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日本初イベント大会

クモモ森の光虫にご用心

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「斧とツルハシとナイフ。3セットよーし」

 あとは例のドリアード店で作ってもらった麻の糸。
 草原に生えているものを採取してきて頼み込んだ。
 あまり性能が良く無いと言われたものの、俺のスキルレベルならこれで十分でしょう。
 ヤマトを起動して、約束の正門へ向かう。

「まだ早かったかな?」

 誰もいないので、糸術のスキル上げでもやっておこうか。
 手に持った糸を狙った場所に振り下ろす。
 そして近くの雑草に糸の先を当てるんだけど、これがなかなかに難しい。
 ウーゴがやってくれた時は、糸で草を切り飛ばしていた。
 俺がやっても葉っぱが揺れるだけ。
 ただこれだけやってても飽きてしまったので、今は新しい方法を試している。
 これが意外とスキルの伸びが良い。

「ヤマト! 次行くぞ!」

 振り下ろした糸が地面を叩く。
 小さな砂埃が出る程度だけど、成長した方でしょ。

「良い避け具合だ! さぁ、次だ」
「何してますの?」

 声の主はモウカさん。
 その後に……見たことはあるんだけど名前がわからない。
 木工所に居たとんがり帽子のキミ。

「えっと、糸術のスキル上げかな」
「そんなやり方があったんですね」
「知り合いに教えてもらったんだよ。覚えてたらやってみて」
「私は持ってませんが、会員の中に持ってる子がいるので、教えてあげてみましょう」

 後ろの人が気になって仕方ない。
 とりあえず、自己紹介した方が良いかな?

「えっと、ハーフドワーフのハッチです。よろしくお願いします」
「え? よろしくお願いします」

 ……え? それだけ?
 もしかして名前聞いたことあった人か!?
 名前なんだろ?
 アルデンさんのところのお弟子さんは、名前が普通だったり変わってたりするからわからんぞ。

「モジョコさん。もしかして、自己紹介したこと無いんじゃありませんの?」

 自己紹介したことあるのか、無いのか。
 どっち!?

「あぁ! すみません。私モジョコって名前です」
「良かった。がっつり紹介されたことがあったのかと思いましたよ」
「たまに配信見てたので、私だけ覚えてて……失礼しました」
「いえいえ」

 挨拶もここまでにして、事前の相談と採取道具の配布だ。

 予定より素材多く取りたいって話をしたら、問題なくOKが貰えた。
 それよりも採取道具を譲るって言うと、そちらを驚かれたよ。

 話は色々あるけど、道すがらにしようと出発。



「ということは、モジョコさんはいくつも魔法が使えるの?」
「はい。と言ってもまだ火と風の2系統ですね」
「ほうほう。とすると残りは土と水だけですかね?」
「一応他にも属性があるんですけど、なんと言えば良いか」
「あ! まさか未公開情報」
「ということで、言っても伝わらないんですよね」

 そういうことなら仕方ない。
 だとしても、4属性以外にもあることがわかったのは良かった。
 もしかしたら、工房の本棚にあったりしないかな?

「到着しましたわ」

 鬱蒼《うっそう》とした草木のしげる森は、見通しが悪く暗い印象がある。
 前回入った時は、ヤマトの索敵無しでは厳しかった。

「モジョコさんは最後尾で、ハッチさんは警戒重視でお願いしますわ」
「「はい」」

 この森の厄介なところが、モンスターがやってくる時は大体奇襲してくること。

「前方の樹上にいるみたいです。モジョコさんも火器厳禁でお願いしますね」
「了解です」

 サイズの大きくなったヤマトの教えてくれる方法はストンピング。
 敵を見つけると足踏みをして、敵のいる方を見ているので、大まかな方向だけわかる。
 警戒していれば、そうそう負けることはない。
 飛びかかってくる虫もモウカさんのクリティカルな一撃で倒せてしまう。

「馬車の時はペットかと思いましたが、そんな能力があったのですね」
「いえ、これは最近付いた技ですよ」

 以前潜った洞窟のちょっと奥。
 地底湖の先にいたコウモリから取れた魔石を与えたら覚えたんだ。
 最初は何も覚えなかったと思ったよ。何度か探検してると、敵の襲撃時に足踏みしてるのに気づいて、索敵スキルがついたことが判明した。

「機獣って初めて見ましたけど、意外と可愛いし私も欲しいなぁ」
「あー。ちょっと特殊なタイプでドワーフ以外は難しいかなーと……」
「えー!?」

 残念がるモジョコさんに説明するも、半分も伝えられない。

「ほら、次が来るみたいですわよ」

 タシタシタシと足元のヤマトが注意してくれている。

「出たデカホタル!」
「モジョコさん。目眩し注意ですわ」
「はい!」

 俺とモジョコさんが遠距離で牽制しつつ、強くはないけど目眩しと硬いのがやっかいだ。
 強烈な打撃を繰り出すも、モウカさんの一撃を耐えやがった。

「くぅぅ。やっぱり硬いですわね」
「『土弾』! 装甲剥がすので、気を逸らしてください」
「わかりましたわ。モジョコさんも援護を!」
「了解です! 『風弾』!」

 見えづらい位置に移動して装備交換をしていると、チラ見したモウカさんが不思議そうにしている。
 これしないと出来ないんだよね。
 まだまだこちらに気が向いてない。
 これなら鈍足のドワーフでも、気づかれずに近寄ることができる。

『装備破壊』

 狙ったのは外郭の翅《つばさ》の付け根。
 ジャストヒットしたおかげで剥がれ落ち、内側の柔らかい翅がむき出しになる。

「ふふんふん!ふふんふん!」

 おぉ!
 左右右。左右右のコンボが決まった!
 これは光虫もたまらずノックアウト!
 最後のフィニッシュブローは得意技の火炎撃!
 ん?

「まって! 火は!」

 俺の声は間に合わず、綺麗に決まった拳が光虫を燃やす。

「あ。やってしまったーーー!」

 もう遅いよモウカさん。

「は、はなれろー!」
「え? えぇぇぇ!?」

 飛び退くように退避すると、引火した火が光虫のおしりに辿り着く。
 それと同時に、強烈な爆発音が森中に響いた。
 この森。引火物多数のため火器厳禁なり。
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