ネオ・アース・テラフォーミング〜MRMMOで釣り好きドワーフの生産奮闘記〜

コアラ太

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飛び出せ!

出発前

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 今更、宇宙程度で狼狽《うろた》えるほどチープな男では無い。
 なんと言っても火星に周回旅行へ行ったこともあるからね。
 ただ、今回は宇宙船に多くの有名人が乗るみたいで、かなり緊張している。

 待合室には『超企業の社長』や『なんとか賞を取った研究者』、他にも有名な人たちが何人もいる。
 てっきりウーゴたちも乗っているかと、それらしい人物を探してみたんだけど、全然わからない。乗組員らしき人たちも忙しなく動いていて、話しかけることも憚《はばか》られるような状況だった。

「いてっ」

 居場所もなく棒立ちになっていると、誰かに衝突されてしまう。

「なんですかー? この場違いな一般ピーポーは?」
「ゲスイ記者。それよりインタビューを」
「おっと、そうでしたー。早く行きましょー」

 見た目は爽やかそうなのに、なんとも残念なやつだ。記者ってのはあんなものなのかねぇ。

「立てるかい?」
「あ、ありがとうございます」

 降りてきた手を掴むと、動画で何度も目にした俳優がそこにいる。
 声が出てこない。
 す、すげぇ。

「大丈夫かい? 調子悪いならスタッフを呼ぶけど」
「い、いえ! あ、あの……もしかしてですが、黒光《くろびかり》ケツァゴであってますでしょうか?」
「そうだよ。知ってくれてるとは嬉しいね」
「あ、あの! 著書の『人釣り魚釣り365日』を何度も楽しませていただきました。特に35日目の豆蟹釣魚法の考案が秀逸で」
「ん? そこに目が行くってことは、君ももしかして釣り人かな?」
「は、はい! 陸っぱりメインですが、ちまちまとやってます」

 黒光さんと話せるなんて最高だ!
 10分程話し込んでしまったけど、迷惑かけてなかっただろうか。
 今は黒光さんも挨拶回りを始めてしまったし、また暇になってしまった。
 あ。さっきの変な記者に話しかけられてる。
 嫌そうな顔してるけど、大丈夫だろうか。
 もしかして俺の時も嫌だったんじゃ……。

「ハッチ君!」
「んぁ?」
「やっと気づいた。何度呼べば良いんだい」

 不機嫌そうな笹森さんがいる。
 とは言っても、文句を言いたいのはこちらも同じ。
 これだけの有名人の中に放り込まれたら、こっちだって緊張してしまうものだ。

「笹森さん。一般人枠とかでもっとショボい会場なかったんですか? ずっと落ち着かなくて」
「そりゃ失敬した。だけど、君も主役の一人だから無理ってものさ。それより誰かと仲良くなれた?」
「仲良くって……黒光さんとは少し話せました」
「ほうほう。確かスペースパニック映画の撮影するとか聞いたな。それかもしれん」

 まだどこにも出てない情報をペラペラと言って良いのだろうか。この人が妙なことを溢さないかと心配になる。
 そのまま別部屋で簡単な会議があると言われ、案内されるがまま移動する。

「A-6の方々はこちらへお願いします」
「Q-2はこちらへ」
「J-5はこっちです」

 グループごとに呼ばれると業界ごとの人たちがまとまって部屋に入っていく。
 俺の入ったところもかなり広く、巨大な円卓にいくつもの席がついている。
 笹森さんから「君はここ」と、割り当てられた席に座る。
 ただ、落ち着かなくて全員が席に着くまでに、変えた方が良いんじゃないかと聞きに戻ってしまう。

「いや、指定席だからダメだよ」

 なんとも無常。
 両サイドのお偉いさんからも奇異の視線を向けられ、心がガリガリと削れていく音が聞こえる。

「さぁ、それでは始めましょう! 進行は宇宙対策本部長の笹森が行います」

 パラパラと鳴る拍手に便乗して、気持ち弱くペチペチと鳴らす。

「さて、今回の目標とスケジュール確認を開始しましょう」

 事前に聞いてた内容とのすり合わせと、宇宙船の侵入可能区域の確認。
 いつからいつまでは誰が使うか。
 入っても良いけど運動はできないとか、業界ごとに使えるスペースが割り当てられたりとかを伝達していく。
 追加でどこそこを使いたいとか、そのための費用はいくらとかを話していて、途中から飽きてしまった。
 一般人枠の俺は借りる金も無いし、聞くだけ無駄だと配られたパンフレットを眺めていることにした。

 大規模宇宙船の区割りを見て改めて驚く、乗組員込みで500人規模の宇宙船とか始めて聞いた。
 これまでは100人が限度と言われていたのに、5倍とはかなり技術が飛び越えたということだろう。
 しかも、海王星へ行くのに2週間ってのも不思議な技術だ。すでに俺の知能を遥かに超えている。
 宇宙での活動を空想していると、隣から声が掛かる。

「私はジャック・テイラー。おそらく初めましてだと思いますが」
「初めまして、私はエビナ・ボウタです」

 挨拶を返したつもりだけど、相手が反応に困っている。
 というか、話は……すでに終わって談笑の時間なのか。

「ボウタ? 始めて聞く名前ですね。失礼ですがどちらのお国でしょうか」
「あ、日本です。ジャックさんは、もしかしてイギリスのお方で合ってますか?」
「えぇ」
「良かった」

 怖い人ばかりと黙っていたけど、意外と気さくで良かった。
 かなり、気を使わせてしまったようだけど。

「しかし、ボウタさんは使用区画の希望を出さなくて良かったのですか? ずっと静かにしておられましたが」
「えぇ。みなさんみたいに偉くも無いですし」
「ほうほう。ちなみにどちらの業界か聞いてもよろしいですか?」
「あまり大きな声で言うのも恥ずかしいのですが、魚関係でして」

 そこでジャックさんの目が鋭くなる。
 魚は嫌いなんだろうか。
 アランの話では、イギリスでも魚嫌いはいるらしいからな。

「日本でも魚関係の業種は研究が進んでおりますからね。なるほどなるほど」
「ですが、イギリスのフライは有名ですよね。私も好きなんですよ」
「確かに! 人によっては好まない場合もありますが、我が国の伝統ですからね」

 フライフィッシングが嫌いか。
 まぁ、中にはそういう人もいるのかな?

「日本は宇宙でも魚に力を入れられるのですね。これはこれは。我々の服飾も宇宙用の服を考え直す必要がありそうですね」

 この会話だけで、俺が宇宙で魚釣りをしたいところまで見抜かれたのか。
 やはり大企業のお偉いさんはすごいな。
 ただ、俺一人のために服飾業界を動かすのもどうかと思う。

「宇宙空間でも対応できる服は、開発に苦労されるでしょうね」
「もちろんですが、新たな技術開発はどの業界でも進めていくものですから」

 やっぱり最先端を行く人は違うな。
 こういう人から、なかなか話を聞く機会が無いからためになる。

「海老名君。ジャック氏と仲良くなったの?」

 突然の笹森さん。
 あっちも話は終わったのか。
 それにしても視線が集まるのは恥ずかしいな。

「優しくしてもらい、色々とためになる話も聞けました」
「そうかい? じゃあ船室に案内するよ。あと、忘れ物の確認もしないといけないからね」
「ジャックさん。失礼します」
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