可愛げがないと疎まれた侯爵夫人は、隣国の王子に略奪され、溺愛される

甘塩ます☆

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 メアリアの母国である絶海の孤島、小国では、いまだメアリアの捜索と、彼女を貶めた侯爵への断罪が続いていた。

「メアリアは、まだ見つからないのか……!」

 娘の死の報を聞き、メアリアの父である先王は病床に臥せってしまった。現在は兄が王位を継ぎ、必死に海を捜索させているが、メアリアの遺体は一向に上がらない。

「メアリアは魔女に取り憑かれていたのです! 遺体が上がらないことこそ、呪われていた証拠……」

「黙れ! あの日は嵐の直後、しかも夜だ。遺体が上がらぬことなど道理だろうが」

 必死に食い下がる侯爵を、兄王が冷たく一蹴する。

「ですが、メアリアの胸元には不吉な痣が……」

「あれは生まれつきだ! 我ら一族に伝わる神聖な痣を、よくも不吉などと言えたものだな」

「彼女は魔女になってから性格が変わり、乱暴で贅沢三昧、夫である私を顧みず遊び呆けて……っ」

「それは、お前と、そこにいる女のことだろうが!」

 兄王の怒声が響き渡る。尋問を受ける侯爵は、あまりの気迫に言葉を失った。

「メアリアが魔女なら、お前は悪魔だ。お前のような恥知らずに侯爵家は任せられぬ。爵位を剥奪の上、島流しに処す」

「陛下、どうかご慈悲を!」

「死刑にせぬだけ慈悲だと思え」

 兄王の下した裁きにより、侯爵はただの平民となり、島流しが決定した。不倫相手であった現在の妻も、同じく処罰の対象だ。

「二人仲良く、海の向こうでメアリアに許しを乞うがいい」

 兄王が厳しく断じると、それまで寄り添っていた二人が突如として罵り合いを始めた。

「私は関係ないじゃない! この人が勝手に誘ったのよ!」
「なんだと、お前も乗り気だっただろうが! 俺との子供ができたと言ったあの嘘は何だったんだ!」
「うるさいわね、この馬鹿男!」
「なんだと、この売女が!!」

 醜い言い争いを繰り広げる二人を見て、兄王は頭を抱えた。

(……メアリア。せめてお前の亡骸だけでも見つけ出したい)

 彼は痛む胸を抑え、海の捜索をさらに急がせた。

「陛下。当日は帝国の王子、エドワード殿下が会談のために立ち寄っておりました。夜会での目撃情報もあり、彼は夜のうちに逃げるように帰国しております。どうにも怪しい動きです」

「エドワード王子……。あの男、昔からずっとメアリアを欲しがっていたな。もしや、あの野蛮な国へ連れ去られたというのか。だとしたら身の毛もよだつ。すぐに調べ、連れ戻さねば!」

 側近からの報告に兄王は拳を握りしめる。

 そして数日後。

 調査を進めていた側近が、血相を変えて兄王の元へ駆け込んだ。

「陛下! 目撃者が見つかりました。嵐の夜、帝国の軍艦が停泊していた地点で、エドワード王子が布に包まれた『何か』を抱きかかえ、乗船する姿を見た者がおります!」

「……やはり、あいつが連れ去ったのか!」

 兄王の顔に焦燥が走る。エドワード王子は、かつて何度もメアリアへの求婚を送り、その都度「野蛮な吸血族に、清らかな愛娘は渡せぬ」と父王が撥ね退けてきた男だった。

「すぐに親書を送れ! 『我が国の王女を不当に連れ去ったのであれば、これは宣戦布告とみなす。直ちにメアリアを返還せよ』とな!」

 兄王は声を張り上げる。ただ心の底から愛する妹を心配しての事だった。




 その頃、帝国のエドワード邸。

 午後の陽光が差し込む庭園で、メアリアはエドワードに手を取られ、穏やかな散歩を楽しんでいた。彼女の首元には、昨夜の「印」を隠すように、金色のチョーカーが輝いている。

「少し、歩きすぎたか? 身体に障るようなら、すぐに部屋へ戻るが」

「ふふ、大丈夫ですわ。エドワード様がこうして支えてくださっていますもの」

 エドワードの過保護ぶりにメアリアは微笑む。その温もりに、この上ない安らぎを感じていた。
 そこへ、側近が苦虫を噛み潰したような顔で現れた。

「……殿下、例の小国から親書が届きました。メアリア様を『不当に連れ去った誘拐犯』呼ばわりした上、返還せねば戦争も辞さないと鼻息が荒いようです」

 その言葉に、メアリアの身体がピクリと強張った。エドワードは彼女の肩を抱き寄せ、凍てつくような声で告げた。

「不当、だと? 面白い。公の場で裸にし、辱めようとした上に魔女として処刑しようとした癖によく言えたものだ」

 彼は差し出された親書を手に取ると、一瞥もせずに指先から紫の炎を発し、その場で焼き捨てた。

「返信はこうだ。『メアリアという王女は、あの嵐の夜に死んだ。ここにいるのは、我が血を分け与えた帝国の未来の王妃だ。返してほしければ、全軍を引き連れてくるがいい。返り討ちにして、あの島ごと海の藻屑にしてやろう』とな」

「エドワード様……」

 メアリアが不安げに彼を見上げると、エドワードはその瞳を優しく覗き込んだ。

「安心しろ、リア。お前を捨て、傷つけた場所になど二度と帰しはしない。お前の兄が本当に賢明なら、お前を『死んだもの』として扱うはずだ。それが、あの国が生き残る唯一の道だと分からせてやる」

 彼はメアリアの額に口づけを落とし、確かな意志を込めて囁いた。

「お前はもう、俺だけのだリア」

 その言葉に、メアリアは静かに目を閉じ、彼の胸に顔を埋めた。遠い故郷の喧騒よりも、今はただ、自分を「愛しい女」として求めてくれるこの腕の中にいたい。
 メアリアの中で、過去との決別が、静かに、けれど確固たるものとして刻まれた瞬間だった。
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