可愛げがないと疎まれた侯爵夫人は、隣国の王子に略奪され、溺愛される

甘塩ます☆

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 小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む柔らかな陽光が、メアリアの意識をゆっくりと浮上させた。
 目を開けると、すぐ目の前に整った顔立ちがあった。エドワードが、眠るメアリアをじっと見守っていたのだ。その表情はどこか心配そうで、今にも泣き出しそうなほど切実に歪んでいる。

「……よかった、目が覚めたな。リア、気分はどうだ?」

 その声は、昨夜の激情が嘘のように穏やかで、けれどどこか切羽詰まった響きを含んでいた。メアリアが答えようとしてわずかに身を動かした瞬間、首筋にツンとした痺れが走る。

「あ……」

「動くな! まだ貧血がひどいはずだ。やはり、吸いすぎたか……。俺としたことが、お前の甘さに理性を失うなど……」

 エドワードは青い顔をして、メアリアを抱き上げるように枕を整え、手早く背中にクッションを差し込んだ。その手つきは驚くほど慎重で、まるで壊れやすい硝子細工を扱っているかのようだ。

「エドワード様、大丈夫ですわ。少し身体がふわふわするだけで、かえって心地よいくらい……」

「心地よいわけがあるか。血を失ったのだぞ。待っていろ、今すぐに栄養剤と特製のスープを持ってこさせる」

 エドワードが呼び鈴を鳴らすと、待ち構えていたかのように侍女たちがなだれ込んできた。彼女たちはベッドに寄り添うエドワードと、その腕の中にいるメアリアの姿を見て、一瞬で状況を察した。

「まあ! メアリア様、よくお眠りになれましたか?」

「……ええ、おかげさまで」

 メアリアが恥ずかしそうに微笑むと、侍女の一人が、彼女のうなじに残った鮮やかな「痕」を見つけ、歓喜の声を上げた。

「まあ! 殿下がこれほどはっきりと『印』を残されるなんて! 私たち、もうすぐお祝いの準備を始めなければなりませんわね!」

「し、静かにしろ! リアが恥ずかしがっているだろう!」

 エドワードが顔を真っ赤にして一喝するが、侍女たちは「はいはい」と笑いながら、手際よく贅沢な朝食を整えていく。

「さあ、食え。俺が食べさせてやる」

「エドワード様、さすがに皆様の前では恥ずかしいです……」

「ダメだ。お前は俺の血肉となったのだ。お前の身体を維持するのは俺の義務だ」

 頑固なエドワードに押し切られ、一口ずつスープを運んでもらう。かつて冷めきった食事を一人で摂っていた時とは違う。耳まで赤くして世話を焼いてくれる愛しい人が、すぐそばにいる。

(……ああ、本当に夢ではなかったのね)

 メアリアはエドワードの海のような瞳を見つめ返し、そっと彼の手の甲に自分の手を重ねた。

「エドワード様。……私、今、とっても怒っています」

「怒ってるのか!? ……すまん。自制の効かない俺を殴れ。『血肉になる』は言い過ぎた……嫌だったか?」

 穏やかな微笑みから一変、凛とした声で宣言するメアリアに、エドワードは狼狽してその手を握りしめる。しかし、メアリアはムッとした表情のまま彼を射抜いた。

「それは良いのですけれど……迎えに来るのが遅すぎます。もっと、早く来てください」

「……っ、リア。お前……覚えているのか?」

「ごめんなさい、忘れてしまっていて。でも、貴方の瞳を見て思い出しました。……また、私の手作りクッキーを食べてくれますか?」

「――! 勿論だ。何度でも、死ぬまで食べ続けてやる」

 エドワードは感極まったように彼女を抱き寄せ、メアリアもフフっと笑ってその広い肩に寄り添った。

「エドワード様。私、今、とても幸せよ」

「……いや、まだ足りない。お前を魔女と呼び、傷つけた連中が後悔して地獄に落ちるまで、俺はお前を甘やかし続けるつもりだ」

 エドワードは不器用な言葉で答えながら、彼女の指先に愛おしそうに口づけを落とした。
 その瞳には、昨夜の飢えた獣の面影はなく、ただただ最愛の女性を見守る、一途な光が宿っていた。
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