となく想像のつく動作だ。
しかしいつも裾の長い服を好んで着ているので、その美しい(に決まっている)脚を見たことはないし、そもそもすねの出る服を着ていたら、なおさらそこを凝視することはできない。それではまるで、脚フェチのスケベおやじみたいだからだ。
「え…あ…その…細いが筋肉がしっかりしているなと…部活のときの癖だ」
ハルも所属しているテニス部で俺同様、選手のデータを取ったり、練習メニューを組んだりしていた。体つきやフォームを凝視する癖があっても不思議はないが…。
「千弦さんを運動部の男子中学生と一緒にするな!」
「すまない。しかし、まさかあの女性が千弦さんとは知らなかったし…」
「そもそも知らない女性をジロジロ見るなよ!」
「そうだな、悪かった」
ほら、こんな会話、千弦さんには絶対に聞かせられない。
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