forget-me-not メグと大輔 かわいいベイビー

あおみなみ

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大事な娘

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 退院後1週間ほどしてから、私は聡二君と2人で大倉家を訪れた。
 ちょっとした手土産として持参したのは、小さな額縁に入ったワスレナグサのクロスステッチだった。お祝いというより記念品に近い。
 実母としては、一時的なお祝いよりも、その後のサポートの方が大事だし――と、好適品が直前まで思いつかなかった言い訳をさせてもらおう。

「あ、これ、ワスレナグサね?ママが刺したの?」
 パパに植物園に連れていってもらって以来、この花は芽久美の大のお気に入りになった。
「さすがにもう、一回で言えるようになったんだね」
 大倉君がその言葉に「どういう意味ですか?」とけげんそうに反応したので、小さい頃の「忘却の呪文」の話を聞かせると、「それはまた、かわいいなあ」とデレデレで、内心(あ、智也二世…)と思っていた。
 しかし芽久美は、「ママ――ここぞとばかりにそういう話する年寄りは嫌われるよ?」などと生意気な口をたたく。

 芽久美の隣には、小さなベビー用の寝台に寝かせられた、小さな「紫ちゃん」がいた。
 繊細な顔立ちで、運よくパッチリと目を開いている顔を見られた。病院にいたときと比べて一皮むけ、ますますいいベイビーになっている。

「おりこうそうで、いい子ね」
 すぐに抱き上げたり頬ずりしたりしたいところだが、何しろ相手は生後2週間の新生児なので、そこは「おばあちゃん、自重しろ」である。
 大倉君が照れくさそうに、「いかにもメグが産んだ女の子、って感じの顔でしょ?」と自慢した。

 聡二君は聡二君で、「赤ちゃんとは思えないほど、すごい美人だね」と率直に褒め、大倉君は「檜さんにしては気の利いたことを言うじゃありませんか」とご満悦である。

***

 今回の出産にまつわる、大倉君がため息混じりに(しかしうれしさを隠せない様子で)教えてくれたエピソードの数々。

 いわく、「母がメグのためにと言って天蓋付きの50万もするベッドを買おうとするので、「さすがにそれは違うだろっ。どこの王族だよ」って必死で止めたんです」。

 また、大倉君には6歳年上のお兄さんがいる。彼をにこやかにした雰囲気の人当たりのいい子だけれど、芽久美が大学に入って初めての夏休み、別荘に行く2人にバスローブをプレゼントしてくれた「気の利くお義兄さん」らしい。
 先日、婚約中の女性と2人、ブランドもののベビー服を山のように持って、にぎやかに帰ってきたそうだ。大倉君は「紫はアイツらの着せ替え人形確定だな…」と、心なしか諦観の表情でもあった。

 大倉家に長くお勤めしているベテラン家政婦の角田かくたさんという女性がいらして、お兄さんが小さい頃から知っているほどの「大倉家の生き字引」だそうだが、その角田さんも芽久美をとてもかわいがってくれているという。
 大倉君は「角田さんがメグに何を吹き込んでいるのか、気が気じゃないんですよね…」と気をもむけれど、芽久美曰く「大輔さんがどんなにかわいかったかって話を聞かせてくれるし、秘蔵の写真も見せてくれるから、本当に毎日楽しみで」と、いい気なものだ。

 芽久美の友達や大倉君の友達(というか、玉成の高等部までのテニス部仲間)もお祝いを持って毎日のように誰かしら来るらしい。
 中高時代の大倉くんは、無愛想な一匹狼タイプと聞いていたけれど、どうしてどうして、なかなか慕われていたのだろう。

 「玉成のカリスマ」にして、聡二君の大学の同窓でもある伝説の兵部ひょうぶ部長が、一体どんなお祝いを持ってきたのかと戦々恐々としていたら、かわいらしい山羊皮のベビー靴だったので安心した――ものの、特注品だと言われ、「この人のことだから、想像の値段よりゼロが2個ぐらい多そう」と、別な意味でかしこまった、的な話も飛び出した。

 どれもこれも、身に余る厚遇を受けていることが分かる話ばかりで、恐縮もしてしまうけれど、やはりうれしくて仕方がない。
 私の大事な娘が、多くのすてきな人たちに愛され、大事にされているのだ。
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