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膝の上での甘い朝食を終えた後、メアリアはエドワードを伴って厨房へ向かった。
彼の「誰にも見せたくない」という独占欲により、厨房は完全な貸し切り状態。広々とした調理場には、二人分の足音と、エドワードの熱い視線だけが満ちている。
「……エドワード様、これではお料理ができませんわ」
メアリアが困ったように声を出すのも無理はない。エドワードは彼女の真後ろにぴったりと張り付き、腰に腕を回して首筋に鼻先を寄せていたからだ。
「俺にはお前の香りが一番のスパイスだ。……ここからなら、お前が何を作るのか一番よく見える」
「集中させてください。火を使うのは危ないですから、大人しく待っていてくださいね」
メアリアはくるりと振り返り、腰に手を当てて少しムッとした表情を作ってみせた。もちろん本気で怒っているわけではない。けれど、彼に美味しいものを食べさせたいという「料理人の矜持」が、少しだけ彼を遠ざける。
エドワードは「ちぇっ」と子供のように唇を尖らせ、渋々数歩下がると、調理台に寄りかかってメアリアの背中を食い入るように見守った。
トントントン、と軽快な包丁の音が響き始める。
メアリアが作ったのは、昨夜の彼の「力がみなぎるものを」というリクエストに応えた厚切りのローストビーフ。そして、それを贅沢に挟み込んだ彩り豊かなサンドイッチだ。
「……いい匂いだ。待ちきれないな。今すぐここで食べたい」
「お昼まで我慢してください。外で食べるから美味しいのですよ」
メアリアはふふっと笑いながら、焼き立てのクッキーと一緒にバスケットへ手際よく詰め込んだ。
二人は馬車に揺られ、少し離れた場所にあるエドワードの別邸へと向かった。
そこは高い石壁に囲まれ、外部の視線を一切遮断した「秘密の庭園」。一歩足を踏み入れれば、色とりどりの花々が咲き乱れ、まるで楽園のような静寂が広がっていた。
「まぁ、なんて素敵な場所……!」
メアリアが感激に瞳を輝かせると、エドワードは満足げに目を細めた。
芝生の上に敷物を広げると、エドワードは当然のようにメアリアを引き寄せ、自分の股の間に座らせる。
「さあ、あーんしろ、リア」
「エドワード様、自分で食べられますわ」
「いいから。俺がお前に食べさせ、お前が俺に食べさせるんだ。ほら」
差し出されたサンドイッチを頬張ると、肉の旨味とパンの甘みが口いっぱいに広がる。エドワードはメアリアの手を引いて自分にも食べさせると、至福の表情で喉を鳴らした。
「……美味い。リア、お前の料理にはやはり不思議な力があるな。血を吸わなくても、お前と一緒にいるだけで、身体の芯から力が湧いてくるようだ」
エドワードはメアリアの指先に付いたパン屑を、吸い付くように唇で拭った。その仕草の艶めかしさと、見つめるブルーの瞳の熱さに、メアリアは昨夜の濃厚な情熱を思い出して心臓が跳ねた。
「エド様……。私、ずっとこうしていたいです。あの島での辛いこと、全部忘れてしまいそう……」
「忘れていい。お前の過去は俺がすべて貰い受ける。これからは、俺とお前の未来だけがあればいい。……ここなら、誰にも邪魔されないからな」
エドワードがメアリアを芝生の上へ押し倒し、青空の下で深い口づけを交わそうとした、その時――。
「――殿下! 大変です!!」
側近の切迫した絶叫が、美しく整えられた庭園の空気を切り裂いた。
「沿岸監視塔より緊急報告! メアリア様の母国の艦隊が、帝国の領海ギリギリまで迫っています! 先頭の船の甲板には、間違いなく……小国の現国王、メアリア様の兄上の姿が!」
「……ちっ。しつこい義兄上だな」
エドワードの表情から一瞬で甘さが消え、吸血族特有の鋭く、凍りつくような冷徹さが宿った。
一方、メアリアはバスケットを抱えたまま、かつての故郷がある海の方角を、呆れたように見つめていた。
「もう……お兄様ったら、本当にせっかちなんだから……」
せめて「私は無事です」と手紙を認めて、少し落ち着かせてから……と思っていたのに、まさか昨日の今日で、大艦隊を引き連れて殴り込みに来るなんて。
とはいえ、兄の立場になれば無理もないことだ。魔女扱いされ、辱めを受け、海に身を投げたと思っていた最愛の妹が生きていた。しかも、それを強大な帝国の吸血鬼に「攫われた」と思っているのだ。
ひとえに自分への愛ゆえの暴走。そう思うと、一方的に責めるわけにもいかなかった。
「エドワード様。兄は私を想って行動してくれたのです、どうか責めないでくださいませ。……私に話をさせてください、お願いします」
メアリアはエドワードの大きな手を握り、真っ直ぐに彼を見つめて頭を下げた。
「分かっている。お前の兄は、いきなり攻め入るような真似はせず、領海付近で停泊してこちらの出方を伺っている。決して無能ではないさ。……だが、交渉には俺が行く。お前はここで待っていろ」
「いいえ、私も連れて行ってください!」
「駄目だ、危険すぎる。帝国を敵視している艦隊の前に、お前を晒すわけにはいかない」
「絶対について行きます! 私の過去の決着を、貴方の背中に隠れたまま終わらせたくありません。それに兄には私が話した方が早いです」
「リア!!」
普段は淑やかなメアリアの、譲らない決然とした瞳。それに圧されたのはエドワードの方だった。伝令が焦れったそうに急かす中、エドワードは忌々しげに舌打ちをすると、彼女の腰を抱き寄せた。
「……分かった。だが、絶対に俺の側を離れるな。少しでも危ないと思ったら、強引にでも連れ戻すからな」
「はい。ありがとうございます、エドワード様」
二人は火花を散らすような視線を交わしながらも、一つの意志となって、迎えの馬車へと飛び込んだ。
彼の「誰にも見せたくない」という独占欲により、厨房は完全な貸し切り状態。広々とした調理場には、二人分の足音と、エドワードの熱い視線だけが満ちている。
「……エドワード様、これではお料理ができませんわ」
メアリアが困ったように声を出すのも無理はない。エドワードは彼女の真後ろにぴったりと張り付き、腰に腕を回して首筋に鼻先を寄せていたからだ。
「俺にはお前の香りが一番のスパイスだ。……ここからなら、お前が何を作るのか一番よく見える」
「集中させてください。火を使うのは危ないですから、大人しく待っていてくださいね」
メアリアはくるりと振り返り、腰に手を当てて少しムッとした表情を作ってみせた。もちろん本気で怒っているわけではない。けれど、彼に美味しいものを食べさせたいという「料理人の矜持」が、少しだけ彼を遠ざける。
エドワードは「ちぇっ」と子供のように唇を尖らせ、渋々数歩下がると、調理台に寄りかかってメアリアの背中を食い入るように見守った。
トントントン、と軽快な包丁の音が響き始める。
メアリアが作ったのは、昨夜の彼の「力がみなぎるものを」というリクエストに応えた厚切りのローストビーフ。そして、それを贅沢に挟み込んだ彩り豊かなサンドイッチだ。
「……いい匂いだ。待ちきれないな。今すぐここで食べたい」
「お昼まで我慢してください。外で食べるから美味しいのですよ」
メアリアはふふっと笑いながら、焼き立てのクッキーと一緒にバスケットへ手際よく詰め込んだ。
二人は馬車に揺られ、少し離れた場所にあるエドワードの別邸へと向かった。
そこは高い石壁に囲まれ、外部の視線を一切遮断した「秘密の庭園」。一歩足を踏み入れれば、色とりどりの花々が咲き乱れ、まるで楽園のような静寂が広がっていた。
「まぁ、なんて素敵な場所……!」
メアリアが感激に瞳を輝かせると、エドワードは満足げに目を細めた。
芝生の上に敷物を広げると、エドワードは当然のようにメアリアを引き寄せ、自分の股の間に座らせる。
「さあ、あーんしろ、リア」
「エドワード様、自分で食べられますわ」
「いいから。俺がお前に食べさせ、お前が俺に食べさせるんだ。ほら」
差し出されたサンドイッチを頬張ると、肉の旨味とパンの甘みが口いっぱいに広がる。エドワードはメアリアの手を引いて自分にも食べさせると、至福の表情で喉を鳴らした。
「……美味い。リア、お前の料理にはやはり不思議な力があるな。血を吸わなくても、お前と一緒にいるだけで、身体の芯から力が湧いてくるようだ」
エドワードはメアリアの指先に付いたパン屑を、吸い付くように唇で拭った。その仕草の艶めかしさと、見つめるブルーの瞳の熱さに、メアリアは昨夜の濃厚な情熱を思い出して心臓が跳ねた。
「エド様……。私、ずっとこうしていたいです。あの島での辛いこと、全部忘れてしまいそう……」
「忘れていい。お前の過去は俺がすべて貰い受ける。これからは、俺とお前の未来だけがあればいい。……ここなら、誰にも邪魔されないからな」
エドワードがメアリアを芝生の上へ押し倒し、青空の下で深い口づけを交わそうとした、その時――。
「――殿下! 大変です!!」
側近の切迫した絶叫が、美しく整えられた庭園の空気を切り裂いた。
「沿岸監視塔より緊急報告! メアリア様の母国の艦隊が、帝国の領海ギリギリまで迫っています! 先頭の船の甲板には、間違いなく……小国の現国王、メアリア様の兄上の姿が!」
「……ちっ。しつこい義兄上だな」
エドワードの表情から一瞬で甘さが消え、吸血族特有の鋭く、凍りつくような冷徹さが宿った。
一方、メアリアはバスケットを抱えたまま、かつての故郷がある海の方角を、呆れたように見つめていた。
「もう……お兄様ったら、本当にせっかちなんだから……」
せめて「私は無事です」と手紙を認めて、少し落ち着かせてから……と思っていたのに、まさか昨日の今日で、大艦隊を引き連れて殴り込みに来るなんて。
とはいえ、兄の立場になれば無理もないことだ。魔女扱いされ、辱めを受け、海に身を投げたと思っていた最愛の妹が生きていた。しかも、それを強大な帝国の吸血鬼に「攫われた」と思っているのだ。
ひとえに自分への愛ゆえの暴走。そう思うと、一方的に責めるわけにもいかなかった。
「エドワード様。兄は私を想って行動してくれたのです、どうか責めないでくださいませ。……私に話をさせてください、お願いします」
メアリアはエドワードの大きな手を握り、真っ直ぐに彼を見つめて頭を下げた。
「分かっている。お前の兄は、いきなり攻め入るような真似はせず、領海付近で停泊してこちらの出方を伺っている。決して無能ではないさ。……だが、交渉には俺が行く。お前はここで待っていろ」
「いいえ、私も連れて行ってください!」
「駄目だ、危険すぎる。帝国を敵視している艦隊の前に、お前を晒すわけにはいかない」
「絶対について行きます! 私の過去の決着を、貴方の背中に隠れたまま終わらせたくありません。それに兄には私が話した方が早いです」
「リア!!」
普段は淑やかなメアリアの、譲らない決然とした瞳。それに圧されたのはエドワードの方だった。伝令が焦れったそうに急かす中、エドワードは忌々しげに舌打ちをすると、彼女の腰を抱き寄せた。
「……分かった。だが、絶対に俺の側を離れるな。少しでも危ないと思ったら、強引にでも連れ戻すからな」
「はい。ありがとうございます、エドワード様」
二人は火花を散らすような視線を交わしながらも、一つの意志となって、迎えの馬車へと飛び込んだ。
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