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第35章 だが、もちろん俺は3時間、紳士で居続ける。【メグと大輔】
エレベーターの4秒間【メグ】
しおりを挟む「ねえ! 接吻をして頂戴よう。厭なの? 厭ならいいわ。」
佐左木俊郎『接吻を盗む女の話』
◇◇◇
約束の時間の5分前、大輔さんが待ち合わせ場所に来るなり、「おはよう。今日は普段はしないことをしようぜ」 と言った。
私たちがデートで行く場所といえば、博物館、水族館、美術館などなど、比較的安い料金で入れて、それぞれがそれぞれの好みで楽しめる施設が多い。
図書館にも時々行くけれど、住んでいる自治体が違うので、お互いの近所の図書館に行くと、どちらかが借り出しなしの閲覧のみになってしまう。
それに館内でおしゃべりするわけにはいかないので、何十分か別行動で好きな本を物色して、落ち合ってからお茶しながらおしゃべりする方がメインになったりする。
もちろん、そういうのはそういうので楽しいけどね。
天気のいい日は、うちの近所の海岸を散歩しながらお話しする。
「俺、店長さんの店に初めて来たとき、檜さんにここに連れてこられて説教されたんだ」
「あ、そういえば聞いたような」
「ライバル校の先輩と海岸で説教デートなんて、ぞっとしないよな?」
「ふふ、確かに」
「でも、他人に邪魔されないで話をするには最適なんだって気づいたし、今はここをお前と歩くデートが一番好きだ」
「……私もです」
◇◇◇
ひとしきり散歩してママの店に行くと、時々檜先輩が来ていることがしばしばある。
「ああ、檜さんも来ていたんですね」
大輔さんがなぜだか勝ち誇ったように言うのも、ちょっとかわいいと思ってしまう。
“便宜上片思い”の檜先輩と違い、私たちはちゃんとママ公認のお付き合いなので、檜先輩に何か言われる筋合いはない。それが大輔さんには、たまらなくうれしいことらしい。
「今日は季節にしては気温も高いので、浜歩きが快適でしたよ」
「ふうん。そいつはよかったな」
檜先輩はいつものポーカーフェイス風だけど、内心は「このガキが…」とでも思っているんだろうな。
◇◇◇
大輔さんがうちの近所に来てくれることが多いけれど、私も何回かに一度は東京に行く。
面白そうな美術館や博物館も多いので、「たまには都会の空気が吸いたいんですよ」と言えば、待ち合わせ場所を指定してくれる。いつも電車で1本で行ける玉成学園の最寄り駅なので助かる。
「例えばお前は友達と遊ぶときは、どんなトコに行くんだ?」
「友達って、女の子とって意味ですか?」
「何だ?男の友達がいるのか?」
「い、いませんけど。雑貨屋さん巡りしたり、甘いものを食べにいったり、あとは……カラオケとか」
「カラオケか……たまにはよさそうだな」
大輔さんがカラオケ?チャラチャラしているって嫌いそうだけど。
「俺は部活やクラスのやつに誘われても行かないが、合コンに使うやつもいるよな。まさかお前も……」
「やめてください。女の子だけですよお」
大輔さんは、お付き合いを始めて分かったけれど、意外とやきもち焼きだ。
「まあいい。今日は俺と行こう」
マジですか!
「でも私、こっちのお店はよく知らないので…」
「そんなもの、そこいらじゅうにあるだろう?適当な店に入ろう」
◇◇◇
という流れで、「大輔さんとカラオケデート」という、ほぼ想定していなかった事態になった。
「恐れ入りますが、本日は混雑しているため3時間までになります」
「じゃ、3時間で」
「では、こちらをお持ちになって、5階の512号室へどうぞ」
プラスチックかごに入ったマイクとドリンクバー用のグラスを受け取って、「行くぞ」と私に声をかけ、エレベーターホールに向かった。
「大輔さんなら、5階程度なら階段で行こうとか言うと思いました」
「お前は俺をなんだと思っているんだ? 俺はいいが、お前が息切れして歌えなくなったら困るからな」
「大輔さんこそ。私そこまで体力ないわけじゃないですよ」
実りのない会話をしているうちに、エレベーターが来た。
そして……乗り込んでドアが閉まった途端、大輔さんはかごを下に置いて両手で私を抱き寄せ、キスをしてきた。
「!」
5階までの所要時間はせいぜい4秒か5秒だけれど、キスするには十分な時間だった。
「デパートなんかのエレベーターと違って、他人に邪魔されないからいいな」
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