可愛げがないと疎まれた侯爵夫人は、隣国の王子に略奪され、溺愛される

甘塩ます☆

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 波の音が穏やかな調べに変わり、窓から差し込む眩い朝日がメアリアのまぶたを叩いた。
 ふかふかのベッドの上、昨夜の情事の余韻が残る身体を震わせながら目を開けると、そこには既に身支度を整えたエドワードが立っていた。

「目が覚めたか、リア。間もなく入港だ」

 エドワードはベッドの端に腰を下ろすと、小さな革の箱を取り出した。中に入っていたのは、細工の美しい金色の首輪(チョーカー)だった。

「……それは?」

「帝国の加護の印だ。そして、お前が俺の所有物であるという証でもある。何人たりとも、お前に指一本触れることは許さない」

 エドワードの大きな手がメアリアの細い首に回され、カチリと小さな音が鳴る。ひんやりとした金属の感触に、メアリアは自分が「囚われの身」であることを再確認して身を竦めた。
 だが、その後の彼の行動は、彼女の予想を大きく裏切るものだった。
 甲板に出るなり、エドワードはメアリアを軽々と横抱きにした。

「あ……っ、殿下? 自分で歩けます……っ」

「大人しくしていろ。船の揺れはお前が思うより危険だ。万が一海にでも落ちたら大変だろう。リア、船酔いはしていないか?」

「ええ……」

 エドワードはメアリアに自身のマントを深く被せ、そのまま堂々とした足取りでタラップを降りる。
 港には、皇子の帰還を待ちわびた大勢の民衆が詰めかけていた。メアリアは戦利品として冷ややかな視線を浴びることを覚悟したが、聞こえてきたのは割れんばかりの歓声だった。

「お帰りなさい、殿下! ……っておおっ!?」
「見ろ! 殿下が女性を抱いていらっしゃるぞ!」
「所有物の証であるチョーカーをつけさせている! 間違いないな」
「まさか、あの殿下が女性を攫って来るとは……太陽が西から昇るより驚きだぜ!」
「ああ、なんてことだ! 女っ気ゼロで一生独身かと思っていたのに、これで我が帝国も安泰だ!」

 口々に叫び、拍手喝采で涙を流して喜ぶ人々。メアリアはマントの隙間から、困惑の眼差しを外へ向けた。

(……よくあることじゃ、ないの?)

 船内でのあの手慣れた愛撫。傲慢で、女の扱いを熟知しているかのような振る舞い。てっきり、数多の女性を戦利品として持ち帰っている遊び人だと思っていたのに。 

「静かにしろ! 俺のルナが驚いているだろう!」 

 あまりに騒ぐ群衆に一喝したエドワードだったが、その耳の付け根が少し赤いのをメアリアは見逃さなかった。

(もしかして、群衆の囃し立てに照れているのかしら?)

「おい、聞いたか! 帝国の『太陽』が、俺の『月(ルナ)』と宣言されたぞ!!」

 おおおおお!! と、群衆はさらに盛り上がる。

「リア、すまない。この国の連中は何かと騒がしいのだ」

 エドワードは少し申し訳なさそうな顔をしながら、メアリアを馬車に乗せた。
 揺られる間も「馬車の揺れは大丈夫か?」「疲れたなら寝ていろ」「腹は空いたか? 朝食は食べられそうか?」と、彼はやたらと心配してくれた。
 そのあまりの過保護ぶりに、メアリアは思わずフフっと笑みを零してしまった。

(夜はあんなに情熱的なのに、昼間はこれほどまでに紳士だなんて)



 到着したエドワード邸は、まるでお城のような立派な御殿であった。
 その建物の立派さにも驚いたが、メアリアの驚きは止まらなかった。
 出迎えた執事や侍女たちは、主人が女性を抱きかかえて帰宅した姿を見て、持っていた銀盆を落とさんばかりに目を見開いた。

「で、殿下! そ、そそそ、そのお方は……!?」

「俺のルナだ。丁重にもてなせ。身体が冷え切っている、すぐに風呂と食事の用意を。それから、リアに似合う最高級のドレスをありったけ揃えろ」

「は、はいっ! 喜んで!」

 邸宅中が、まるで祭りのような熱狂に包まれる。
 侍女たちはメアリアを「救世主」でも見るような温かな瞳で見つめ、甲斐甲斐しく世話を焼き始めた。
 侯爵家で「可愛げがない」と疎まれ、最後には魔女として迫害されかけたあの場所とは、あまりにも違う熱烈な歓迎ムードだ。


 メアリアは落ち着かないまま、広い浴槽で身体を温められていた。
 首に巻かれた金色の輝きを指でなぞる。
 見た目は物々しいが着け心地は軽く、苦痛はない。

(あの方は……)

 手慣れた様子で自分を翻弄した「夜の顔」と、国中から堅物と信じられている「表の顔」。
 どちらが本当の彼なのか分からないまま、メアリアの帝国での新しい生活が幕を開けた。
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