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うわさ話
しおりを挟む女子A:でさ……私隣の部屋じゃん?夜中に目覚ますとさ……
女子B:うわ、怖っ
10人以下の少人数で使うには広い教室に、一人一人が大きな学習机を並べ、私たちは日々勉強していた。
ここは2025年時点では存在しない学校「S」である。
国の予算の端っこをかじりつつ、日々特殊な勉強をしていた。
――と書くとかなり意味ありげだが、要するに速記を勉強する学校だった。
毎年100人前後の受験生のうち、15人程度が2段階を試験を受けて合格するが、最終的に決まるのが3月末とかなり遅いため、大学進学を決めてしまう人も多く、実際に入学するのは10人いれば上等というのが実態だった。
そんなところで立つうわさというのは、要するに公然の秘密みたいなものだ。
しかし、今にして思うと恐ろしい話なのだが、それでも全く耳に入ってこない人間というのが存在する。
(はいはい、私だよ!)
逆カクテルパーティー効果とでもいおうか、興味がないと耳の方が拒絶するのかもしれない。
AとBは、寮でAの隣室に入っている2年生についてのうわさをしていた。
ボリュームは大きくもなく小さくもなくごく普通なので、声自体は自然と耳には入るし、誰も「うるさい」とは注意しない程度。
ただ、内容が内容だけに、ところどころ隠語的なものを使ってごまかしたり、遠回しに表現したりしているので、全くの真相が分かるわけではない。
その日はたまたま「そういう話」であることを認識できただけで、「へえ」程度の感想しか湧かなかった。
要するに、ある2年生女子が、かねてからうわさのある同じクラスの男子生徒を寮の自室に連れ込んで、コトに及んでいる――らしい。
「うめき声が……」「気配が……」というワードだけ聞くと、何だかホラーじみていたのだが、「うわ、怖っ」というのは、「よくそんなマネができるね?」というニュアンスなんだろう。
しかし相手は2年生の中でも発言権が大きい女子である。
そういうのはいかがなものかと思ったとしても、意見しづらいのだろう。
2年生とAの部屋は1階、私の部屋は2階だったから、当然そんなことには全く気付いてもいなかった。
しかし、夜中に(その2年生たちの声によってかどうかはいざ知らず)目が覚めてしまったAにしてみると、それ以来、どうしても意識せざるを得なくなるし、寝不足にもつながるなど、しっかり実害が出ている。
「特定2年生に対してAが苦言」というよりも、せめて「夜中に隣室の物音が聞こえて眠れないという苦情が出ている」式に、刺さる人だけに刺さる注意喚起をしてもよかったのではと思えるが、問題は2つあった。
まず、注意喚起をお願いすべき寮長が、よりによってその2年生本人であること。
もう一つ、9時20分始業の学校に徒歩1分以内に行ける寮生活で、しかも消灯時間など決まってないから、朝の4時に寝付く者と、朝の4時に起きる者が一つ屋根の下で暮らしているのが現実だった。
たまたま夜型さんの隣が朝型さんで、そのまた隣は……とやっていくと、ただの「迷惑はお互い様」のループ状態になってしまうことだ。
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