雪原脳花

帽子屋

文字の大きさ
79 / 109
間奏曲

lamentazione(8)

しおりを挟む
 食堂へと続く廊下に出ると数発の乾いた銃声と女の悲鳴が聞こえる。
「うるせぇなぁ、どいつもこいつも。ゴミのくせにわめきやがる」
 苛立つリッキーに男のしゃがれた声が何かを言いかけたが続けざまの銃声にそれは途切れ、物が倒れ散乱する音に、女だけでなく男の悲鳴も混じる。
「お前ら、そのへんのゴミを黙らせろ。気にするこたぁねぇよ。こいつら殺したところで警察も相手にしねぇ。それどころか役人どもが片付けるのにお手上げのクズをこうして掃除してやってんだ。感謝されてもおかしくねぇ」
「ははっ ちがいないね。ゴミは生きてると面倒だから。死体になれば埋めるだけだしほっといたってそのうち犬や鼠がきれいにしてくれる」
 待て、リッキー、デニス、殺すな……ここにはなんにもないんだ……ここの連中、なんにもしてねぇよ、お前らになんにもしねぇよ。
 グレンは繰り返し唱えながら食堂へと急いだ。
「おい、ババァ。昨日、ここに荷物が届いたろ?それはどこにあるんだ」
「荷物なんて……昨日届いたのはここのみんなでわける食料です。スープやパンです」
「んなこたぁ聞いてねぇんだよ!荷物がどこにあるかって聞いてんだよ!畜生、どいつもこいつもまともに話しすらできねぇ!舐めてんのか?!」
 女は銃口を向けられ恐怖から声を出そうにも喉は詰まり、壊れた笛のような音がした。足元によりすがる息子に手を指し伸ばそうにも震えが止まらない。息子は6歳になろうかと言う年齢になってもほとんど言葉を話せず今起こっている事態を理解するどころか恐怖すら感ずることも出来ない子供だった。笑いながら母の足にしがみつき、いつものようになでてもらおうと顔をこすりつける。
「みてこのガキ、この状況で笑ってるよ」
「バカ女のガキだからな、イカレてんのは当然だろ。まったく世の中じゃゲーターズなんてものが生まれてるんだ。こいつらみたいな出来損ないのクズは、この先、生きてく場所なんかありゃしねぇ」
 リッキーは震える母親の頭を銃口でつつく。
「荷物のありかは喋れねぇってんだな。そうか……だったらせめてこのガキをこっから追っ払え。自由にしてやるから、あっち行ってろって」
 母親は言われたとおり、足にしがみつく息子の手をほどくと「外にお菓子があるから食べておいで」と囁いた。息子は不思議そうな顔をして母の顔を見つめ「お菓子だよ、お菓子。甘いお菓子、好きなだけ食べていいから外へ行って」と何度か繰りかえされてようやく理解したのか、食堂の出入り口を目指して嬉しそうにニコニコしながら歩き始めた。
 グレンが食堂のすぐそばにたどりつくとなかから小さな手が廊下へと伸びるのが見えた。妹の手より小さいそれをつかもうとした瞬間、銃声とともにその手は床へと落ちた。
 子供は後ろから肺を撃ち抜かれ口から血液と泡を吹き出す。なにが身の上に起きたのかもわからずもがき失血からガクガクと痙攣し始めたがそれもすぐに動きを止めた。驚いた母親が慌てて駆け寄る。
「人間様と話しも出来ないよう虫ケラの母親じゃ子供が可哀想だろ。出来損ないのクズ、虫ケラは生きてくのがさぞかし大変だろうからラクにしてやったんだよ、慈悲ってやつだ。ここ、教会だろ?なあ?」
 なにがそんなにおかしいのか、自分の台詞に酔ったようにアーメンと十字を切っては笑うリッキーにつられ、デニスも周りの連中も口々にアーメンと言ってはゲラゲラと笑う。嘲笑のなか、母親の嗚咽が混じるとリッキーは子供に抱きつき泣き崩れた母親に数発の弾を撃ち込んだ。
「うるせぇんだよ……」
 リッキーはぴたりと笑うことをやめ「いくぞ」と食堂の奥へと去って行った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

処理中です...