未完成な僕たちの鼓動の色

水飴さらさ

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第一章

ふわふわ

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 今日一日のことを思い出しながら、ゆっくりお風呂に浸かっていると由人はのぼせてしまう。
 お風呂を上がると、仕事に出ていた母も姉たちも帰っていた。
 水族館は楽しかったかと、聞かれたけれど何だか気恥ずかしくてすぐに部屋に戻る。
 スマホには、久場からたくさんのメッセージが来ていた。
[家着いた、腹減った、ちょっと先に飯を食う]
[ご馳走様、由人、大丈夫? もしかして俺無視されてる?]
[俺やっぱり嫌われた?][いや、きっと由人は寝てるんだ]
[寝てますか? 今日いっぱい歩いたもんな、疲れたよな]
[由人が寝てる間に言うんだけど]
[俺たち付き合ってるからな、分かってる?]
[もう一回、言うけど俺はめちゃくちゃ由人のこと好きだからな]
[俺は由人を大事にしたい]
[今日はいきなりキスとか言ってごめんなさい]
[ゆっくり、大事にするからそのつもりで]
[もしかして俺、押し付けてる? 返信ないから超不安]
[いっぱい送ってごめん]
[起きたら何時でもいいので返信して]
 読み終わると由人の腹も「グー」となった。
 由人はスマホを持ってリビングに行きながら返信をする。
[お風呂入ってました][僕もお腹減った、ご飯食べるからちょっと待ってて]
 久場の既読がすぐにつく。
 ダイニングテーブルで夕飯を食べる間、家族と水族館の話をする。
『実は、今日、久場くんが好きだと言ってくれました、お付き合いするようになりました』とは言えなかった。
 正直に打ち明けても、頭ごなしで叱る家族ではないけれど、まだ照れくさく勇気が出ない。 
 イルカショーの演出が凄かったと、家族に話しながら、家族のこと、キスのこと、色んなことを久場に聞いてみたいと、そわそわしてしまう。
 夏休み中はほとんど家の中にいる由人は、忙しい家族に代わって食器の洗い物を引き受けていた。由人が食べ終わると全員の夕飯が終わるので、急いで洗い物を片付け部屋に戻る。
 久場もお風呂に入っているかも、もしかしたら寝ているかもと、思いながらベッドに寝転び返信をする。
[僕も大好き]
 すごく恥ずかしかったけれど、たくさんメッセージをくれた久場に真っ先に答えたかった。
 ひとこと送ると胸がいっぱいになり深呼吸をしていると、久場からスタンプが[ポン][ポン]と返信された。
 どれもはしゃいでいるスタンプで、自分が久場を喜ばせていることが嬉しくなる。
 由人の頭の中から、家族のことは消えてしまう。ふわふわした気持ちのまま久場と話がしたかった。
[キスも怖くなかったよ、でもやっぱりどきどきした]
[いつも僕のことを考えてくれてありがとう]
[僕も久場くんを大事にするね]
[付き合うってどういうことするのかな?]
 思いつくままに送った。

[由人、あんまり難しく考えるな]久場から返信がくる。
[俺たちのペースでいいんだ、俺も浮かれてキスとか言ったけど、急ぐのはやめよう]
[真面目な話、俺たち受験生だし、大事な時期だと思う]
[本当は受験が落ち着くまで告白はしないつもりだった、我慢するつもりだったのに、由人が可愛すぎて言ってしまった]
[ご褒美も、あれももうやめよう、歯止めが効かなくなる]
[気持ちを話せただけで十分だ、俺は由人を大事にしたい]
久場からの返信は真剣なものだった。
 由人はベッドの上で正座をする。
[分かった、僕も浮かれてました、ごめんなさい]
 久場が言っていることは真っ当だった。でも少し残念だ。成績が上がった時のご褒美は、由人にとっても頑張れる理由の一つだった。
 急に寂しくなる。
[夏休み、もう会えないのかな?]由人から送った。
[俺も会いたいけど、塾がな、日曜日なら……でも会ったら俺 また暴走するかもだしな]
[またみんなで会えば、映画とか勉強とか]
[由人、もう内川さんたちに頼るのはよくないぞ][俺たちが友達ならいいけど、もう違うだろう、それなのに彼女たちをだしに使うのは多分よくないことだ]
[そうか、そうだね、ごめんなさい]
[後、付き合ってるのがバレたら怖い、絶対怒られる]
 早恵子たちは怒るのだろうか、多分、僕が久場を好きなことはあの三人にはお見通しな気がする。
[早恵ちゃんたちには内緒にしたほうがいいのかな?]
[そこなんだよな、話したほうがいいけど、絶対、俺が怒られるんだよな]
[どうして久場くんが怒られるのかな?]
[信用がないんだよ、身から出た錆なんだけどな]
 それはきっと、久場がたくさんの女の子たちと付き合っていたことなんだろう。
 実際今はどうなっているのか聞きたかったが、そんなことを自分が聞いていいのか自信がなかった。
[もうきちんと話をして全員と綺麗さっぱり別れてる、安心して]
 久場からの返信は、黙っている由人を察したもので、由人は驚いた。
 なんにも言っていないのに何でこっちの気持ちが分かるのだろう。
 さらに久場の返信は続く。
[前にも話したけど、俺は好きという感情が分からなかった、今なら分かる][家族より、友達より、お前が優先、由人が一番]
「ひぃ」
 ストレートな久場の言葉に由人は赤面してベッドに倒れた。
 早く返事をしたいけど、恥ずかしくてなんと返していいのか分からなくなってしまう。
[あれ、由人? 寝た? はは、俺めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってるな][でも、全部俺の正直な気持ち]
[寝てません、もうやめてください][でも、嬉しいです、僕も一緒です][疲れました、もう寝ます、おやすみなさい] 
[なんで敬語? 明日もメッセージ送る][おやすみ]久場からのメッセージが終わる。
 
 由人はベッドで仰向けになって瞼を閉じた。
 今日一日のことが走馬灯のように浮かんでくる。色んなことがあり過ぎて、疲れた心と体に記憶の中のクラゲがふわふわと漂って癒してくれる。
 ああ、僕もこんな風になりたい。
 ただふわふわと漂い、久場にとって癒しの存在でありたい。 
 また一緒に水族館に行きたい……そう思いながら由人は眠った。
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