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43話

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 春岳が城に来て、そろそろ二ヶ月になる。

 冬がもうすぐそこまで迫っていた。
 雪が降ると山を出るのも一苦労になる。
 必要物を揃えたり、雪囲い等を済ませてから、希望者は実家等へ里帰りさせる予定だ。
 雪深い土地であるおかげで、冬の間に敵が攻め込んでくる心配は少ない。
 山を超える前に凍死するのが関の山だ。
 敵も来れないだろうが、味方も住みづらくなる。
 殆どの者は家に帰り、残る者は少ないだろう。
 勿論だが、伊吹や千代は残る予定だ。
 


 あれからというもの、春岳と伊吹は良く一緒に自慰する仲になった。

 今でも春岳の閨へ色小姓や女中を時々送るが、毎回送り返されるので、もう皆嫌がって行ってくれなくなってしまった。
 追い出す春岳が鬼のように怖い顔すると言うのだ。
 色小姓の何人かは他に行くと言い出し、来る客人に着いて行ってしまったし、伊吹もそこまで嫌がるなら止める事にした。
 春岳は、この短い間にも友好的な城には戦略を伝授したり、よく効く薬をわける等、更に親睦を深めていた。
 計らずとも色小姓まで良く献上してくれると、喜ばれているし、まぁ、良かったのかも知れない。

 先日、隣国の城が戦になった時などは、少人数だが応援を出した。
 何と春岳自らも赴き、華麗な刀さばきを見せた。
 元々、田方城の伊吹は一人で十人分の仕事はすると評判であったが、春岳に至っては一人で五十人分ぐらいの仕事はしていただろう。
 勿論、着い来ていると気付けば、伊吹が止めていた。
 春岳は気付かれない様に変装し、こっそりと着いて来ていたのだ。
 今や田方城には、伊吹ともう一人、凄く強い奴が居る。と、話題になっている。

 最近では春岳に恋文なども届く。
 麗しき姫君からならば伊吹も喜ばしいが、殆どがどこぞの殿様からだ。
 殿が殿に恋文を送るなど、伊吹としては馬鹿にされている気分である。

 我が殿は確かにかぐや姫の如き美しさ。
 強くて聡明で、眩いが、それはそれは逞しく、勃起した魔羅なんて本当にご立派なんだからな!!
 と、伊吹は憤慨していた。

 勿論、春岳は目目麗しく優しい面影、女性からも人気はあった。 
 一目見れば恋に落ちてしまうだろう容姿に、優しい笑顔だ。
 姫君からの恋文も、勿論、届く。
 だが、春岳にその気が無いらしく、突っぱねてしまう。
 伊吹は、それはもう本当に困っていた。
 伊吹が「一目お会いするだけでも」「文通してみたら如何ですか?」と、提案してみても、春岳は不機嫌になってしまうだけだった。 
 女や色小姓は嫌いだ。自分に恋愛は難しい。等と言う。
 伊吹が世継ぎをお願いすると「考えてはおきます」と、は言うが……

 殿はもう妻を娶って子供を作っても、何らおかしな歳では無い。
 それなのにと、伊吹は本当に困っていた。

 本当に女も色小姓も抱かずに、性欲は自分との自慰で発散するだけ。
 きっとそれも最終手段だ。苦肉の策なのだろう。

 どうにか出来ないだろうか。

 伊吹はいつも悩んでいた。
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