短編集「めおと」

あおみなみ

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迷いスワン

「あがさ」という女性

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 とある休日の朝。喜朗と華はテレビのトーク番組を見ていた。
 
 ゲストは最近人気のミニチュア作家「あがさ」という女性だった。
 あがさは華の憧れで、SNSは大体フォローしていたし、写真集も何冊か持っていた。
 若く見えるが話す内容からすると、結構年配なのかもしれない。頭の回転が早く、教養があって、個性的な服を無理なく着こなしていた。

 華は「やっぱりかっこいい人だな」と感心して見ていたが、喜朗は華が「あがさ」にあこがれていることを知らなかった。
 だからというわけでもないだろうが、率直に、そして少し呆れた口調でこう言った。

「なんかイタいおばさんだね。早口で何言ってんのか分からん」

 確かに早口だし、その早口が若干滑舌にも影響しているタイプではあったが、話題は華の興味がある分野だったので、それほど聞き取りづらいとは思わなかった。

「…ヨシくんはそう思うの?」
「うん。正直ちょっと苦手なタイプだな。それに…」
「それに?」
「今はちょっと売れてチヤホヤされてるみたいだけど、こういう感性勝負の仕事って飽きられたらおしまいじゃない?怖くないのかなあって」
「そう…」

 華は喜朗に付き合って、夏や春先は高校野球、お正月は駅伝、ラグビー、サッカーなどをテレビで見る。
 といっても、ルールや見どころがいまひとつが分からないので、大抵は自分の読みたい本を読んでいて、喜朗の様子を伺いながら、お茶やコーヒーを出すだけだった。
 それでも喜朗が応援していたチームが好成績だと、一緒に喜ぶ程度のことはした。
 それは結婚前から変わらない過ごし方だったが、「華とこんなふうに一緒にいられるだけで楽しい」と言ってくれたのがうれしかった。

 その喜朗が、華の憧れの女性を「苦手」だと言い、少し侮辱するような言い方をしている。
 喜朗は率直に物を言う面もあったが、人の悪口はあまり言わないと思っていたので、それにも軽くショックを受けた。

「華、コーヒー淹れてくれる?」
「あ、はい」

『本日のゲストはミニチュアアーティストの「あがさ」さんでした。
あがささん、ありがとうございました』

 あがさが深く会釈してスタジオを去ると、生活豆知識を扱うコーナーになった。
 そのタイミングで喜朗が「お店が開いたら買い出しにでも行こうか?で、早目に飯食って…」と、今日の過ごし方を提案した。
 洗濯は朝の早いうちに済んでいた。
 休みの日は11時台にブランチを食べることも多かったので、今日もそんな感じでというつもりだったらしい。

「そうだね。ほかに行きたいところはある?」
「服でも見るかな。あ、でもそうすると食料品はいったん家に置きにきた方がいいかな」
「そうだね」

 大き目のクーラーバッグを持っていくから、生鮮品もたっぷり入る。
 肉は豚や鶏を1キロ買っておけば、食事や弁当で1週間分になるだろう。
 ジャガイモも玉ねぎも買い置きがあるから、もやしと葉物でも買おう。
 ――華はざっと、今日買った方がよさそうなものを思い浮かべた。

 どこを切っても、いつもの平和な休日のはずだった。
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