『女騎士アルトリアの受難〜主君の初夜に立ち会わされた夜、宿敵の騎士に処女を捧ぐことになりました〜』

甘塩ます☆

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7話

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 数日後。
 国境を跨ぐ大きな橋の上に、数台の馬車と騎士団の列があった。
 アルトリアは慣れ親しんだ自国の騎士服を脱ぎ、ジークフリートが用意させた、機能美と気品を兼ね備えた黒銀の軽装鎧に身を包んでいる。

「……本当に、いいのか。私のような無愛想な女を連れ帰って。貴公の国には、もっと若くて可憐な令嬢がいくらでもいるだろう」

 馬に跨り、隣を歩むジークフリートにアルトリアは問いかけた。自由を手に入れたとはいえ、長年刷り込まれた自己評価は、そう簡単には拭い去れない。

「まだそんなことを言っているんですか」

 ジークフリートは馬を寄せると、アルトリアの手綱を握る手を上から重ねた。

「貴女のその凛とした立ち振る舞い、戦場で向けられた鋭い眼差し。……それこそが俺の心を奪ったんです。俺の国では、貴女は『宿敵の英雄を射止めた女神』として歓迎される予定ですよ」

「女神……っ、よせ。柄にもない」

 アルトリアが頬を赤らめて顔を背けると、後ろの馬車から賑やかな声が響いた。

「いいじゃない、アルトリア! 照れてる顔も素敵よ」

 馬車の窓から身を乗り出しているのは、ルイス王子と睦まじく寄り添うリリー姫だ。
 リリーはアルトリアが最も案じていた「民の安全」のために、惜しみない尽力を注いでくれた。自ら父王へ進言し、侯爵家の実質的な運営者がアルトリア一人であったこと、そして夫のエドワードが愛人を囲い散財に耽る無能であることを暴いてくれたのだ。
 精緻に記された帳簿の筆跡や、アルトリアを慕う民たちの証言は決定打となった。エドワードは侯爵の座を追われて平民へと身分を落とし、後釜には国王が信頼を寄せる優秀な人物が据えられた。アルトリア自身もその人物と面会し、信頼に足る者だと確信した上で、滞りなく引き継ぎを済ませることができたのだ。

「リリー様……。ご恩は一生忘れません」

「ふふ、お礼ならジークフリート様をたっぷり愛してあげることで返してね」

 リリーの茶化すような言葉に、ジークフリートが満足げに頷く。

「聞き入れられましたか、アルトリア。……それと、一つ言っておきますが、俺が肩代わりした貴女の実家の負債、決して安くはありませんよ」

 ジークフリートが真剣な、それでいてどこか楽しげな表情で彼女を見つめる。

「一生をかけて、傍で返していただきます」

 その言葉は、もはや契約でも命令でもなかった。
 アルトリアは、初めて自分のために、柔らかく微笑んだ。

「……ああ。貴公が後悔するほど、長く、しつこく、隣にいてやろう」

 国境の橋を越えた先には、見たこともないほど澄み渡った青空が広がっていた。
 かつて帳簿とにらめっこし、愛のない寝室で絶望していた女騎士は、もうどこにもいない。
 彼女の手に残っているのは、重い責任の鎖ではなく、自分を心から必要としてくれる男の、温かくて大きな手の感触だった。
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