サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

文字の大きさ
152 / 165
最終章 半端でも仙人

第151話 ペロの進化と自由な牡鹿

しおりを挟む
 光が収まってくると、ペロの全体が見えてきた。
 金属質の光沢は変わらないが、体の背中側に柔らかそうな毛が生えている。さらに、骨格が変わり、犬のように立ち上がっている。

「ペロちゃんの足が長くなった!」

 なんか違うと思うけど、そういうことにしておこう。

「進化したな。魔力が増えたからか、特殊な素材を食べたからか。どっちにしろ強くなったことに違いない」
「ペロちゃんが進化! やりましたね!」

 流し目でこちらを見る様子は自信ありげ。
 頭や尻尾はトカゲの特徴を残しているが、体が獣のようになっている。色々な地域を巡ってきた中でも、こんな生物は見たこともない。

「面白い生き物になったねー。どんなことが出来るか本人に聞いてみなよ」
「そうですね」



 カオルがペロと念話をしていると、街に残してきた2人が帰ってきた。

「置いていくなんてヒドイですよ?」
「海野さんたちも着いてきてると思ったんだけどなぁ」
「そんなこと思ってないですよね!?」

 思ってないですよ?
 ミコに気を取られて声に反応しないんだから、仕方なく置いてきたんだ。

「あっ! 先生!」
「明石さん、どうしまし……。おぉ!?」

 俺のことよりもペロのほうが気になり出した。

「まさか。あのトカゲさんですか?」
「たった今、進化したようです。かっこよくなりました!」

 カオルも上機嫌で自慢する。
 見てなかった2人が、詳しく聞き出していると、だいぶん時間が経ってしまった。


「そろそろ訓練再開するよ!」

 それぞれ返事するが、気が入ってない。ペロが強化されてるのは間違いないので、今まで以上に振り回されるだろう。そのことを伝えると、やっと集中し始めた。

 くらげたちとの追いかけっこを余裕で躱せるようになったが、カオルの体が追いつかない。視点も高くなり、枝葉にバンバン当たるようになってしまった。

「ぐふ。もうちょっと慣れないと、怪我が増えますね……」
「回復します」

 明石さんの回復を受けるが、やはり不機嫌。嫌なら早く怪我しないように慣れることだな。
 回復をかける明石さんも苦笑いしている。
 海野さんもその様子は理解しているようだが、特に助言もしていなかった。

 カオルはそのまま回避の訓練をさせる。
 海野さんは良いとして、明石さんが動けない人だった。木に登れない、走るの遅い、力が弱い。回復は強力だけど、狙われたら終わりじゃないか?

「そう思ったんだけど、今までどうしてたの?」
「えっと、回復だけしてたら良いと言われ、守られてました」

 なんとも可哀想な人たちに囲まれていたようだ。さすがに逃亡している時は、自分で歩いていたようだ。それでも体力がついた位で、体を扱えていない。

「これは初歩からやらないといけませんなぁ。海野さん」
「はい!」
「明石さんに体の動かし方を教えてあげて」
「そうですね。私も来る途中でやろうかと思ったんですけど」

 長旅で疲れていたから、遠慮していたんだろう。海野さんから教えてもらった方が早く成長する。
 ピッチフォークの先を取り外し、棒を投げ渡す。

「その立派な杖を壊さないように、こっちを使ってね」

 どこかで見たような錫杖。ちょっと高そうなので、壊されてどこからか文句を言われても困るしな。

「明石さんはこっちで練習しましょう」
「あ、はい」

 森から出て、広い場所で訓練を始める。
 遠目で見送ると、カオルに新しい指示を出す。

「ちょっと行く場所があるから着いてきて」
「え? 訓練の途中じゃ?」
「着いてくるのも訓練だよ」

 くらげたちを畑に返し、天候操作を行った山へ向かう。
 それなりに離れているので、森の中を走って2時間程度かかった。ここに行きたかったというより、ここに現れた者に会いに来たと言った方が良いかな?

「うぅぅ。ペロちゃんの揺れが大きくなった」
「進化したばかりだから、まだ慣れてないんだろう」

 ペロも力が有り余っているのか、立ち止まっても小刻みに揺れている。早く次の訓練をしようと言いたげだ。

「ペロも待ってくれ。ちょっと会いたいお方がいるんだ」
「会いたい? 知り合いですか?」
「古い先輩かなぁ。出会いの早さならドラちゃんより先だね」
「王様より!? そんな長生きな人が他にも居たなんて……」

 人ではないんだよ。
 俺もまさか居るとは思ってなかったからな。

 山の中腹でしばし待っていると、木々の奥から草木を押し分ける者がやってきた。
 前から思っていたが、面白い動物だよな。その方が移動すると、草木のほうが形を変えて道を作る。
 軽やかな四足歩行で飛び出してくると、俺を見かけてひと言鳴く。

「ピェェェェ」
「どうも、お久しぶりです」

 鹿に向かって拱手する。

「まさかの鹿!?」
「バカ言うな! ただの鹿じゃなくて、師匠と一緒にいた鹿さんだぞ!」
「でも、鹿ですよね?」

 鹿なのは間違いないか。

「まぁ、そうだな。それより、紹介するぞ。」
「はい」
「こっちの子は俺が軽く教えている子です。よろしくお願いします」

 鹿が値踏みするように、ペロに乗ったカオルを見やる。鹿が近づくにつれてペロが落ち着き始め、隣に来る頃には膝を折って座っていた。

「あんなに興奮していたのに……」
「ちなみに、この鹿さんはドラちゃんと同じくらい強いからね」
「えぇ!?」

 俺から見ても、威圧感とかは全然無いんだよね。だけど、自然そのものというような恐れはある。

「ところで何しに来られたんです?」
「ぷぇぇ」

 なるほど。
 天候操作で俺の存在に気づかれたということですか。

「ぷぇぷぇー」
「どうぞどうぞ。畑を耕してるので、少しなら野菜ありますし」

 鹿さんが満足そうに頷くと、俺を持ち上げて背中に乗せた。

「カオル。鹿さんをお連れするぞ」
「話に着いていけない……」
「とにかく、家に戻るぞ」

 森の中を軽やかに駆け回る鹿さん。その後にペロが食らいつこうとするが、徐々に離されてしまう。時折立ち止まり、ペロが近づくのを待ってから、再び駆け出す。
 家に到着するまで話してみたが、ほとんどの動物は姿を変え、適応しているらしい。変わってないのは、繁殖力の強い少数の動物。それ以外だと、鹿さんのように力を持っている特殊な生物くらいだとか。
 懐かしい名前を聞いた。遠くの森で2度だけ出会ったという猩猩《しょうじょう》さん。鹿さんが遭遇した時は、保護した人と村を作っていたところ。可哀想だからと守ってあげていたそうだ。
 100年程前に、俺たちが作ったゴンにも出会ったと言う。ゴンは気づいていなかったが、一般的な鹿だと思って食料をくれた。それが懐かしい野菜で嬉しかったそうだ。

 ウチの畑はキャベツが多いからなぁ。満足してくれると良いんだけど。



 家に到着すると、さっそく寝床を探し始めた。どこで寝ても良いけど、そこまで整備はしていない。数分ウロウロと跳ね周っていたせいか、野次馬が増えてきた。

「あれって鹿ですよね?」
「このファンタジー世界に鹿ですか?」
 ブルブルブル!
 ぷるぷる!
「実さんのお知り合いだそうです」

 ザワつき始めたところで、ようやく居心地の良い場所を見つけられたみたい。

「ぷぇぇぇ!」
「あぁ、やっぱりそこですか……。一番良い場所を取られちゃったな」

 いつも夜空を見ていた屋根上を占領されてしまった。

「ぷぇぷぇ」
「どうぞどうぞ。十分堪能したのでお譲りしますよ」

 満足したのか、次の目的地を見ている。そこで浮きくらげに目が行き、ひと声「ぷぇ」と鳴くと、くらげたちを共にして畑へ行ってしまった。

「いつもながら自由な行動ですね」
「え? 実さんがそれを言うんですか?」

 カオルは勘違いをしているぞ。
 俺よりも自由な人はたくさんいるんだ。
 ん? 人じゃなかったか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる
ファンタジー
 剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...