可愛げがないと疎まれた侯爵夫人は、隣国の王子に略奪され、溺愛される

甘塩ます☆

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 翌朝、メアリアは目を覚ますと、隣で安らかな寝息を立てるエドワードに気づいた。
 思えば、彼の安眠する顔を見るのはこれが初めてだ。普段の精悍な表情とは違い、寝顔はどこか幼く見える。金のまつ毛は驚くほど長く、指先でそっと触れたくなったが、深い眠りを妨げるのは忍びなかった。
 メアリアは彼の腕をそっと退かすと、ベッドから抜け出した。脱ぎ捨てられていた上着を羽織り、物音を立てないよう静かに寝室を出る。


「奥様、そのような格好でどうなされましたか!?」

 廊下を掃除していた侍女が、驚愕の声を上げた。無理もない。メアリアは乱れた髪に、昨夜の情熱を物語る装いで歩いていたのだから。

「エドワード様に朝食を作って差し上げたくて……」

「奥様、いけません! せめて金の首輪(チョーカー)をなさらないと。……いえ、それ以前にこのようなお姿で歩いていることを殿下が知られたら……!」

 侍女が狼狽して右往左往し始めた、その時だった。

「リア!! 俺のリアはどこだ!! リア――っ!!!」

 凄まじい叫び声と共に、寝室からエドワードが飛び出してきた。ほとんど肌を晒したような、なりふり構わぬ姿。

「エドワード様!」

「……っ、なぜだ、なぜ俺から逃げる!? やはり、昨夜の俺が嫌になったのか!」

 エドワードはメアリアを見つけるなり、その腕を掴んで強引に抱き寄せた。その腕は微かに震えており、彼の恐怖が伝わってくる。

「お前が逃げたいと言っても、決して逃しはしない。そう言っただろう」 

「私、逃げようだなんて……。ごめんなさい、驚かせてしまって。ただ、貴方のための朝食を作りたかっただけなのです」 

 メアリアが宥めるように囁くと、エドワードは彼女の首筋にすぐさま金の首輪を嵌め直し、深く溜息を吐いた。 

「朝食、か。……嬉しいが、分かった。しばらく俺の別荘へ行こう。こんな姿、誰にも見せたくない。そこなら、お前がどんな格好で料理をしようと、俺の勝手だからな」

 その言葉に、メアリアはようやく自分がどれほど無防備な格好をしていたか、そして彼が何を想像したかに気づき、顔を真っ赤にした。

「……ピクニックに行かないか? 昼のお弁当を、二人で食べるんだ」

「本当ですか? 楽しみですわ」

「よし、部屋に戻ろう。……俺に黙って勝手に部屋を出た『罰』の続きを、与えなければならないからな」 

 エドワードはメアリアを軽々と抱き上げると、その額に慈しむようなキスを落とし、再び寝室の奥へと消えていった。



「さあ、リア。足を出せ」
 
 寝室に戻ると、エドワードはメアリアを椅子に座らせ、そのふくらはぎを軽く叩いた。

「エドワード様……恥ずかしいです。それに、汚いですわ」

「お前に汚い所などない。それに俺は吸血族だ。多少の雑菌など恐るるに足りん」

 エドワードは差し出された白い足にニヤリと笑みを浮かべ、あろうことかその肌に舌を滑らせた。指の間まで丁寧に、愛おしむように。

「エドワード様、くすぐったいです……っ」

 足の裏をなぞられ、メアリアはくすぐったさと羞恥心から身を捩った。

「俺の傍を勝手に離れるな。分かったか?」

「……分かりました。ですから、もうお許しください」

 部屋は陽の光で明るく、キラキラと輝くエドワードのプラチナブロンドと海のような青い瞳、そして健康的な褐色の肌が鮮明に見えている。その美しい人が、自分の足を跪いて愛撫しているという生々しい光景に、メアリアは激しい羞恥と同時に、抗いがたい熱を覚えた。

「続きは、また夜か?」

「……はい」

「夜まで、待てるのか?」

 エドワードは、欲情に染まったメアリアの顔を、獲物を見定める猛獣のような瞳で射抜く。

「……ピクニックに、行くのでしょう?」

 メアリアが顔を真っ赤にしつつも、約束を持ち出して彼を窘める。

「ふっ……分かった。ピクニックだな」

 エドワードも満足げに笑ってメアリアを解放した。




 二人が再び部屋を出る頃には侍女達が「お祝い」を完璧に整えていた。
 廊下には最高級の薔薇の花びらが敷き詰められ、邸中の使用人が整列して二人を迎える。

「メアリア様、エドワード殿下、おめでとうございます!」

 あまりに熱烈なお祝いにメアリアは驚く。既に「初夜は迎えた」と勘違いされていたので、昨日もお祝いされたばかりなのだ。

(もしかして、事を終えるたびに祝われる仕組みなのかしら……?)

「……リア、すまんな。国民柄、お祝い事が好きなのだ。しかし、これほど祝われると、やはり外に出したくなくなるな。いっそ部屋に戻って続きをするのはどうだ?」

「エドワード様、もう……。お約束しましたでしょう」

 メアリアは彼の極端な提案に苦笑しつつも、ピクニックに行きたい意志を伝えた。エドワードは名残惜しそうな表情を見せたものの、再びメアリアを横抱きにすると、彼女を離さないと言わんばかりの強さで食堂へと向かった。
 後に残された侍女は思った。朝からこれほど熱いのなら、夕食にはもっと精のつくものを準備しなければならない、と。
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