"marry me"には主語がない

北へ。

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ズーム・アウトそしてイン

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 本来なら中秋と言うべき時期なのだが、季節外れの暑さは晩夏という言葉を連想させる。名ではなく実を取る人ならば間違いなくこれを秋とは呼ばないだろう。僕らが一緒のまとまった休みを取れたのは、そんな日だった。
 佐渡へ行こう、と決めていた僕たちは予定通りにフェリーに乗り込み、日本海の海風を感じていた。甲板にさす光がまぶしいほどだったが、晶はノースリーブに短めのスカートという格好で暑さを満喫していた。
「日焼け止めもある時代に、奇跡的な季節外れの暑さを楽しまないなんて、もったいないでしょ。おばさんみたいな恰好は今後いくらでもできるんだし」彼女はそう言っていた。
 新潟港を出るフェリーが本土から遠ざかっていくのは日常から離れていくことを具現化してみせてくれているようで心地よかった。彼女も同じことを思ったのだろうか、すでに誰も見えなくなっていた陸地に向かってさよならと思い切り手を振った。
「今日の予定は?」
 彼女が聞いた。二泊三日の旅で、初日は僕が、それ以降は彼女が予定を決めることになっていた。
「今日は佐渡を半周ほどドライブ。向こうについたら昼食をとって、夕方の帰りのフェリーの時間まで人気のない道を車で飛ばす。フェリーで新潟市内に戻ったらホテルにチェックインして飲みに出かける。予約はしていないから適当に良さげな店を調べておくか勢いに任せて適当に入ってしまうか」僕は応えた。
「いいわね。決めているようで何も決めていなくて。ワクワクする」彼女は頷く。
「夜の店はリクエストがあればどんなお店がいいか調べてみるよ」
 僕はそう言ったが、彼女は首を振った。彼女は右手の親指を左手の人差し指に、左手の人差し指を右手の親指にくっつけてカメラのシャッターフォーカスもどきを作った。小さくなっていく新潟の街を、朱鷺メッセが入る角度に構える。
「初めての街の空気を吸いながら、適当に店を選んでみる。それがはずれだったとしても、それって楽しい思い出になりそうな気がしない?ダメなら他のところで飲みなおせばいいんだし。私は好きよ、先の行動が決まっていないっていうの。白紙のキャンバスを目の前にしているみたいじゃない」
「わかるよ」
「でも、一般論としてはデートに置いてはお店の下調べは必須ね。女ってなんだかんだ言いながら男のチョイスを採点するの好きだし」
 そう言って彼女は両手の指を少し離してフォーカスを広げた。
「関係ないよ」僕は応えた。「今は具体論として晶とデートしている。一般論はいらない」
 その言葉を聞くと、彼女はわかってるわね、という風に笑顔を作り、両手のシャッターもどきをもう一度くっつけて僕に向けてピントを絞った。
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