初恋ガチ勢

あおみなみ

文字の大きさ
132 / 231
第35章 だが、もちろん俺は3時間、紳士で居続ける。【メグと大輔】

エレベーターの4秒間【メグ】

しおりを挟む

「ねえ! 接吻キッスをして頂戴よう。厭なの? 厭ならいいわ。」

佐左木俊郎『接吻を盗む女の話』

◇◇◇


 約束の時間の5分前、大輔さんが待ち合わせ場所に来るなり、「おはよう。今日は普段はしないことをしようぜ」 と言った。

 私たちがデートで行く場所といえば、博物館、水族館、美術館などなど、比較的安い料金で入れて、それぞれがそれぞれの好みで楽しめる施設が多い。
 図書館にも時々行くけれど、住んでいる自治体まちが違うので、お互いの近所の図書館に行くと、どちらかが借り出しなしの閲覧のみになってしまう。
 それに館内でおしゃべりするわけにはいかないので、何十分か別行動で好きな本を物色して、落ち合ってからお茶しながらおしゃべりする方がメインになったりする。
 もちろん、そういうのはそういうので楽しいけどね。

 天気のいい日は、うちの近所の海岸を散歩しながらお話しする。

「俺、店長ママさんの店に初めて来たとき、檜さんにここに連れてこられて説教されたんだ」
「あ、そういえば聞いたような」
「ライバル校の先輩と海岸で説教デートなんて、ぞっとしないよな?」
「ふふ、確かに」
「でも、他人に邪魔されないで話をするには最適なんだって気づいたし、今はここをお前と歩くデートが一番好きだ」
「……私もです」

◇◇◇

 ひとしきり散歩してママの店に行くと、時々檜先輩が来ていることがある。

「ああ、檜さん来ていたんですね」
 
 大輔さんがなぜだか勝ち誇ったように言うのも、ちょっとかわいいと思ってしまう。
 “便宜上片思い”の檜先輩と違い、私たちはちゃんとママ公認のお付き合いなので、檜先輩に何か言われる筋合いはない。それが大輔さんには、たまらなくうれしいことらしい。

「今日は季節にしては気温も高いので、浜歩きが快適でしたよ」
「ふうん。そいつはよかったな」

 檜先輩はいつものポーカーフェイス風だけど、内心は「このガキが…」とでも思っているんだろうな。

◇◇◇

 大輔さんがうちの近所に来てくれることが多いけれど、私も何回かに一度は東京に行く。
 面白そうな美術館や博物館も多いので、「たまには都会の空気が吸いたいんですよ」と言えば、待ち合わせ場所を指定してくれる。いつも電車で1本で行ける玉成学園の最寄り駅なので助かる。

「例えばお前は友達と遊ぶときは、どんなトコに行くんだ?」
「友達って、女の子とって意味ですか?」
「何だ?男の友達がいるのか?」
「い、いませんけど。雑貨屋さん巡りしたり、甘いものを食べにいったり、あとは……カラオケとか」
「カラオケか……たまにはよさそうだな」

 大輔さんがカラオケ?チャラチャラしているって嫌いそうだけど。

「俺は部活やクラスのやつに誘われても行かないが、合コンに使うやつもいるよな。まさかお前も……」
「やめてください。女の子だけですよお」

 大輔さんは、お付き合いを始めて分かったけれど、意外とやきもち焼きだ。

「まあいい。今日は俺と行こう」

 マジですか!

「でも私、こっちのお店はよく知らないので…」
「そんなもの、そこいらじゅうにあるだろう?適当な店に入ろう」

◇◇◇

 という流れで、「大輔さんとカラオケデート」という、ほぼ想定していなかった事態になった。

「恐れ入りますが、本日は混雑しているため3時間までになります」
「じゃ、3時間で」
「では、こちらをお持ちになって、5階の512号室へどうぞ」

 プラスチックかごに入ったマイクとドリンクバー用のグラスを受け取って、「行くぞ」と私に声をかけ、エレベーターホールに向かった。

「大輔さんなら、5階程度なら階段で行こうとか言うと思いました」
「お前は俺をなんだと思っているんだ? 俺はいいが、お前が息切れして歌えなくなったら困るからな」
「大輔さんこそ。私そこまで体力ないわけじゃないですよ」

 実りのない会話をしているうちに、エレベーターが来た。
 そして……乗り込んでドアが閉まった途端、大輔さんはかごを下に置いて両手で私を抱き寄せ、キスをしてきた。

「!」

 5階までの所要時間はせいぜい4秒か5秒だけれど、キスするには十分な時間だった。

「デパートなんかのエレベーターと違って、他人に邪魔されないからいいな」
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...