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第16章 「俺――あの時計で5時までここにいていいですか?」【千弦と聡二】
ぜひブレゼントの際の参考にしたい。【聡二】
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あなたの抱擁は僕に極甚の滋味を与へる
高村光太郎『智恵子抄』より『僕等』
◇◇◇
芽久美が中学校を卒業し、予定通り英明大附属高校に進学することになった。
そこで卒業と進学のお祝いのため、ささやかな食事会が開かれた。
千弦さんは、芽久美が中2のときから付き合っている貝沼という男子生徒も招くことにしたのだが、その関連で、俺もお招きにあずかった。
「カイと付き合うきっかけを作ったキューピッドだから」と、芽久美が俺を呼ぶことを提案してくれたそうだ。
俺は単に、朝練の通学途中でよく一緒になる貝沼少年の悩みを聞き、自分の思ったところを話しただけだったのだが、貝沼少年にとっては、「先輩が背中を押してくれたから告白できたし、付き合うこともできた」ということになるらしい。お節介というのも焼いておくものだ。
豪華なパーティー料理ではなく、舌や腹がほっとするような家庭料理と、仕上げにぴったりの手作りのデザート。
貝沼少年は、芽久美に何か勧められるたびに「うまいっす」「これもうまいっす」と、やや緊張気味に、しかし気持ちよい食いっぷりを示していた。
デザートとお茶を腹に収めたのち、芽久美が「さて、あとはアダルトなお二人にお任せして…」と、貝沼少年を外に引っ張り出した。
3月だが天気のいい日だったので、外歩きは楽だろうと思い、芽久美の心遣いにただ感謝した。
「6時頃戻るね。6時、18時だよ!」
◇◇◇
「まったく芽久美ったら…ごめんなさいね、あなたもお客様なのに」
俺は千弦さんと並び、台所に立っていた。洗った食器の水気をふき取るためだ。
「いえいえ、俺は役得ぐらいにしか思っていないので、こき使ってください」
「そう言ってもらえるのはうれしいけど…」
「千弦さんと2人きりで過ごすのは、テニス部の集まり以来ですね。
だから――2年ぶりですか」
そう言われ、千弦さんの手が一瞬止まる。
俺の勘繰りすぎでなければ、横顔にやや緊張が走ったように見えた。
2年前、俺は千弦さんに思いを打ち明け、3年後にもし俺のことを受け入れてくれるなら付き合ってほしいと言った。
つまり仮予約のような告白の後の、サスペンディッドな状態ということだ。
その状態で密室状態に男と2人。彼女が緊張するのも無理はない。
(こう言っては何だが、多分小柄な彼女を力ずくでどうこうするのは造作もないだろう)
「ご心配なく。俺はあなたと長いお付き合いをしたいので、
今すべきこととすべきでないことの区別はつけています」
「あ、はは…。本当にあなたにはかなわないわね」
少し困ったような笑顔も本当に愛らしいと思う。
「この布巾、面白い柄ですね。博物画みたいだ」
「ああ、イギリスやアイルランドのティータオルよ。一時期凝ってて、通販で買い集めたの」
「へえ、アイルランド」
「麻だから使えば使うほど丈夫になるし、味が出るんだって。特に気に入った柄のは、お店でタペストリーみたいに 壁に飾ったりしてるけど」
「そういえば…あれがそうなんですか」
そうか、千弦さんはこういうものが好きなんだな。
これなら実用性があり、多少柄がかぶっても喜ばれそうだ。
ぜひブレゼントの際の参考にしたい。
高村光太郎『智恵子抄』より『僕等』
◇◇◇
芽久美が中学校を卒業し、予定通り英明大附属高校に進学することになった。
そこで卒業と進学のお祝いのため、ささやかな食事会が開かれた。
千弦さんは、芽久美が中2のときから付き合っている貝沼という男子生徒も招くことにしたのだが、その関連で、俺もお招きにあずかった。
「カイと付き合うきっかけを作ったキューピッドだから」と、芽久美が俺を呼ぶことを提案してくれたそうだ。
俺は単に、朝練の通学途中でよく一緒になる貝沼少年の悩みを聞き、自分の思ったところを話しただけだったのだが、貝沼少年にとっては、「先輩が背中を押してくれたから告白できたし、付き合うこともできた」ということになるらしい。お節介というのも焼いておくものだ。
豪華なパーティー料理ではなく、舌や腹がほっとするような家庭料理と、仕上げにぴったりの手作りのデザート。
貝沼少年は、芽久美に何か勧められるたびに「うまいっす」「これもうまいっす」と、やや緊張気味に、しかし気持ちよい食いっぷりを示していた。
デザートとお茶を腹に収めたのち、芽久美が「さて、あとはアダルトなお二人にお任せして…」と、貝沼少年を外に引っ張り出した。
3月だが天気のいい日だったので、外歩きは楽だろうと思い、芽久美の心遣いにただ感謝した。
「6時頃戻るね。6時、18時だよ!」
◇◇◇
「まったく芽久美ったら…ごめんなさいね、あなたもお客様なのに」
俺は千弦さんと並び、台所に立っていた。洗った食器の水気をふき取るためだ。
「いえいえ、俺は役得ぐらいにしか思っていないので、こき使ってください」
「そう言ってもらえるのはうれしいけど…」
「千弦さんと2人きりで過ごすのは、テニス部の集まり以来ですね。
だから――2年ぶりですか」
そう言われ、千弦さんの手が一瞬止まる。
俺の勘繰りすぎでなければ、横顔にやや緊張が走ったように見えた。
2年前、俺は千弦さんに思いを打ち明け、3年後にもし俺のことを受け入れてくれるなら付き合ってほしいと言った。
つまり仮予約のような告白の後の、サスペンディッドな状態ということだ。
その状態で密室状態に男と2人。彼女が緊張するのも無理はない。
(こう言っては何だが、多分小柄な彼女を力ずくでどうこうするのは造作もないだろう)
「ご心配なく。俺はあなたと長いお付き合いをしたいので、
今すべきこととすべきでないことの区別はつけています」
「あ、はは…。本当にあなたにはかなわないわね」
少し困ったような笑顔も本当に愛らしいと思う。
「この布巾、面白い柄ですね。博物画みたいだ」
「ああ、イギリスやアイルランドのティータオルよ。一時期凝ってて、通販で買い集めたの」
「へえ、アイルランド」
「麻だから使えば使うほど丈夫になるし、味が出るんだって。特に気に入った柄のは、お店でタペストリーみたいに 壁に飾ったりしてるけど」
「そういえば…あれがそうなんですか」
そうか、千弦さんはこういうものが好きなんだな。
これなら実用性があり、多少柄がかぶっても喜ばれそうだ。
ぜひブレゼントの際の参考にしたい。
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