雪原脳花

帽子屋

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第一楽章

14

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oscuro
 ”暗い 世に知られない”




 部屋は広く、柔らかい明かりが灯され贅を凝らした調度品に囲まれた部屋はさながら貴賓室のようでもあった。そこでは専用回線を通して招かれた参加者たちが実体とさほど変わらない姿で豪奢なテーブルへつき、大株主ならではの密議、時には国政を左右する評議が行われていた。
 自社で開発した完璧なセキュリティと実体と見紛うほどの宙空投影技術を誇るこの部屋の主、シャルヴァー王国の産業大臣は話術にも長け、客人のもてなし、著名な顔ぶれの扱いには自慢の部屋以上に自負があるようであった。時にはサービス過多とも言える程に。
 このところは現王不在に揺れる国の情勢に、憂いを浮かべた表情で第一王子の腹心として王子を支え、対内、対外へ精力的に活動し、またその裏での策謀にも余念は無かった。殊に自らを更に高みへと押し上げるために必要不可欠な表裏の世界で力を持つ最重要な客人たちとの会合では、趣向を凝らしたもてなしに頭を悩ませていた。折好く己の施策が功を奏した結果か、新しい知人から贈られた貢物がその客人たちを愉しませる余興として非常に有益に働き、賞賛と喝采、そこに混じる羨望は顔には決して出さない優越感と共に大臣を何よりも満足させていた。
 今夜もその客人たちが集い己の計らいを愉しみにしている。
 政治的策謀を織り交ぜた緊張感のある会談の後、口直しにと主が設けた歓談の時間は大臣がこの時に間に合うよう、予め贅沢な酒や食事を客人の元へ届けさせ、それを片手に楽しめるよう整えられていた。暫し談義に花を咲かせる賑わいの後、およそにつかわしくない悲鳴と懇願の叫び、泣き声がそこに響き始め、客人たちはグラスを片手にメインディッシュが運ばれて来たことを知る。
 メインディッシュとして引き出された珍しく美しい生き物を初めて目の当たりにした時は、その場にいた誰もが嘆息した。だがサービス精神旺盛な大臣の余興はその生き物を眺めるだけには止まらなかった。
 喉を鳴らし固唾を呑む彼らの期待を裏切られずに始められた拷問にも等しい暴力と陵辱、エスカレートする行為に泣き叫ぶ悲鳴と悲鳴の間に、興じた観客の笑い声と話し声がこだまする。どの声も首輪に繋がれ逃げることも隠れることも出来ない獲物を絶え間なくいたぶる行為に興奮は冷めることがない。次第にその声が枯れていき、そこかしこから流れる血が白い体に暴力の文様をありありと浮かび上がらせ、時には奇妙に折れ曲がった足や腕を大臣が踏みつけても、その喉からは一切の音を出すことが出来ないほどに痛めつけられた動物に、加虐欲を満たされた観客は惜しみなく喝采と称賛を大臣に送った。
 ある男は、羨望を隠せずに大臣に問う。世界的な人材派遣と人身売買のルートを持つ男だった。
「世にも稀な美しいそれを、一体どうしたんだ。先日あれほどの状態にしたのに……今夜またまっさらな姿からとは……アンドロイドとも考えにくい。まさか条約で禁止されているクローンを何体も持っていると言うことか?」
「ご心配には及びません。クローンではありません。完璧な人間のクローニングが世界のどこにも完成されていないことは貴方の方がお詳しいはず。これは我が国の医療技術の高さと思って頂ければ幸いです。それにこう見えて大した傷ではないのですよ。あくまでショウですからね」
 大臣のにこやかな回答に、男は鼻を鳴らした。
「確かに。完璧なクローニングを成功させたらあの方が黙ってはいないだろうしな。それとも、私たちはヴァーチャルに愉しんでいるのか?」
「あの方、とは、ダーク氏のことですか?」
 世界で確固たる地位を得る為に誰もが手を組みたいと考える相手、リチャード・ダークに大臣は一度も会ったことが無かった。何度となく招待状を送ってはいるものの、色よい応えが返ってきたことは無い。この自分の招待に梨の礫。自尊心を傷つけられた大臣はいつの頃からか、リチャード・ダークはAIが作り出した仮想世界の人物と噂する人々の囁きに耳を傾けることにしていた。
「お会いしたことがあるのですか?」
「……いや」
「ダーク氏が、実存するかどうかは別として……」
 大臣は言葉を切りグラスを傾け獲物の首にワインを溢した。首を落とす印のように濃い赤が首をつたった。大臣はワインが滴る顎を掴み相手に見せつけるように顔を上げさせる。透き通るような白い肌を覆う白金の髪、前髪をかき上げれば虚ろに開かれた瞼からは涙に濡れた美しい金と銀の混じるステンドグラスが覗いた。
「ヴァーチャルに見えますか? もし見えるとするならば、それは我が社の仮想化技術の高さとお考え頂けると幸いです」

 物は言いようだな、大臣。

 潜む闇が、呆れたように呟いた。




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