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飛び出せ!

アーゴとのバトル

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 会場とやらに辿り着くと、笹森さんと数人のネテラ運営陣が座っていた。

「笹森さん。お待たせしました」
「ん? これはこれは……オーク星のどなたですかな? 失礼。我々はまだ見慣れてなくて判別が」
「いや、俺ですよ。海老名です」
「え? いや、まさか」

 特別仕様のエビマークを見せつけてもなかなか理解してもらえない。
 驚きは運営だけでなく、両陣営からみれる。

「仕方ない。真実の姿を見せ……どうやって脱ぐんだっけ?」

 さっき聞いたっけな?

「そ」
「テイクとオフを繋げて言うんだよ」
「アーゴ!」

 今教えてくれたのはアーゴか。
 まだ覚えきれないな。

「サンキュー! テイク! オフ!」

 背中をカッシュンカッシュン鳴らしながら外気が入ってくるのがわかる。
 肌が触れる空気を美味いと言っている。

「とぅ!」

 気持ちよく飛び出し、笹森さんとオーク着ぐるみ星人に顔見せすると、驚愕した表情でこちらを見てきた。

「すごいでしょ。こいつはめちゃくちゃ良いですよ」
「君がそういう趣向ということは良くわかったが、いや良くない。すぐ着なさい」
「せっかく見せてあげたのに。こいつをもうちょっと見たくないの?」
「見たくないわ! すぐにそれを仕舞え!」

 そこまで言うなら仕方ないと着ぐるみに向き直る。
 すると、着ぐるみ開放部の端に服がある。
 それに手を伸ばすと、腕に布が無いと気づいた。
 嫌な予感がして下を見る。

「へ? ふぁ!?」

 なぜ裸?
 俺の服は!?

「ぶひゃひゃひゃひゃ」

 笑いこけるアーゴが視界に入る。
 確かこいつが合言葉を教えれくれたんだ。
 こいつのせいか!

「地球人はあんな感じなのか」
「そんなことよりアーゴ! 艦長。さすがにこれはやりすぎです!」
「そうだな。いや、その前に新しい服を」

 慌ててやってきた着ぐるみ君が新品の服を渡してくれた。
 すぐに着替え、すまし顔で「お待たせ」などと言ってみたが、全員顔が引き攣っている。

「すまない! こいつの悪戯で恥をかかせてしまった。こいつには厳罰を」
「いえいえ。引っかかったこちらも浅はかだったと言えます」

 俺の思考が足りないとでも言いたいのか!?

「まぁ、汚れ物は置いておいて、やはり乗り物だったのですね」
「おもてなしとして見せるつもりだったんだが、順番が狂ってしまったな。ただ、申し訳ないが譲渡はできない」
「もちろんです。初の直接会談でここまでしていただけたことが、すでに十分と言えます」
「贈り物は他にもあるが、それぞれの思惑もあるだろうから」

 笹森さんと艦長は、含み笑いで肩を揺らしながら互いに握手を交わしている。
 俺にはわからないバトルが始まっている予感だ。
 笹森さんガンバレと言いたいところだが、ちょっとした不祥事はあったものの着ぐるみ機体は面白かった。
 つまり中立になるしかあるまい。
 ただし、アーゴ。
 お前はダメだ!
 とりあえずメンチ切っておく。

「ぶ! うひゃひゃ。ウーゴの友達おもしれー」

 笑わせたいんじゃねぇっての!
 こいつには一度一撃決めなければいけない。

「ん? どうしたハッチ?」
「ウーゴ。すまんが俺の勇姿を見守っていてくれ」
「は? 何言ってるんだ」

 アーゴの前に突っ立ち、頭二つ分も背の高い着ぐるみの胸に手を当てる。

「お? この機体に乗りたいのか? でもこっちはダメだぞ」
「アーゴさん。面白いネタをありがとう」
「ん? あ、あぁ」

 あぁじゃねぇんだよ!
 思いっきり手を握り込み、渾身の力で引き下ろす。
 ブチっブチっと小気味良い音を鳴らし、手に残るモシャモシャを高々と掲げた。

「うぃー!」
「「「「あ」」」」

 はらりと落ちる数本の毛が舞い、地球陣営の人たちが顎を大きく開けている。
 驚いて何も言えないみたいだね。
 ならばもう一度勝鬨を

「うぃ」
「うぃーじゃない!」
「あだっ」

 なぜ叩かれる。

「大変申し訳ありません!」
「いやいや、先にやったのはこちらの方だ。だが、ウーゴから聞いていた通り面白いことをする」
「カンチョー! やられたのは俺なんですけど?」
「バカモン! お前が原因なのだ! しばらく毛の修復はせず活動しろ。これは命令だ」

 ふふふ。
 これでおあいこだな。

「なかなかやるじゃないか」
「ウーゴが薦めるだけあるわね」
「こっち来なよ。あんたたちでも食えるのを用意してあるからさ」

 胸毛奪取の効果か着ぐるみ星人からお声がかかる。
 据え膳があるなら食わないわけにはいくまい。

「折角だし、オーク(着ぐるみ)星の食事を味わってみましょう」

 腕を引かれながら飯を食いに行こうとしたら、アーゴが胸毛の抜けた部分に何らかの印を描いている。
 その印が無駄に格好良い。
 俺が少し羨ましそうにしていたのか、こっちを見たアーゴが再び勝ち誇ったような顔つきをしていた。
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