サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

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4章 国の波乱

第76話 街道の悪魔

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「どこ行きやがったんだ! 良い獲物だと思ったんだがな……戻るか」

 俺たちの追いかけっこは丸1日続いた。
 夜になっても見えているのか、全く離れず追いかけてくる。何度か魔物をけし掛けてみたが、轢き潰すという言葉が合っているな。まさにダンプカーだ。
 一度距離を縮められかけたが、以前作っていた唐辛子パウダーのおかげで、なんとか突き放すことが出来た。
 それも夜が明けてつい先ほどのことだ。
 それほど遠くに行けて無いが、さすがにもう見えてないだろう。

「やっと撒けたか。やったねジャン君」

 遠くの草場からバレない様に覗き込む。

「う゛えぇぇぇぇ」

 どうやら気にしてるどころでは無いらしい。これだと、ジャン君が落ち着くまで動けないかな。

 太陽が真上に来るまでは動けなかった。
 さすがに、ジャン君は疲れていたのか眠っちゃってね。

「あれ? あいつは?」

 起きたみたいだね。

「ちゃんと逃げ切ったよ。危険な奴だったねー」
「まさか街道にあんな奴がいるとは……みんなは大丈夫かなぁ?」

 正直言うと分からない。

「まぁ、行ってみればわかるだろう。それよりここまで戻ったら南の街道超えていくしか無いよね」

 現在地は平原の南よりやや元王都側。
 そう言えば、トーマスが居た村が近かったな。

「ジャン君。俺の知り合いがいる村に寄っていこう」
「やった! 久しぶりの人里だ!」

 喜んでもらえたようだな。

 ……
 …………


 少しゆっくり歩きすぎたのか、近くの村に辿り着くと、夕方前になってしまった。
 村の門番も人手を増やしたのか、3人程で守っている。
 その内の一人が気づいて声をかけてきた。

「何者だ!」

 槍まで構えなくても良いと思うんだが、腕を広げて何も無いよアピールしておこう。

「旅の者でっす。今晩泊めてくださいー。あとトーマス君いますか?」
「なに? トーマスだとぉ?」
「あいつならつい先日ニールセンに帰ったぜ」
「おい! 勝手に言うなよ!」

 何か揉め事か?
 だが、ここにはいないのか。
 泊めてくれるかなぁ?

「ちなみにこの村の宿は全部埋まってるからね。野宿なら良いけど?」
「だから勝手に! まぁ良いだろう」

「ジャン君よかったね。村で寝て良いってさ!」
「いや……野宿だろ?」
「そんな細かい事気にするなよ」
「細かくねぇよ!!!」

 ジャン君の言葉は気にせず、寝床を探すか。


 少し広めの場所を貸してくれたので、一角に満天の星空を拝める簡易ベッドをこさえた。

「ここって厩舎の横じゃ」
「良い夜空だねぇ。僕は屋根上で星を見ながら休むよ! オヤスミ!」
「あ! おい! 逃げやがった」

 久しぶりに静かな夜になりそうだ。


 ……
 …………


「起きてんのか? 立ったまま目瞑って、どうなってるんだ?」

 ジャン君の声だ。

「やぁ。起きてるよ」
「うわっ! 起きてたか。そろそろ日が昇るよ」

 今日から、また半亜人村へ向かわないとね。
 日が昇ると同時に村を出発する。

「どうやって行くんだ?」

 それはごもっともな質問だな。

「街道を少しだけ進んだら、南に外れてから、目的の村へ向かおう」

 俺の想定だと、村2つ分進んで、そこから街道を外れると丁度良い。その先になるとゴロツキが増えて、絡まれるのが面倒になる。以前はそうだったから、最近のことは知らないけどね。



 だけど、想定通りにはならなかった。
 村1つ超えた辺りから、ガラの悪い奴が増えてきて、チラチラと見てくるんだよね。それも気になるんだが、そのガラの悪い奴らが、道端に倒れてるから困る。
 頬に赤い筋がついてるけど、鞭で打たれたのか?
 別の奴は3本線の入った紅葉腫れがある。

「さっきから、変だよな? これ大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないだろうけど、後ろからゾロゾロ付いてきてるのもなぁ」

 倒れている人が増えるのと共に、後ろを付いてくる奴が出てきたんだ。
 しかも後ろで、悪魔が出たとか言ってるし。

(あいつらの後ろなら大丈夫だろう。)
(俺らの代わりに餌食になってくれる。)
(良いか? 例の奴が出たら全力で走れよ。)
((おう。))

 ほうほう。
 それなら俺も注意しておこう。

「んー。何か出るかも知れないから、ジャン君も注意しててね」
「わかった」


 ……
 …………


 何事もなく、次の村まであと少しの所に来た。

「心配して損したな。何も無かったじゃないか」
「そうだね。まぁ、後ろの人たちが動きそうだけど」

「へへ。良くわかってるじゃねーか!」
「ここまで来ればこっちのもんよ」
「悪魔が居なけれ怖くねえ!」

 見た目も装備も貧相だが、度胸だけは自信があるみたい。
 だけど、詰めが甘いよ。

「君達には横から聞こえる音が分からないのかな?」

 そう言って平原を見る。
 ストーキング3人とジャン君も釣られて平原を見ている。
 豪快な地響きを鳴らしながら何かがやってくるが見えない。

「音だけか?」
「何もいねーぞ」
「騙しやがったな!」

 そこに2mサイズの影が南の林から飛び出し、3人に蹴りをかます。
 3人は、奇妙なうめき声と共に吹き飛ばされていった。

 くわぁぁぁぁ!
「やるじゃないか! さすがはオスクだ! タイミングをわかってるねぇ」

 30分程前からオスクとメサの気配は感じていた。
 ただ、動きが奇妙。あっちへ行きこっちへ行きと2匹ともフラフラしていたので、なかなか追いかけることは出来なかった。

「こんなところで何してるんだ? みんなはどうした?」
 くわっくわ!くぇぇ。
「そうかそうか。獲物を探してたんだな」
「兄ちゃん、それでよくわかるな?」
「なんとなくな。それよりオスクの屋台があるから水飲もうよ」

 そう言って荷物を下す。
 歳をとると体が硬くなってしまうな。
 肩や首回りがゴリゴリ鳴る。
 俺の後ろからもゴリゴリ鳴っている。
 ん?

 そこには半透明な軟体生物が、俺の背嚢から小瓶を出して削っている。

「おい。それ……」

 黒い粉を体に漂わせながら、ご満悦なメサ。

 あぁ…。

「大事なシワ茸がぁ」

 しばらく立ち直れないかも知れない。

「おい! この後どうすんだよ!?」

 何か聞こえるような気もするが、どうでも良いや。






 気づいたら、空に浮かぶ建造物が見えている。

「あれが、空飛ぶ城か」
「なーに言ってんだよ! ブルーメン着いたぞ! この後どーすんだよ。」
 あれ?
 屋台の上で仰向けになっている。
 誰かが乗せたのかな?

 くわわ!
「オスクが乗せてくれたのか? 良い奴だなぁ」
 ブルブル。
「なんだメサもいたのか……」

 んー?
 ん!?

「お前! 俺の大事なシワ茸をぉぉぉ!!!」

 屋台から飛び降り、すぐさま臨戦態勢。

「お前もやる気か! ここらで一度上下関係わからせてやる!」
 ブルブルブル!

「兄ちゃん、やめてくれよ! またヤバいの来たらどうするんだよ!? それに、全力出したら道も壊れるぞ!」

 一度休んだ俺は少し冷静なのだ。

「確かにあいつは危険だった。勝負はお預けだ」

 小心者の俺には、あの苦労をすぐに味わいたく無かった。
 プルプル。
 小馬鹿にしてるような感覚はあるが、今は無視だ。

「あれもこれも、帝国と聖教国が戦争なんぞするからだ。ふん!」


 街へは行かずにそのまま南に向かうが、近場の野盗共が寄ってくる。

「変な馬車あるぞ?」
「なんだぁ?」
「おい! こいつら街道の悪魔だ!」
「なんだと!」
「よくも仲間をやってくれたな」
「こんだけ入れば倒せるぞ!」

 どこかで恨みを買っちゃっていたのか。
 面倒なことになったが、全員で逃げるのは苦労するな。

 くわぁぁぁ!

「とりゃー!」

 なかなか良い勝負をしている。
 ここらのチンピラは、ベン君とオスクに任せれば良いだろう。
 そう思って俺はまた休もうとしたんだが…。
 なぜか魔物まで襲ってきて、乱闘状態になってしまった。
 俺は避けてれば良いんだが、1人1匹が少し劣勢だ。
 メサも乱闘に混じって蹴散らしてるが、1匹で大量に相手してるので、助けにくるのは無理だろう。
 ちょっと余裕作ってやれば勝てそうかな?
 助けに行こうとした時。

 くわっくわぁぁぁぁ!
 オスクの体が急に輝き出した。

「オスクめ! そんな新しい技を覚えていたのか!?」

 敵も味方も目が眩《くら》んで、動けない。
 いや、メサだけは今も倒し続けている気配がするな。

「くそ! 目が痛え」
「いきなり何だよ」
「何も見えねえ」
「完全にとばっちりだ!」

 最後のはジャン君だね。


 ようやく見え始めてくると、まだ若干光ってる物体がある。
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