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間奏曲
lamentazione(11)
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顎を突き出し転がるように逃げるグレンが横切った荒れ放題の庭の奥では、黒いタクティカルスーツとボディアーマーに身を包んだ数人が、その身を背丈の高い雑草の影と同化させるかのように潜み下される命令に神経を集中させていた。先頭に位置した一人がゴーグルに装備されたスコープでグレンの姿をとらえ本部へ送信した数分後、本部から教会内へ侵入している別働隊への突入命令とそれに応じる短い返答がIEM(インイヤーモニター)から聞えた直後に鈍い地響きのような音が響いた。別働隊は地下で爆発を起こし、地上部分を地下へと埋もれさせる計画だった。基礎を失い崩れ落ちた教会の天井から吹き上げる粉塵がもうもうと舞うのを視認したのち、影たちを率いる隊長は自身のヘルメットの横で後方に見えるように指を持ち上げると素早く前方へと2回振り下げた。その合図に間髪いれず部下たちがその脇を駆け抜け教会へと突入した。
アンはカメラマンとともに、野次馬たちが集まり始めた現場、警官が数メートルおきに置いたポールから宙に投影される立ち入り禁止ビームの前で中継を始めていたが地響きとともに崩れおちた廃教会を目の当たりにして、警官たちが口々に「下がれ」と連呼する場から離れた。もうもうと粉塵が舞う裏手では廃墟となっていた教会はもはや廃墟とも呼べず崩れ落ちた残骸にほかならなかった。
「なんなのよいったい!爆発?カメラ、ちゃんと撮ってる?!」
「いや、まわしてはいるけど……爆発っていうほど派手なものは無理かなあ……でもまあこの廃教会がまごうかたなき廃墟、っつーか、がれきの山となった画ならここからでも十分撮れるよ」
カメラマンは無残に砕けたステンドグラスと崩れ落ちた屋根をクローズアップした。
「ここから敷地のなかに入れないかしら」
「それはさすがに無理でしょ。ほらきた」
カメラマンはVRカメラを載せたジンバル片手にアンの背後を指差した。カメラマンが示す先をアンが振り返ると、二人の姿を見咎めた警察官が足早にやってきていた。
「そこ!下がってください!離れてください!ここは立ち入り禁止です!」
「爆発ですよね?なかで何が起きてるんですか?」
注意を与えにやってきた若い警官は逆にアンの格好の餌食となって捕まった。面前につきつけられたマイクに言葉を詰まらせアンはここぞとばかりにカメラを警官へ向けさせる。
「爆発が起き、怪我人が出ているもようです。状況を教えて頂けますか?」
「え、いや、自分は……」
「爆発の原因はなんでしょう?爆弾でもあったのでしょうか?」
「ノ、ノーコメント!」
現場経験も浅く、当然つきつけられたマイクの対処方法など先輩からきいたこともない新米警官は矢継ぎ早の質問にノーコメントと精一杯の一言を放つと、押し黙ってアンを無視することにした。少しでも威厳を保とうとするかのように手を背後に組み胸を反らす。
「あら、そう」アンは不敵な笑みを浮かべるとカメラを手で押して警官をフレームアウトさせマイクを遠ざけると同時に詰め寄った警官の襟元をつまんで顔を引き寄せその耳に顔を寄せた。
「新人さん、そのかわいい顔を全州にアップで流しましょうか?なんなら現場の裏でお仕事中にマスコミ相手とキスなんてどう?」
下世話だ低俗だと言われる深夜番組とはいえメインキャスターを勤め、現場の場数が格段に違うアンの前ではひとたまりもない。警官は後ずさるようにアンから離れると、言い訳のようにたどたどしく口を開いた。
「その、詳しいことは自分はき聞かされていないんです!集まってきた一般市民の方、特にあなたがたのようなマスコミの方たちをこれ以上近づけさせないようにと、それだけしか命令を受けていません!」
「特にだって」
おどおどした警官の台詞に笑いをこらえきれずふきだした同僚をアンが睨みつける。自分から視線が外れたすきに、警官は「とにかく、絶対にこれ以上近付かないで下さい!じゃないと、逮捕しますから!」と言い置き、やってきたときよりもはるかに早足で去って行った。
「あ!」
「駆け出さなかったのがせめてものプライドかねぇ」
「ちょっと!逃がしちゃったじゃない!」
「いやいや、いじめっこのせいでしょ」
「誰がいじめっこよ」
「誰でしょうねぇ……ほらほら、坊やがママに言いつけに行ったんだから、泣いた坊やはきっとゴリラもどきのおっさんママを連れてやって来るだろうから場所、変えようぜ」
やれやれとカメラマンは肩をすくめた。
爆発ですって?こんな廃墟でなにが爆発するって言うのよ。それに……どっからどうみても形ばかりに出動してきた警察にくらべて、なんであんないかつい救急車が早々にでばって来てるの?しかも民間救急じゃない。それも払い下げのオンボロを走らせるボランティアの車両じゃない。ここに集まってる人たちが社会保険を持っているとは思えない。高額の搬送費どころか医療費の支払いさえも危うい、社会保障から見放された人間たちが集まる、ここは捨てられた地区。廃墟はさっさと更地に、地ならししたい場所。だからここにいる人間は救うべき人間じゃなく排除したい人間のはず。そんな場所にあんな救急車……えらく好待遇じゃない。なにかおかしくない?これはただのギャングの抗争やカルト集団の自爆騒ぎなんかじゃない。
アンは睨みつけるようにして崩れ落ちた教会を見た。カメラマンが続ける軽口など全く耳に入らなかった。
アンはカメラマンとともに、野次馬たちが集まり始めた現場、警官が数メートルおきに置いたポールから宙に投影される立ち入り禁止ビームの前で中継を始めていたが地響きとともに崩れおちた廃教会を目の当たりにして、警官たちが口々に「下がれ」と連呼する場から離れた。もうもうと粉塵が舞う裏手では廃墟となっていた教会はもはや廃墟とも呼べず崩れ落ちた残骸にほかならなかった。
「なんなのよいったい!爆発?カメラ、ちゃんと撮ってる?!」
「いや、まわしてはいるけど……爆発っていうほど派手なものは無理かなあ……でもまあこの廃教会がまごうかたなき廃墟、っつーか、がれきの山となった画ならここからでも十分撮れるよ」
カメラマンは無残に砕けたステンドグラスと崩れ落ちた屋根をクローズアップした。
「ここから敷地のなかに入れないかしら」
「それはさすがに無理でしょ。ほらきた」
カメラマンはVRカメラを載せたジンバル片手にアンの背後を指差した。カメラマンが示す先をアンが振り返ると、二人の姿を見咎めた警察官が足早にやってきていた。
「そこ!下がってください!離れてください!ここは立ち入り禁止です!」
「爆発ですよね?なかで何が起きてるんですか?」
注意を与えにやってきた若い警官は逆にアンの格好の餌食となって捕まった。面前につきつけられたマイクに言葉を詰まらせアンはここぞとばかりにカメラを警官へ向けさせる。
「爆発が起き、怪我人が出ているもようです。状況を教えて頂けますか?」
「え、いや、自分は……」
「爆発の原因はなんでしょう?爆弾でもあったのでしょうか?」
「ノ、ノーコメント!」
現場経験も浅く、当然つきつけられたマイクの対処方法など先輩からきいたこともない新米警官は矢継ぎ早の質問にノーコメントと精一杯の一言を放つと、押し黙ってアンを無視することにした。少しでも威厳を保とうとするかのように手を背後に組み胸を反らす。
「あら、そう」アンは不敵な笑みを浮かべるとカメラを手で押して警官をフレームアウトさせマイクを遠ざけると同時に詰め寄った警官の襟元をつまんで顔を引き寄せその耳に顔を寄せた。
「新人さん、そのかわいい顔を全州にアップで流しましょうか?なんなら現場の裏でお仕事中にマスコミ相手とキスなんてどう?」
下世話だ低俗だと言われる深夜番組とはいえメインキャスターを勤め、現場の場数が格段に違うアンの前ではひとたまりもない。警官は後ずさるようにアンから離れると、言い訳のようにたどたどしく口を開いた。
「その、詳しいことは自分はき聞かされていないんです!集まってきた一般市民の方、特にあなたがたのようなマスコミの方たちをこれ以上近づけさせないようにと、それだけしか命令を受けていません!」
「特にだって」
おどおどした警官の台詞に笑いをこらえきれずふきだした同僚をアンが睨みつける。自分から視線が外れたすきに、警官は「とにかく、絶対にこれ以上近付かないで下さい!じゃないと、逮捕しますから!」と言い置き、やってきたときよりもはるかに早足で去って行った。
「あ!」
「駆け出さなかったのがせめてものプライドかねぇ」
「ちょっと!逃がしちゃったじゃない!」
「いやいや、いじめっこのせいでしょ」
「誰がいじめっこよ」
「誰でしょうねぇ……ほらほら、坊やがママに言いつけに行ったんだから、泣いた坊やはきっとゴリラもどきのおっさんママを連れてやって来るだろうから場所、変えようぜ」
やれやれとカメラマンは肩をすくめた。
爆発ですって?こんな廃墟でなにが爆発するって言うのよ。それに……どっからどうみても形ばかりに出動してきた警察にくらべて、なんであんないかつい救急車が早々にでばって来てるの?しかも民間救急じゃない。それも払い下げのオンボロを走らせるボランティアの車両じゃない。ここに集まってる人たちが社会保険を持っているとは思えない。高額の搬送費どころか医療費の支払いさえも危うい、社会保障から見放された人間たちが集まる、ここは捨てられた地区。廃墟はさっさと更地に、地ならししたい場所。だからここにいる人間は救うべき人間じゃなく排除したい人間のはず。そんな場所にあんな救急車……えらく好待遇じゃない。なにかおかしくない?これはただのギャングの抗争やカルト集団の自爆騒ぎなんかじゃない。
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