サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

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7章 魔王と半仙人

第130話 エリンという存在

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 出発後、アオイがコソコソと尋ねてきた。

「実さん。そちらの方ですけど、エルフですよね?」
「まぁ、そうだよ。正確には違うけど、紹介されたんじゃないの?」
「いえ。いきなり来られて、『ノールはどこ』と聞いてきたので」

 なんも説明してないのか。後ろを見ても、本人は精霊と戯れているだけで、全く気にした様子も無い。

「エリンさん。自己紹介してないんですか?」
「え? そうだっけ。どっちでも良いかと思うけど。ほうほう」

 急にイツキの顔を覗き込むと、ニコリと笑って機嫌が良くなる。

「ふふ。ノールの弟子かな? でも、変な気配もする」

 当のイツキは、赤くなった顔を隠そうと後ろ向きになっている。
 そんなことなどお構いなし、エリンは彼の頭にチョップをかました。

「いてっ!」
「おっほぉ! 抜けた抜けた」

 なんか付いてたか?
 俺も弾いたはずだったんだけど、見逃しがあったのかな。

「君。スキルもらったでしょ!」
「え? もらいましたけど、それがどうかしましたか」
「ザーンネン! 君とは相性最悪。かえって覚えづらくしてるよ。ね?」

 そうだったのか。
 全然しらなかった。とは言えない雰囲気。

「ま、まあね。いつ外そうかと思ってたけどー?」
「じゃあ、ノールも自分の外しなよ」

 やり方がわからない。

「んー。どうやったものかなぁ」
「まさか、やり方知らないの?」
「……しらない」
「へっへっへ」

 後ろから衝撃が来った時には、目の前は地面だった。

「じゃあ私がやったげる!」
「ぺぺっ。後から言わないで下さいよ」

 口の中がジャリジャリする。

「はぁ。嫌な目にあった」
「でも、変なの取れたでしょ?」

 確かに、ほんの少し嫌な力は無くなった気がする。元々が気にならない程度だったので、効果があるか微妙だけどね。

「オレたちだけで良いの?」
「俺はそこまで気にしてなかったからなぁ」

 エリンを見ると、すでに興味が無くなったのか、また精霊達と遊び始めた。

「まぁ、相性って言ってたから、良いんじゃ無い?」
「はぁ」

 俺もしょっちゅうやってるけど、気の無い返事はあんまり良く無いんだよね。気が抜けるって言われるように、気が溢《こぼ》れていくから。
 それでもやっちゃうのは、それを意識して気を使っちゃうから。と言い訳させてもらう。
 それをイツキにも伝えておく。

「というわけで、出来るならイツキはため息をやめた方が良いよ」
「うーん。気に留めておきます」
「そのくらいで、ちょうど良いね」

 出発初日の夕飯。
 今回は俺が待ち遠しかった例のアレ。
 3人もわかっていたのか、報酬を貯めて食用の油を買い込んでいた。

「さすがだ! 良くわかってるね」
「もちろんです!」
「俺は醤油つけるんだ」
「私は塩で」

 比較的安めの油だったが、それでも高価だったと言うので、ギリギリ揚げられる程度に薄く敷く。
 即席の箸を突っ込むと、パチパチと弾ける音が聞こえてくる。

「よし。入れるぞ」

 みんなの顔を見返した後、衣をつけた野草を1つずつ投入していく。
 ジュアアアと、連続で弾ける油。
 周囲からは固唾を飲んで待つ者達。
 そこかしこから、生唾を飲み込む音が止まない。

「そ、そろそろ」
「まだだ。色が薄いぞ」
「なんかすごい料理みたいだね」

 エリンも気になって覗きに来ている。
 ぶるぶると、震えるくらげ達も見守っている。

「よし。まずは1つ」
「おぉ。おいしそう。あっつ!」
「へ?」

 気づけば、揚げた天ぷらはエリンの口に。

「ほふほふ。これおいひー。メサちゃんも半分どうぞ」

 ぷるぷるしながらメサも取り込み、俺の箸には空気だけが残る。
 だが、これは想定内。
 次弾の準備は整っている。

「……次を揚げよう」

「次……」「次だ!」「まだだ!」「残っている!」

 気づくと衣のタネが無くなっている。
 半分量とは言え、このハイエルフのどこに天ぷらが入り込んでいるのか。
 膨れた腹など無く、変わらないスタイル。
 ただ一言「久しぶりに満足するごはんだったわ」とだけ。
 その横では、一緒に食べてた従魔も満足げにしている。

「だ、だれか。小麦の残りは無いか?」

 かえってくるのは、虚しく振られる首だけ。

「実さん。次の村で買いましょう」

 カオルの慰めも悲しさを誘う。
 だけど、それしか無いので、了承する。

「うん。もう今日は休もうか」



 その後、人間4人は、何も食べずに朝を迎えることになった。

「朝は私たちで作りますね」

 カオル達は、日光浴をする俺に声をかけると、返事を待たずに料理を始めた。

「なかなか良い子達じゃないか」

 昨日のことなど気にせず、いつものように、軽く声をかけてくるエリン。
 その様子を見てると、落ち込んでる自分が馬鹿らしくなってきた。

「エリンは、あとで山菜でも取ってきて」
「おや? もう敬語は使わないの?」
「意味もなく使うのは、馬鹿らしいと思っただけだよ」
「へへへ。良いと思うよ!」

 言い切ったと思えば、すでに形は無く。遠くの森に気配だけ動いている。
 俺も飄々《ひょうひょう》としていると言われていたが、自分以上の存在を見ると、まだまだ固い性格な気がしてきた。

「あんな風になりたいとも思わないけどな」
「ご飯できましたー!」
「今行くよー!」
「ゎーぃ……」

 あんなに離れてるのに聞こえてるのか。
 エルフも何人か見たことあるけど、ここまで差があったとは思えない。
 やっぱりハイエルフになると、基礎能力が相当上がるのかな?

「実さん冷めちまうよ」
「そうだった! 飯食おう」

 朝食なのに、なぜか山盛り果物が添えられている。
 その横でニコニコ顔のエリン。

「エリンさん。今取ってきたんですか!?」

 自慢げに胸を張って、ちゃんと取ってきたぞと俺を見ている。
 果物は嬉しいので、素直に感謝しておこう。

「朝から果物まで取ってきてくれて、ありがとね」
「ノールと私の仲じゃないか! いつでも言ってくれ!」

 なぜか、俺と話す時だけ、テンションが高くなる。

「エリンさんは、ノールさんを気に入ってるみたいですけど、どこでしょうか?」

 エリンは、何かと俺を気にかけてくれていたし、遠回しに助かったこともある。なんでそこまで、気に入ってるのか、俺も知りたいところ。
 ついでにイツキ君も気にかけてるので、なぜか知りたい。

「簡単に言えば同族だからかな?」
「え? 実さんはエルフじゃないですよ」

 その通り。
 人間かと言われると、微妙なところだが、俺は人間だと思っている。

「そういう分け方はしてないかな。私たちは寿命が長いから、一緒の時を過ごす者を同族として扱ってるんだ。実はエルフより長生きだし、ハイエルフやハイドワーフと近いと思うよ」
「なるほど、そういうことか。それならイツキを気に入ってるのはなんでだ?」
「ノールは気づいてないの? 私たちほどじゃ無いけど、この子も長命種の兆しがあるんだよ?」

 イツキが? 思いっきり瞑想教えちゃったけど、なれるのかな?

「オレが長命種に? 実感無いけど」
「イツキ長生きになっちゃうの?」

 アオイが少し悲しそうな顔をしている。

「今すぐ気にすることでも無いでしょ。だけど、そういう理由だったのね」

 俺個人としてはすごく納得した。

「そうだね。と言っても、長くて500歳程度じゃない?」
「そんなもんか。ドワーフの長老が500歳とか聞いたっけ」

「そんなに!?」「なっが!」「十分です!」

 驚いてるけど、俺たちからすると、500年はそれほどじゃないしなぁ。

「私は最初から長命だから、その感覚はわからないわね」

 俺も寿命考える前に長命になったから、わからないです!
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