サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

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5章 獣王国

第91話 閑話 バートの後処理

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 <バート邸>

「バート兄様」
「メルロかぁ? どうしたぁ」

 執務室で作業するバートの所にメルロがやってきた。

「ノールさんのことが聞きたいです。どんな方なのですか?」
「どんな、かぁ……。長くなっても良いかぁ?」

 メルロが頷くのを確認すると、ゆっくりと言葉を紡ぎ出し始める。
 初めてノールに会った時のこと。遺跡で起こった事件について。ノールから直接聞いた内容。噂での話まで色々と。

「一言で言えば『アホ』だなぁ」
「そこは『謎』ではありませんの?」
「謎ではあるが、あいつに一番合うのはアホだなぁ。行動の1つ1つに意味が無い。気づいていると思うがぁ。あいつは長命種だぁ」

 メルロも頷くが、精霊が見えたことと、それを操ったことが気になってしょうがない。堪え切れず質問しだした。

「前にも言いましたが、なぜ精霊が見えて…。あそこまで扱えるんですか!?私がいつも魔力を与えていた子にですよ?」

「むぅ……これは確実な話ではないのだがぁ」

 ノールが以前話していた世話になった人。その中に長命会のメンバーの名前が多数入っていた。この国でもある程度階級が高くなると耳にする名前達だ。

「彼らのうち誰かが教えたか、もしくは他の人が教えたかぁ。師匠も居たと言ってたしなぁ」
「はっきりとはわからないのですね。ならばもう一度会うまでです」
「霊峰へ行くのかぁ?」
「呼べば良いのです」

 メルロにも困った物だが、恐らくそれは叶わないだろう。

「あいつはもう首都に来ないぞぉ?」
「え? なぜです?」
「簡単に言えば気に入らないからだなぁ。俺でも捕まえておけないなぁ」

 居心地の良い場所を探し続ける男。物を持たないからすぐ逃げられる。記憶も置いてくるのだけは困り物だがな。

「なんとか出来ないのですか?」
「お前が行けば良いだけだぁ」

 じっと見つめるバートに耐えられなかったのか、何も言わずに部屋を出ていく。




「親父も聞いてたんだろぉ?」

 奥の部屋からおずおずと父が出てくる。

「ずっと首都に居たせいか、階級意識が付いてしまったかな?」
「親父い。北の情勢を……」
「わかっている! 人族の排除など出来ん。いずれ関わりが深くなるだろう。有効か敵対か」

 獣王国でも、北方の情勢が変わったと問題になっている。
 霊峰があるからと安心する者。
 奪ってやろうと言う者。
 友好を目指す者。

 帝国は脅威だが、聖教国も力をつけてきている。
 それぞれ独自の技術を持ち、国力も徐々に獣王国へ近づきつつある。そんな中、国内で差別などしている場合では無い。

「どうするか迷っていたがぁ。やっぱりノールが見つけた問題は潰しとくぅ。メルロは」
「私から言っておこう。ダンテだけかと思ってたが、知らないところで入り込んでくる」




 _______________

「チコも言ってやんなよ」
「報酬上乗せ」
「わかってるぅ。後で払うさぁ」

 ゲイルを除いたファングのメンバーと兵士を引き連れ、北方の村からの帰り。
 無断での通行料の徴収について、兵士がいると行わないと思ったので、チコとベスに頼んでいた。
 思った通り、通行料を取ろうとするし、セクハラ紛いのことまで言ってきた。
 現行犯ということで、厳重注意まで出来た。
 以後は、定期的な監視と、次回発見時は懲罰が加わる。

 バートの権限だけで出来るのはここまでだ。
 これ以上は規律を追加するか、変更しなければいけない。


「次は練兵場かぁ。嫌になってくるなぁ」
「あんたが嫌なら私はもっと嫌なのよ?」
「ベス。おかんむり」

 申し訳ないし、気持ちはわかるが、1人は人族に居て欲しいんだ。





「ねぇ。本当に名前使うの?」
「それが一番だぁ」
「納得し」



「バート殿! 兵士まで連れて。こんな所へ、いかがなされましたか?」
「先日なぁ。中心街に人族が入る時、門番してくれた奴に礼をなぁ」
「あぁ。それならアイツです。おーい! ベンズ!」

(なんか私と似ていて嫌ね。)
(我慢すべし。)

「どうかしましたか? やや。これはバート様!」
「君がぁ。門で俺の客を案内してくれたってなぁ。隊長、彼で合ってるかぁ?」
「は! 確かに彼のお方を案内する時は、この者でした」

 隊長の言葉を聞くと、べンズは一瞬眉を顰める。その後ベスを見て口角を上げた。

「私が話すわ。一緒にモール族が居たけど追い返したのは?」
「この女は一体。どういうことですか?」
「あなたが受け取ったのはジールの手紙……これで合ってるかしら?」

 べンズが手紙を見ると頷く。

「これには、本人と同行者も入れるように書いてあるけど?」
「しかし、モール族です。そんな者達を中に入れるなど…。それにこの人族がなぜそんなことを」
「彼女は俺の同僚だぁ。文句あるのかぁ?」
「い、いえ……」

 完全に萎縮してしまったが、それでもバートは止めない。彼も『差別意識を植え付けられた被害者』であることもわかっている。今回ので改善したら、労ってやる。優秀なら、取り立てて昇格もさせる。

「君が通した人族が不満に思っててなぁ」
「だからどうしたと言うのです」

 わかっているが、怒りが抑えられない。バートがべンズの両肩を掴み話し掛ける。

「彼は『長命会』の客人でなぁ」
「「「「「え?」」」」」

 ファングのメンバー以外は、事情を話してないので唖然としてしまった。

「みんな知っているだろう。我々の国も多少世話になったなぁ。そして一度怒りを買ったこともなぁ?」

(マジかよ。)
(運が悪すぎる。)
(べンズも終わったな。)

 バートの握力が強くなる度に小さなうめき声が漏れ、とうとう膝を着いてしまった。

「だが、彼は思ったより怒ってなかったぁ」
「ならば……」
「俺になんて言ったと思う?」

 バートが周りを見渡すと誰もわからないといった表情。

「『国の管理者も大変ですね』だぁ。この国は兵士も管理出来ないと思われてるぅ。お前の行動で国の上層部が笑われたんだぁ」

 べンズは青褪めて何も言えない。

「俺が誤解を解いておいたから、今回はこれだけだぁ。他の者も覚えておけぇ。人族も獣族も例外だと書かれた規律は無い!」

 バートも手応えを感じたのか、納得した表情で帰ろうとするが、1つ忘れ物があったことに気づく。

「べンズ。あの客がお前の仕事に礼だと渡してきた。3日で良い。首から下げておけ」
「これは……うっ」

 バートと渡された巾着を何度も見返す。

「これを3日?」
「それを着ければぁ、誰もお前を責めない。責められない」
「や、やります。ぐっ」

 着けた瞬間気絶するが、誰も助けない。
 助けられない。

(あれって。)
(異臭騒ぎの元凶だ。)
(こんだけ離れているのにこの臭いだ。)
(あれを3日か。無理だな。)
(良い方じゃないか?3日でミソギが出来るんだ。)
(お前が鳥系だからだ。犬系のべンズには地獄だぞ。)

「上には俺から言っておくぅ」

 _______________


 やっと仕事を終えたバートが屋敷に戻ると、とある客人が待っていると知らせがある。

「親父殿。俺に客だと聞いたがぁ?」
「兄上はどこであの方と知り合ったんだ!?」

 隣のダンテが捲し立てるように話しかけてきた。
 いきなりのことで、バートには何を言っているのかわからない。
 良く見ると、家族全員が集まっている。
 父と母に目を向けるが困惑した表情でわからない。

「ラス・トゥー国から…いらっしゃった」
「海の向こうから?誰とも会ったことないが……」
「会えば誰かわかる」
「お父様! やっぱり私も」
「ダメだ! バートの知り合いの話をしていた。余計な者は入れない方が良い」



「ノールと知り合いなら構わない」

 上から聞こえてきたが…蜂?

「すまん。部屋まで聞こえた。来ても良い」

 蜂がしゃべってる……。

「これは使い魔」

 とにかく待たせるのは悪いと思い、応接室へ向かう。
 親父達は残ったが、ダンテとメルロが着いて来る。
 バートは、頼むから面倒ごとは避けてくれよと考えていると、部屋の前まで来てしまった。





*日にちと話の内容を考慮した結果、3月11日は投稿せず、12日に2話投稿します。
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