黎明の翼 -龍騎士達のアルカディア-

八束ノ大和

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第4章 天空編

第62話 港町

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 『すごい!小さい頃に夢を見た、空を飛ぶってこんな気持ち良いんだ!』

 アーラの背に乗り、アリシアは初めての飛行に感動するあまりとても興奮していた。

『あ、アエテルの大樹が見える。こんなに遠くからでも見えるんだ…』

『兄さん、黙ってるけどどうしたの?さっきどこか怪我した?』

『いや、高いところが怖くてな…』

バルトロは必死に目を閉じてアーラにしがみついていた。
その頃、アルクスはまだ意識を取り戻していなかった。

アーラはしばらく飛翔し、近くの山の頂きに辿り着き、4人を降ろすと小さくなりいつもの大きさへと戻ってしまった。

『アーラ、お疲れ様!お陰で助かったよ。』

『ピューイ!』

アーラも大空を飛ぶのは初めてだったためか、疲れた様子で龍珠の中へと戻っていった。

『アルクス、起きないね。この後どうしようか。』

『ここにいても何かが改善するわけでもない。とりあえず山を降りよう。アルクスは俺が背負おう。』

『海が見える方に進めば良いかな?私が風の魔術で邪魔な枝とかは切って進むよ。』

下山をしていると沢を見つけ、近くで角兎や野鳥を狩ることができたため、そこで一晩過ごすことにした。

『うーん…』

『あ、アルクスが起きた!大丈夫?』

『ここは…?』

アリシアはアーラがアルクスの力を使って巨大化して、近くの山まで飛んできたことなどの経緯を簡単に説明した。

『せっかく空を飛んだのに気を失っていたなんて…』

『また、アーラに乗せてもらえば良いじゃないか。俺はゴメンだけどな。』

アーラが巨大化して空を飛ぶためには一時的とはいえ、膨大な力を使う様子なので龍脈が流れている場所じゃないと力を吸い取られて気絶してしまうため、厳しそうだ。
まだ生まれてあまり時間が経っていないというのに、巨大化できるのも龍王の血みたいなものがなせる技なのだろうか…

『気絶しないで済む方法が見つかればね。さて、これからどうしようか。』

『このまま山を降っていけば海沿いに出るはず。頂上で見た感じだと少し北上すれば町があるはずだよ。予定していた港町には行けそうもないし、どこか船が出せるところに行けると良いけど…』

『そうだね、予定の経路では戻れそうもないか。現在地はどこになるんだろう?港町が近くにある、海沿いの山だとこの辺りかな?』
 
地図を見ながら現在地を推測し、今後の計画を修正していく。

『そういえばアルクス、体は大丈夫なの?ずっと起きないから心配していたんだけど…』

クリオに指摘されて、自分の体にどこか異常がないかを確認する。

『特に悪いところはなさそうだよ。心配かけてごめんね。でも今まで溜め込んでいた龍気や魔力とかも使い切った感じになっているから、早く龍脈を探してまた少しずつ溜めないと。』

『結構制約の多い力だったのね。アーラも疲れた感じだったし、あまり頻繁に使う力ではなさそうね…』

『自分の扱う力のことはちゃんと理解して、使うようにするよ。今回は急にアーラに使われた形になったけどね。』

アルクスの体の無事を確認し、翌日には下山して海沿いに北上して港町へと辿り着いた。
道中他の人に会うこともなく、連邦の中でも過疎地域なのではないかと思われた。
街に入ると道中の静けさに反して、漁師や商人らしき人が多く賑わっていた。

『結構賑わっているんだね。とりあえず帝国へ行く船がないか調べてみようか。』

船着場を探して、行き先の確認を行った。
旅船の予定の確認を行うと、船舶管理所という建物の受付が教えてくれた。

『あら、見ない顔ね。ポルト・ピスカーテへようこそ。どちらへ?と言っても行き先は一つしかないけれど。
 この港から行けるのは帝国との間にある、かつては黄金の国と呼ばれたアウレアンだけよ。
 今でも帝国と連邦の中心で交易を中心にぼちぼち稼いではいるけれど、他の航路もできたし普通の人からしたらただの中継地点ね。
 もちろんアウレアンから帝国への航路はあるから、あっちでまた船を探してもらうことになるけどね。
 でも今は全ての旅船が修理中で旅船は出ないの。
 もし急ぐなら造船所に行って相談してみるといいわ。
 造船所の場所はここよ。』

旅船が修理中ということで造船所の場所を教えてもらい、話を聞くために造船所へと向かうことにした。

道中、水揚げされた魚達が解体されたり、干物にされたり、丸のまま氷の魔術で保存されたりと漁業が盛んなんだなと思わされる光景を目にした。

『魚も良いな。最近生で食べることもあまりなかったし。』

『え、魚を生で食べるの?』

『エルフは生魚は食べないのか?新鮮なうちは美味いぞ?』

『そ、そうなのね…』

種族による文化の違いか、生魚を美味いというバルトロ兄さんに対してクリオはドン引きしている様子だった。
大森林だと新鮮な魚を入手する方法もないだろうし、川魚を焼いて食べるくらいだったのだろう。
造船所に着くと、仕事がないのか、皆暇そうにしていた。

『すいません、旅船が修理中と聞いたのですが、いつ頃直るかを教えていただけますでしょうか。』

『なんだお前さんは。早く直したいところなんだが、材料が手に入らなくてな。
 今のところ完成予定は未定だよ。
 俺達も材料がなくてすることがなくて困ってるんだよ。』

『魚はいっぱいあるんだけどな。』

『その材料は僕らでも持って来れるものでしょうか?』

『おっ、お前さん達は腕に自信あるか?
 実は船の素材になる木を伐採しないといけないんだが、最近森に魔獣が出て伐採できなくて困ってるんだ。』

『僕達は探索者ですし、これでも魔獣でしたら今までに何度も倒してきているので僕達でなんとかできると思いますよ。』

『本当か?よし、野郎ども運の良いことに腕に自信のある探索者の皆さんがやってきたぞ!
 明日は伐採に行くぞ!今日は景気付けに飲むぞ!』

先程までやる気を無くしていた無気力な集団だったが急にやる気を出し、宴だと言って酒を飲み始めた。
漁港でもらった魚介類が大量にあるらしいので、以前学んだ帝国風の調理方法を活用して、油で揚げることにした。

『アルクスって料理もできるのね。』

『そうよ、アルクスはなんでもできるの!』

『なんでアリシアが得意げなの?』

『だって、アルクスが褒められたら嬉しいもん。』

『そういうものかしら?』

調理風景を眺めていたアリシアとクリオは2人で何やら僕のことを話し込んでいた。
褒められて悪い気はしないけれど、アリシアはすぐに僕を持ち上げる気がある。


『美味い!』

揚がった魚介を煽るように酒を飲む船大工達に提供するととても気に入ってもらえ、色々な話を聞かせてもらえることになった。
なんでもここポルト・ピスカーテでは他の港町と違い不授の人間が集まり、助け合って漁をしてできた町らしい。
ちょうど立地が良かったため、アウレアンとの交易拠点となり、そのうち漁船だけではなく商船や旅船なども停泊するように少しずつ大きくなってきたとのことだった。
連邦の中でも少し外れた場所にあるため、連邦内の情報はほとんど入って来ず、たまにやってくる商人達の話を聞く以外に外の情報に触れる機会がなかった。
逆にアウレアン経由で外国からの情報は割と入ってきているとのことだった。
最近の話題としては連邦の中央に龍の御使い様が現れたという噂で持ちきりらしかった。

『それって私達のことよね?』

『多分そうだけど今話すと不味そうだから黙ってようね…』

今まで小規模だった龍を信奉する宗教が台頭してきて、龍を否定する勢力とぶつかるなど少しだけ混乱の様相を見せているらしかった。

外国の情報に関しては、以前からのことではあるが帝国が軍事力を強化して他国へと攻め込む日も近いのではないかと言われていた。
合わせたかのように、王国でも教会や騎士団が力を増しているらしい。
王国と帝国の国境付近では既に小競り合いが始まるなど緊張感が高まっているらしかった。

漁師間では探索者協会の様に国家の垣根を超えた協定が組まれていて国同士の諍い関係なく協力しているため、戦争が起きない限りは特に問題はないとのことであった。

『国同士のゴタゴタに付き合っていたら、俺達平民は食べていけないしな。
 昔は徴兵とかもあったみたいだけど、不授の戦えない人間がいても兵站を圧迫するだけだから、俺達は俺達にできることを頑張るだけさ。』

国の都合で平民が振り回されてばかりいるわけではないようだった。辺境に生きる人達の方が逞しく強かに生きているような気がする。

『そういえば明日はどの辺りに伐採に行くのでしょうか?』

『町から少し離れた湖の近くに巨木が連なっている場所がある。そこまで行ってからキャンプを張って2,3日伐採する感じになるな。稀に樹木の魔物が出るらしいんだが、そいつの素材はかなり品質が良いんだ。
だが倒そうとしても被害が多くて滅多なことでは手に入らないんだ。』

『それはトレントね。大森林にもいるけど、魔獣の一種だから魔力で強化されているのかも。
 もちろん魔石も取れるわ。』

クリオは樹の魔獣のことを知っている様子だった。戦う際に気を付けるべきことを聞き、念の為対策として解毒薬、そして二日酔いに効く薬を作っておくことにした。
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