雪原脳花

帽子屋

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間奏曲

lamentazione(7)

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 グレンは教会に出入りするようになって感じた暖かさ、そして奇跡に触れられるのかもしれないと淡い期待が漂った記憶をたどるのをやめ、冷たい床に爪を立てるようにして体を動かそうとしたが体は自分のものではないように全く言うことを聞く気配はなく、蝿の群れが頭の中を飛び回る不快な耳鳴りが止まらない。追い払っても追い払ってもまとわりつく低くうなるような羽音に聴覚を奪われたが背中に鈍い振動を感じると建物が揺らぎひときわ埃が舞い上がった。
 爆発?!なんなんだよ!あいつらここをぶっ壊すつもりなのかよ、なんでだよ!
 ほんのわずかに起こした首でもうもうと巻き上がる粉塵を見る。首を更に持ち上げようとして痛みに呻き、また床へと倒れる。
 畜生……畜生!畜生!
 なにが……なにが奇跡だ!いつもこうだ!いつだってこうだ!
 暖かい食べ物も暖かい場所も暖かい手も、なにもかも奪われる。俺がなにしたってんだよ!俺が……俺が、生まれてきたのが間違いだったとしても、俺のせいじゃないだろ!
 暖かく迎え入れてくれた場所は夢だったのだと思い知らされるように冷たい床に転がったままこぶしをにぎることも、苛立ちで床を殴ることさえ出来ない。身動きひとつできないグレンは悔しさから埃混じりの涙がこぼれた。にじむ視界の向こう、埃がもうもうと舞い立つ先では色のついた光の筋が何本も見える。キラキラした光には割れて砕けた色ガラスの破片が混じっている。
 ほらみろ天使様だって割れちまってる。天井なんか穴だらけじゃないか。
 おっさん、俺には天使の歌なんてきこえない。ボスが言ったとおり奇跡なんて起きない。俺は蛆虫みたいなもんで、俺に聞えるのは蝿の音ぐらいなもんなんだ。
 頭蓋骨に反響しながら勢いを増す蝿の羽音は、わからないことだらけの自分を嘲笑う音のようだ。ブロンディにはこの教会にはなにもないといつだって報告していた。それなのにリッキーとデニスたちはここに現れた。他の連中も引き連れて、いつものように蔑んだ笑みを浮かべながら教会へと入ってきた。
「相変わらずのバカヅラだな、グレン」
「リッキー……」
「リッキー様だろうが、バカ。ブツはどこにあるんだ?ここに大量のブツが運び込まれたことは知ってんだよ」
「ぶ、ブツ……ブツなんて、ここ、ここ、ここには……」
「“ここ、ここ、ここ” おまえのどもりは鬱陶しいんだよ。まともに喋れもしねぇくせに、俺の前に立つな、ゴミが」
 リッキーは舌打をすると、おもちゃのように手にしていた銃のグリップでグレンの顔を殴りつけた。鈍い音とともにグレンはしりもちをつき転がった。
「おいおい、いきなりかよ、ひでぇなぁ」
 リッキーのうしろからは嘲笑がいくつも聞こえる。
「バカが口を開くからだ。虫ケラが人間様みたいに喋ろうとするから悪いんだ。もっともまともに喋れもしねぇ、蝿みたいにブンブンブンブン、うるせぇんだよ」
 リッキーはグレンにひと蹴りいれると奥へと進み、後ろにいた男たちもグレンを蹴飛ばしツバを吐き捨て嗤いながら続いた。
「ま、ま、ま、まて……ほ、ほんとうに、ここ、ここ、ここ、ここには、ブ、ブツ、ブツなんて……」
 鼻からあふれる血をぬぐって立ち上がるとグレンはよろよろと男たちのあとを追った。
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