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真菜に電話をかけた夏奈はすごく怒られていた。
『どうして私達に声もかけずに部屋を出たりしたの!? すごく心配したのよ。電話にも出ないで! 幸人さんとはどうなっているの!?』
そう、早口で聞かれ、夏奈はタジタジである。
「ごめんなさい。眠れなくて散歩に出ちゃって。私、眠れない時は家の近くをランニングする癖が有るじゃない? それでツイ、いつもの感覚で外にでちゃったの」
謝る夏奈だが、声をかけられる訳ないじゃない! とも、思う。
お姉ちゃんだって声をかけられてたら困ったと思うけど。
『無事なら良かったけど、たまたま偶然、近くに幸人さんが居て良かったわね。偶然なのか解らないけど……』
溜め息を吐く姉は、何か疑っている様子だ。
まさか、夜に私達が逢引したと思ってるの?
たしかに、たまたま偶然散歩に出掛けたら幸人さんが公園に居るなんて偶然すぎるけど。
だって襲われてたんだもん。
「本当に偶然なんだってばぁ!」
『まぁ、夏奈も良い大人なんだし私は何も言わないわよ。お母さんにも内緒にしておいてあげる。でも、幸人さんに不快な思いをさせてりしてないのよね? ちゃんと同意の上でヤッたんでしょ?』
「お姉ちゃん! 本当にそんなんじゃないの!」
なんか知らないが、めちゃくちゃ私が幸人さんを襲ったと思ってるじゃん!
ヤッたって何よ! ヤッたって!
私は、幸人さんが襲われてるところを助けたの!
だいたい、お姉ちゃんは私を何だと思ってるのよ!
『幸人さん女性が苦手だって言っていたんだけど、得意になったのかしらね。でも、あまりグイグイ行って怖がらせちゃ駄目よ?』
「違うんだってばぁ~」
もう、お姉ちゃんは私の話を聞いてくれないんだから。
でも、確かに幸人さん女性が苦手だって言ってたもんね。
気をつけなきゃ!
『亘さんがアナタの事を迎えに行ったからちゃんと戻ってくるのよ』
「うん…… え?」
亘さんて誰?
玄関で亘を出迎える幸人。
「朝早くどうしたんだ?」
キョトンとして亘を見る。
何か約束をしていただろうか。
「お前、夏奈ちゃんお持ち帰りしたんだって? やるなぁ!」
耳元で囁くと、亘はバシバシと幸人の背中を叩いた。
「違……」
いや、確かに家に持ち帰った事は確かである。
否定できない気がする。
でも言い方!
幸人は思わず顔を真っ赤にして俯いた。
「まぁ、どうせお前の事だ何もしてないだろうけど。何かあったのか?」
流石に冗談である。
この男に限って、出会ったその日に女性を家に連れ込んで何かヤるなんて出来ないだろう。
たとえナニかシたくてもだ。
そもそもコイツ、女の抱き方知ってんのか?
初体験もまだだろうしな。
流石に精通はしてるよな?
ぐらいのウブさだ。
「帰りに男に襲われて服を破られたんだが、たまたま散歩していた彼女が撃退してくれたんだ」
「は?」
顔を反らしたまま眉間にシワを寄せる幸人。
まさか、5分の距離を帰るだけでそんな事になるとは!
やっぱり俺が送るんだった!
いや、コイツも自家用車を呼べよ!
「今度から夜は一人で出歩くのは避けた方が良いだろうな。俺も気をつけるんだった。怖かったよな」
亘は幸人を抱きしめて慰める。
「ああ、まぁ、怖かったには怖かったんだが、別にそれはもう良くて……」
「いや、良くねぇだろ!!」
暴漢に襲われたと言うのに、危機感の欠片も無いような幸人に、思わず声を荒らげる亘。
亘は怒っていた。
「良くは無いが、彼女が助けてくれたからな。もう怖くない」
「俺は怖いよ……」
幸人が見知らぬ男に無理やり襲われるなんて。
恐怖と怒りで涙目になってしまう。
「それで犯人はどうしたんだ?」
「逃げて行った。何で涙目なんだ?」
「目にゴミが入ったん! で、顔は?」
「暗くて良く見えなかったんだ」
「なんだって! じゃあまだお前を狙ってこの近くを彷徨いてるかもしれねぇじゃねぇか!」
なんでそんな呑気な顔をしてられるんだ!
「警備も防犯もしっかりしているし、大丈夫だ。それに、昨日は暗がりで見つけたのが僕だったたけで、僕個人を狙った訳では無いと思う」
「そんなの解らないだろ」
幸人は呑気だが、ハッキリ言おう。
お前、女にもモテるけど、男からもモテるタイプなんだよ。
俺が側で牽制してやってる時だって有るんだからな!
なんでお前の恋人でもないのに俺がそんな事までしてやらなきゃいけないんだよ!
俺には愛する妻も娘も居るのに、影では色々言われてるんだからな!
とにかく、能天気なのも困ったのもだ。
「あの、お取り込み中申し訳ありませんけど……」
オズオズと声をかけられ、亘と幸人は視線を向ける。
「貴方が亘さんですか?」
夏奈がいつの間にか側にきていた。
「姉から聞きました。お迎えに来てくださったとか。ご迷惑をおかけしまして……」
そう、頭を下げる。
「あ、いや、幸人の住まいを聞かれたんだが、俺が来たほうが早いから」
それに、勝手に教えたら幸人に怒られそうだった。
幸人は他人を家に入れるの嫌がり、いくら忙しくても使用人を雇ったりしないぐらいなのである。
亘だって泊めてもらった事は無い。
それでも夏奈を部屋に招か入れて泊めたと言うのだから、幸人は相当夏奈に心を許しているのだろう。
友人の恋は応援したい。
しかし……
「夏奈ちゃん? もしかして、その格好で寝た?」
ワンピースがシワまみれである。
頷く夏奈に頭をおさえる亘だ。
これだから恋愛初心者は困る。
「お前なぁ、こういうときは自分の服を貸してやるんだよ!」
なんで折角の『彼シャツ』チャンス逃してんだ。
ラッキースケベチャンスだろうが!
勿体無い。
「僕の服は彼女には大きすぎるだろ」
「上だけでも渡せばワンピースみたいに着れるだろうし、寝やすくなるだろう。お前、私服で寝れるのか?」
「それもそうだ。夏奈さん、どうも気が回らず申し訳ない事をした」
頭を下げる幸人に、いえいえと、首を振る夏奈。
「羽織は脱いだので、寝にくく無かったですよ。でも、幸人さんが買ってくれた服がシワシワになっちゃいましたね」
自分のワンピースならどうなろうと構わないし、安物である。
しかし、幸人が買ってくれた服は特別な気がした。
「そんな事を言ったら僕なんて夏奈さんが選んでくれたYシャツズタボロにされましたけど……」
ハハッと、多分、笑い話をしたつもりなのだろうが、あまり笑える話じゃ無かった。
幸人はユーモアが破滅的である。
「と、取り敢えず朝食を食べましょう。亘も食べるか?」
空気を凍らせた幸人は、話をかえる事にした。
そういえば朝食を忘れていた。
「いや、俺は食って来たから。でも珈琲は貰おうかな」
「わかった。新聞でも適当に読んでてくれ」
幸人はキッチンに向かうと少しだけ味噌汁を温め直し、ご飯をチンする。
焼き魚をグリルから出して盛り付けると、テーブルに出すのたった。
それを夏奈にすすめてから亘の珈琲を淹れる。
「すごく美味しいです。幸人さんて料理も上手なんですね」
頂きますと、手を合わせてから食事に手を付けた夏奈。
味噌汁の味付けも、魚の焼き加減も丁度いい。
それに多分、サラダのドレッシングも手作りである。
「有難うございます。お口に合って良かった」
フフっと微笑む幸人。
そういえば、今朝は髪型もセットしていないし、とてもラフな格好をしている。
カッチリキメた昨日の幸人と違って、若々しく見えた。
それに、何かちょっと可愛い。
こっちの方が良いなぁと思う夏奈だった。
『どうして私達に声もかけずに部屋を出たりしたの!? すごく心配したのよ。電話にも出ないで! 幸人さんとはどうなっているの!?』
そう、早口で聞かれ、夏奈はタジタジである。
「ごめんなさい。眠れなくて散歩に出ちゃって。私、眠れない時は家の近くをランニングする癖が有るじゃない? それでツイ、いつもの感覚で外にでちゃったの」
謝る夏奈だが、声をかけられる訳ないじゃない! とも、思う。
お姉ちゃんだって声をかけられてたら困ったと思うけど。
『無事なら良かったけど、たまたま偶然、近くに幸人さんが居て良かったわね。偶然なのか解らないけど……』
溜め息を吐く姉は、何か疑っている様子だ。
まさか、夜に私達が逢引したと思ってるの?
たしかに、たまたま偶然散歩に出掛けたら幸人さんが公園に居るなんて偶然すぎるけど。
だって襲われてたんだもん。
「本当に偶然なんだってばぁ!」
『まぁ、夏奈も良い大人なんだし私は何も言わないわよ。お母さんにも内緒にしておいてあげる。でも、幸人さんに不快な思いをさせてりしてないのよね? ちゃんと同意の上でヤッたんでしょ?』
「お姉ちゃん! 本当にそんなんじゃないの!」
なんか知らないが、めちゃくちゃ私が幸人さんを襲ったと思ってるじゃん!
ヤッたって何よ! ヤッたって!
私は、幸人さんが襲われてるところを助けたの!
だいたい、お姉ちゃんは私を何だと思ってるのよ!
『幸人さん女性が苦手だって言っていたんだけど、得意になったのかしらね。でも、あまりグイグイ行って怖がらせちゃ駄目よ?』
「違うんだってばぁ~」
もう、お姉ちゃんは私の話を聞いてくれないんだから。
でも、確かに幸人さん女性が苦手だって言ってたもんね。
気をつけなきゃ!
『亘さんがアナタの事を迎えに行ったからちゃんと戻ってくるのよ』
「うん…… え?」
亘さんて誰?
玄関で亘を出迎える幸人。
「朝早くどうしたんだ?」
キョトンとして亘を見る。
何か約束をしていただろうか。
「お前、夏奈ちゃんお持ち帰りしたんだって? やるなぁ!」
耳元で囁くと、亘はバシバシと幸人の背中を叩いた。
「違……」
いや、確かに家に持ち帰った事は確かである。
否定できない気がする。
でも言い方!
幸人は思わず顔を真っ赤にして俯いた。
「まぁ、どうせお前の事だ何もしてないだろうけど。何かあったのか?」
流石に冗談である。
この男に限って、出会ったその日に女性を家に連れ込んで何かヤるなんて出来ないだろう。
たとえナニかシたくてもだ。
そもそもコイツ、女の抱き方知ってんのか?
初体験もまだだろうしな。
流石に精通はしてるよな?
ぐらいのウブさだ。
「帰りに男に襲われて服を破られたんだが、たまたま散歩していた彼女が撃退してくれたんだ」
「は?」
顔を反らしたまま眉間にシワを寄せる幸人。
まさか、5分の距離を帰るだけでそんな事になるとは!
やっぱり俺が送るんだった!
いや、コイツも自家用車を呼べよ!
「今度から夜は一人で出歩くのは避けた方が良いだろうな。俺も気をつけるんだった。怖かったよな」
亘は幸人を抱きしめて慰める。
「ああ、まぁ、怖かったには怖かったんだが、別にそれはもう良くて……」
「いや、良くねぇだろ!!」
暴漢に襲われたと言うのに、危機感の欠片も無いような幸人に、思わず声を荒らげる亘。
亘は怒っていた。
「良くは無いが、彼女が助けてくれたからな。もう怖くない」
「俺は怖いよ……」
幸人が見知らぬ男に無理やり襲われるなんて。
恐怖と怒りで涙目になってしまう。
「それで犯人はどうしたんだ?」
「逃げて行った。何で涙目なんだ?」
「目にゴミが入ったん! で、顔は?」
「暗くて良く見えなかったんだ」
「なんだって! じゃあまだお前を狙ってこの近くを彷徨いてるかもしれねぇじゃねぇか!」
なんでそんな呑気な顔をしてられるんだ!
「警備も防犯もしっかりしているし、大丈夫だ。それに、昨日は暗がりで見つけたのが僕だったたけで、僕個人を狙った訳では無いと思う」
「そんなの解らないだろ」
幸人は呑気だが、ハッキリ言おう。
お前、女にもモテるけど、男からもモテるタイプなんだよ。
俺が側で牽制してやってる時だって有るんだからな!
なんでお前の恋人でもないのに俺がそんな事までしてやらなきゃいけないんだよ!
俺には愛する妻も娘も居るのに、影では色々言われてるんだからな!
とにかく、能天気なのも困ったのもだ。
「あの、お取り込み中申し訳ありませんけど……」
オズオズと声をかけられ、亘と幸人は視線を向ける。
「貴方が亘さんですか?」
夏奈がいつの間にか側にきていた。
「姉から聞きました。お迎えに来てくださったとか。ご迷惑をおかけしまして……」
そう、頭を下げる。
「あ、いや、幸人の住まいを聞かれたんだが、俺が来たほうが早いから」
それに、勝手に教えたら幸人に怒られそうだった。
幸人は他人を家に入れるの嫌がり、いくら忙しくても使用人を雇ったりしないぐらいなのである。
亘だって泊めてもらった事は無い。
それでも夏奈を部屋に招か入れて泊めたと言うのだから、幸人は相当夏奈に心を許しているのだろう。
友人の恋は応援したい。
しかし……
「夏奈ちゃん? もしかして、その格好で寝た?」
ワンピースがシワまみれである。
頷く夏奈に頭をおさえる亘だ。
これだから恋愛初心者は困る。
「お前なぁ、こういうときは自分の服を貸してやるんだよ!」
なんで折角の『彼シャツ』チャンス逃してんだ。
ラッキースケベチャンスだろうが!
勿体無い。
「僕の服は彼女には大きすぎるだろ」
「上だけでも渡せばワンピースみたいに着れるだろうし、寝やすくなるだろう。お前、私服で寝れるのか?」
「それもそうだ。夏奈さん、どうも気が回らず申し訳ない事をした」
頭を下げる幸人に、いえいえと、首を振る夏奈。
「羽織は脱いだので、寝にくく無かったですよ。でも、幸人さんが買ってくれた服がシワシワになっちゃいましたね」
自分のワンピースならどうなろうと構わないし、安物である。
しかし、幸人が買ってくれた服は特別な気がした。
「そんな事を言ったら僕なんて夏奈さんが選んでくれたYシャツズタボロにされましたけど……」
ハハッと、多分、笑い話をしたつもりなのだろうが、あまり笑える話じゃ無かった。
幸人はユーモアが破滅的である。
「と、取り敢えず朝食を食べましょう。亘も食べるか?」
空気を凍らせた幸人は、話をかえる事にした。
そういえば朝食を忘れていた。
「いや、俺は食って来たから。でも珈琲は貰おうかな」
「わかった。新聞でも適当に読んでてくれ」
幸人はキッチンに向かうと少しだけ味噌汁を温め直し、ご飯をチンする。
焼き魚をグリルから出して盛り付けると、テーブルに出すのたった。
それを夏奈にすすめてから亘の珈琲を淹れる。
「すごく美味しいです。幸人さんて料理も上手なんですね」
頂きますと、手を合わせてから食事に手を付けた夏奈。
味噌汁の味付けも、魚の焼き加減も丁度いい。
それに多分、サラダのドレッシングも手作りである。
「有難うございます。お口に合って良かった」
フフっと微笑む幸人。
そういえば、今朝は髪型もセットしていないし、とてもラフな格好をしている。
カッチリキメた昨日の幸人と違って、若々しく見えた。
それに、何かちょっと可愛い。
こっちの方が良いなぁと思う夏奈だった。
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